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upsammy: Strange Meridians

2024 / topo2
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寒天系エレクトロニック、その溶解

26 November 2024 | By Shoya Takahashi

私はupsammyのことを、ひそかに「寒天系/水まんじゅう系エレクトロニック」と呼んでいた。もちろん、『Zoom』や『Germ in a Population of Buildings』の透明/半透明なオブジェクトをあしらったアートワークと、それに紐付けられるような透明感のあるサウンドに引っ掛けての、私的な呼称である。

「寒天系」はupsammyだけの専売特許ではない。ロジック1000(Logic1000)の『In The Sweetness Of You』は言うに及ばず、ニコラス・ジャー率いるダークサイド(Darkside)の諸作やBeta Libraeの『Dayster』(=水滴系)、さらにはロレイン・ジェイムスの『Reflection』(=ゼリー系)なども、その一派に数えていいだろう。それぞれ音楽性はバラバラなれど、どこか共通するフィーリングを兼ね携えているような気もする。

また、アンビエント/ニューエイジ的質感をもつことが多く、Mort Garsonに源流をたどることができる「ボタニカル系/プラント系」として、Green-House『Six Songs for Invisible Gardens』やウラ(Ulla)『Foam』なども、瑞々しい/水々しいイメージから水滴系を経由して一つの系統を形成しているように見える。これらもまた、寒天系エレクトロニックと紐付いた「系」に位置づけられそうだ。

upsammyの『Wild Chamber』がリリースされた2010年代末ごろから、こうしたアートワークを特徴とするエレクトロニック音楽は明確に増加した。特に、昨年から爆発的に流行した美学(aesthetic)系ミーム「Frutiger Aero」はCGや写真における透明感や屈折率のゆらぎに対するフェティシズムが色濃い。そのゆらぎは、2020年前後のアンビエント/ニューエイジ流行とも共鳴し、共犯的にこの傾向を一層補強している。

さて、upsammyの新作『Strange Meridians』だ。クォーツの結晶を思わせる針状の構造体が描かれたアートワークで彼女は、「脱・寒天系」のサインをこの作品に刻んでいる。

前々作『Zoom』や前作『Germ in a Population of Buildings』が、グリッチ〜サウンドコラージュ的な鋭い音の断片を積み重ね、点の連続から線や面を構築していたのに対し、『Strange Meridians』は最初から一つの景色を「面」あるいは「空間」で捉えることをしているアルバムだと言えるだろう。グリッチ的な鋭さは消え、代わりに丸みを帯びたメロディーやニューエイジ的な空間デザインが表現される。それらは「寒天系」の溶解を示すようである、あるいは今年10月ごろから流行しているミーム「MineCraft Clothes」(仮称)のように、CGが解像度を少しずつ上げていくことで、シルクのような滑らかさを獲得していく過程にも似ている。

その細かなビットの粒子に目を凝らしていくと、非常に幅広いグラデーションも見てとれる。「Lapis Manalis」ではクラフトワーク『The Man-Machine』のスペースエレクトロにアンビエントとしての再解釈を促していたり、「Aqualizing」では2010年代UKでフォー・テットからムラ・マサ(Mura Masa)に至るまで連綿と受け継がれてきた繊細な残響のゆらぎを進展させたり、「Spiral Biting Its Tail」ではエイフェックス・ツイン『Selected Ambient Works Volume II』のダークなLiminal Space的な忘我&孤独に誘い込んだり。ただいずれも当代的な、現実/非現実、意識/無意識、ツヤ/マット、など相対する要素の衝突と共鳴を映し出しているように思える。どちらか一方なんてありえない、二項対立は実在しない。やっぱり寒天は、形を保てずに溶け始めてしまったみたいだ。

この原稿を書くために、コンビニで寒天ゼリーを購入した。スプーンですくった寒天の断面は、繊維状にも、波立つ海原にも見えた。固体と液体、複数の構造、形態、次元を行き来するように、upsammyの音楽もまた、その時々の状態変化も受け入れ、変容を続ける。寒天エレクトロニックの溶解、その紐解きはひとまず終了。(髙橋翔哉)


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