お馴染み歌詞解析サイト、《Genius》で本作の楽曲のページを閲覧してみると、ここ一年とにかく話題の尽きることのなかったラッパーであるはずのリル・ヨッティの歌詞への解説が驚くほど少ないことに気付く(ケンドリック・ラマーのページと比べるとわかりやすい!)。これは彼の歌詞が詳細にリファレンス等を説明する必要がないほどに平易であることを示しているが、「歌詞」という要素はあくまで彼の異端さを示す一つの要素に過ぎず、ご存じのとおり彼は赤い三つ編みヘアがインパクト大なファッションや「ビギーの曲を5曲も知らない」といった発言含めあらゆる面でヒップホップの暗黙のルールを破ってきた。本作でも彼はハードコアなラッパー “Lil Boat” と、現実世界の好青年 “Lil Yachty” を使い分けており、前者ではMetro BoominやMigosとも共演しているが、彼らしさが際立つのはやはり後者だ。レゲエ(「Better」)やディプロによるソフトなEDM (「Forever Young」)、80年代風なシンセ・ポップ(「Brig It Back」)といったサウンド面の大胆な振れ幅の広さが示す通り、こちらが予想できないようなアプローチを試みている。「多様性」へのメッセージ性を示唆したカヴァー・アートに対して歌詞面での成長が追い付いているかは疑問だが、“フードをかぶって横になって星を見よう / それらに何でも名前をつけよう”なんて臆せず歌うラッパーはなかなか他に思いつかない。(山本大地)