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KÁRYYN: The Quanta Series

2019 / Mute / Traffic
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連続し重なるサウンドが示す、カーリーンの記憶の正体

28 March 2019 | By Koki Kato

複数の像が表れカーリーン自身が幾重にも折り重なる。ピントが合っていないとも言えるそんなアートワークが象徴するように、自身を特定の存在として断定しないような複雑さがある。

その複雑さは私たち人間の誰しもに当てはまるもの、今日まで生きてきた人生は様々な体験やその記憶に基づいて成り立っている。私たちが生まれる前、私たちの両親もそうであったようにファミリーツリーを辿っていけば、そこには無数の人間が枝分かれし、それぞれが数えきれないほどの体験をし記憶を持っていたはずだ。そして、それらが結びつき私たちが生み出された。そんな「私」とはいったい何者か、カーリーンは過去から現在までの自身にまつわる記憶を拾い集めながら音楽を紡いでいく。

『The Quanta Series』は、レーベル《ミュート》の新人カーリーンのデビュー作。新人とは言っても音楽制作のキャリアは長く、オペラや舞台、ゲーム音楽などアート、商業を問わず携わってきた。本作は7年に渡って制作をしていた楽曲群がついにアルバムとなったものだが、リリースまでの間、彼女の関心をひいていたのは自身のルーツについてだった。シリアにルーツがありながらアメリカ育ちのカーリーン、祖母から聞かされたというアルメニアン人ジェノサイドでの曾祖父の斬首、また情勢が芳しくないシリア国内で親類の家が移動を余儀なくされるなど幾つかの事件を見聞きしてきた。何度かシリアに訪れたこともあったが、多くの時間をアメリカで過ごし、二つの国に渡ってルーツを持つ彼女は、ときに過去にさかのぼりながら自身について探求していた。

エフェクトのかかった声が幾重にも反響する。ドラムマシンのバスドラムが細かく連打されたかと思えば止み、また連打される「EVER」。ぱらぱらとシーンが切り替わり、彼女の持つ数多の記憶が交互に現れては消えるようなサウンドスケープだ。また「ALEPO」では機械の起動音がサンプリングされ、MVではカーリーン自身が撮影した映像が細かく編集されている。シリアの親族と過ごした様子を映し出すその映像、リリックには思い出を数値化したいという意思と、記憶の保存と解放を繰り返し歌うように、記憶のコントロールを機械に委ねているようにも思える。そして、どの曲も一貫してロングトーンを多用しリバーブの残響が深く、歌によって彼女の存在感は表出していく。

過去のどんな不幸も幸せも、それらが集合して人間をかたちづくる。彼女は「過去からのカルマが自分にどんな影響を与えているか。私は斬首された曾祖父だったかもしれない。」とその影響を話す。忘れてはいけない記憶がある、それを脈々と伝えるのは口承か写真か映像か…カーリーンにとっては音楽だ。過去からの、遺伝とも言える記憶の数々こそが自身のアイデンティティを生み出すことをカーリーンは知っている。(加藤孔紀)

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