台湾発のインスト・バンドがフィジカルに奏でる、人間とロボットの未来
暗闇を裂いて雷鳴が轟き、うごめく大気の中で低くうなり始める不穏な電子音……廃墟と化したガレージを直撃した真夜中の雷が、中で眠っていたロボットを「起動」させる。不可抗力で目覚めさせられた知能ロボットの視点から物質世界、そして人と人の触れ合いなど様々な交流を描き、その果てに心の奥底のシンプルな感情にたどり着く過程を描くRobot Swingの意欲作『SYSTEM BOOTING…』。これがファーストアルバムだというから、その濃密な世界観の完成度の高さには驚かされる。
Robot Swingはクラシック・ピアノを幼少期から学んでいたキーボーディスト鄭昭元をリーダーに、大学時代の音楽サークル等を通じて出会ったギターの洪惟農、ベースの林恩立、ドラムの簡聿民の4名からなる。そのサウンドは、ディアンジェロやJ・ディラといった彼らのフェイバリットからも露わなネオ・ソウルへの敬意と共に、ジャズ、フュージョン、ファンクといったジャンルすらも彼らのクラシカルなバンド・スタイルと非常に高い演奏力でまるごと飲み込んだ、快いビートが特徴的だ。また、今回初めてプロデューサーに迎えたヒップホップ・ミュージシャンLEO37の貢献か、そのビート感覚はより拡張され、特に「RS330(Just the way it goes)」などでジャズ・ヒップポップ的新境地を見せている。そもそも彼らは基本的にインストゥルメンタル・バンドであり、本作もヴォーカル・ワークは全て客演を迎えて制作された。例えば、ロボットと少女の煽情的ラブストーリーでテクノロジー時代の愛と欲望を象徴的に描いた昨年のシングル「AI敢會愛?」(今作にも「My Heart is Plastic 2.0」とタイトルを変えてミックス違いで収録されている)も記憶に新しいが、その際のコラボレーション・パートナーだった陳以恆と洪佩瑜は、今回もスムースなヴォーカルで随所に華を添えている。アルバムの終盤を飾る「Love You Here & Now」は、知能ロボットが辿った人間世界の旅路が帰結する「素直でシンプルな感情」にふさわしい朗らかで素朴なアコースティック・サウンドだ。我是機車少女の凌元耕と李權哲の柔らかなツイン・ヴォーカルが郷愁を誘うこの曲は、タフなアレンジが多いこのアルバムの中でバンドの多様な魅力の一面を垣間見せ、その世界観に深みを与えている。
「未来派」という芸術運動が起こったのは20世紀が幕明けたばかりのことだ。未来派の芸術家たちは機械文明の美を讃えた。産業革命以後の科学技術の進歩を背景に、人々の生活風景のみならず、その感受性までも変貌させた機械と運動のダイナミズムを彼らは愛し、そして自らの表現世界に持ち込もうとした。その100年後、AIが人格や感情を獲得する可能性がある程度真剣に議論されるほど科学技術が成熟した今、機械と人間の関係性に対するRobot Swingの実験的アプローチはまるで現代の「未来派」のようだ。それは未来派による屈託のない機械賛美よりはむしろ、現実とサイエンス・フィクションの境目がスリリングなほど曖昧になってきたこの世界をシニカルな視点とフィジカルな感覚で再現した結果なのかもしれない。(Yo Kurokawa)
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