パワー・ポップに夢を見た
パワー・ポップに、夢を見てきた。インディー・ロックがその論の正否は如何にせよ、マーケット的にも、批評的にもアクチュアリティを失ったと喧伝された2010年代後半以降において、屈託なくシンプルに、軽やかに、光り輝くメロディーを湛えたパワー・ポップが今まで以上に輝いて聴こえた。
ペンシルヴァニアを拠点として活動するピーター・ギル(ヴォーカル&ギター)を中心とするバンド、2nd Gradeはそんなパワー・ポップへの(極私的な)渇望を満たしてくれた。ヴェルヴェット・クラッシュもしくは初期奥田民生を感じるジャングリーでパワフルなギター。マシュー・スウィート、はたまた家主のようなメランコリックなメロディー。ザ・リプレイスメンツの後姿が見えるソリッドでメロディアスなパンク・サウンド。ドレッシー・ベッシーやオブ・モントリオールといった《Kindercore》周辺のようなローファイの美学とサイケデリアの混交。そして、バンドが敬愛するビッグ・スターやビーチ・ボーイズから受け継いだ至極のポップネスを携えて、これまで彼らは1枚のデモ音源集と2枚のアルバムをリリースしてきた。
バンドにとって3枚目のフル・アルバムとなる本作は、これまでの作品同様、バンドがリスペクトを捧げるガイデッド・バイ・ヴォイシズのようにほぼすべての楽曲が2分以内に収められている。センチメンタルなメロディーが胸を突く「King Of Marvi Gardens」や「Made Up My Own Mind」、ノイジーなエフェクト・ヴォーカルが跳ねるローファイ・チューン「Out of The Hive」、「Like A Wild Thing」、ジャングリーなギターが輝くフォーク・ロック「Airlift」など、エヴァー・グリーンなメロディーを携えた、コンパクトなパワー・ポップ楽曲が次々と耳元に届き、どこまでも駆けていく。全速力ではなく、自分のペースで、飄々と。
ルーツに対する真正面からのリスペクト、奇をてらわないストレートなパワー・ポップ・サウンド、入れ代わり立ち代わりに現れるファスト・チューンのカラフルネスから迸る愚直さと軽やかさ。それは近年のインディー・ロックがどこかに置いてきてしまったものかもしれない。しかし、ロックの輝きを、ロックの夢を支えてきたのは、本作に収められたような刹那的で向こう見ずなイノセンスだったのだと、いま改めて思う。(尾野泰幸)