アンビエント〜ニューエイジを再考させる若手アーティスト屈指の重要作
Takaoによるファースト・アルバムである本作は2018年6月にBandcampにてフリー・ダウンロードで発表された後、大阪の《EM records》からCDとヴァイナルで発売された。
「濱瀬元彦、武満徹、新津章夫、芥川也寸志、ヤン富田、Sean McCann等々に影響を受けた」とレーベルの紹介文にもあるように、電子音による流麗で緻密な楽曲たちはアンビエント~ニューエイジの再興や、高田みどり、Hirosi Yosimura、INOYAMALANDらを中心に相次ぐ日本人作家の作品リイシューなどの昨今の潮流と切り離して考えることは不可能であり、実際本作を語る上でこうした関係性は数多く触れられている。
ここで注目したいのはこの作品が《EM records》からリリースされたという点である。
1998年に江村幸紀氏が始動させたこのレーベルは、現在に至るまで国、年代、ジャンル問わずありとあらゆるカッティング・エッジな作品のリリースを続けている。近年では俚謡山脈やSoi48といったDJらとタッグを組み、日本の民謡やタイ音楽のリリースも積極的に行いアジア音楽のムーヴメントの中においても大きな注目を浴びている。同時にYPYや7FOを始めとして現行の音楽家のリリースも年々増えているが、こうしたレーベルのカタログにインターネット上に現れた匿名性の高い作品である『Stealth』が加わったことに私は多少の驚きを感じた。
しかし、《Resident Advisor Japan》のインタビューで、「とにかく浴びるほど音楽を聴いてきたし今も聴いています」「音楽そのものの価値という点では、私はすべてのミュージシャンを平等に扱います」 と語る江村氏にとって、レコード棚の奥で長らく眠っていた民謡や古いレコードも、ネット上にアップされる音源も、共に未知の音楽として相通じるものがあったのではないか。3月には昭和30年頃に作曲されたという箏曲『新春譜』がリリースされるというのはまさにこのことを象徴しているし、Visible CloaksのSpencer Doranがコメントを寄せるこの曲と『Stealth』を並べることで時代も作り手の意図も超えた共通項を見いだせることもできるだろう。本作の《EM records》からのリリースは単にネット上にアップされた音源がフィジカル化されたということだけではない重要な意味を持つものだ。(堀田慎平)