お互いを結びつける真の姿
ゴシップが12年振りに帰ってきた。あの頃と変わらない力強さを携えながら、よりしなやかになった優しさと共に。
元々ゴシップはフェミニズムを支持するバンドとして有名だろう。90年代のライオット・ガール・ムーヴメントに影響を受けて、ワシントン州オリンピアにバンドの拠点を移したあと、《K Records》からデビューEP『The Gossip』(2000年)をリリースしている。何より、ヴォーカルのベス・ディットーはレズビアンであることを公言し、ライオット・ガール・ムーヴメントの多くがLGBTQであることに励まされ、歌い続けてきた人だ。もっと言えば、自身の体型に捉われないボディ・ニュートラルの先頭に立った人だとも思う。そんなゴシップのブレイクのきっかけになった「Standing In The Way Of Control」(2005年)は当時、同性婚の否決をしたブッシュ政権へと向けられていた。ベスの張り上げる歌声とディスコ・パンクが作り出すグルーヴは、エネルギーの解放だった。この2000年代初頭は、ザ・ストロークスを筆頭に、ヤー・ヤー・ヤーズ、ブロック・パーティー、フランツ・フェルディナンドなどのガレージロック/ポストパンク・リヴァイヴァルの流れも相まって、古い新しいといった様々な価値観が混在していたと感じる。フィールドはとても刺激的だった。ベスの親友、アナが歌うシザー・シスターズや、それまで楽器を弾いたことのないメンバーで結成されたCSS……と多様なDIYスピリットで彩られていたのだから。
こうして書いてみると、過激さを感じる人もいるかもしれない。けれど、ゴシップの音楽には寄り添う暖かさがある。今作で言うならば、BLM運動をきっかけに歌詞を書いたというアルバム・タイトル曲「Real Power」がそうだろう。デモの過激化したポートランドは、現在ではバンドの拠点となりつつある街だ。「顔を見合わせて揺れ/手は拍手している/角の影がじっと立っている」と対立の緊迫を綴っては、「平和のためにここに来たが/殺すために来ただけだ/過密を感じるが/それが好き」とストリートに集う想いを、削ぎ落としたフレーズと共に乗せていく。こうした楽曲は、連帯を呼びかける彼らの姿勢が伺える。かつて、自分たちが励まされたように諦めない望みを込めているようだ。
一方、アルバム中盤〜後半にかけてはフレンチ・タッチを彷彿させる甘美でメロディアスな楽曲が続く。例えば「Edge Of The Sun」は簡素なクラップを軸に、温かなアコースティック・ギターのフレーズとしっとりとした歌声が入れ替わる。前作『A Joyful Noise』(2012年)の華々しい煌びやかなシンセサウンドから一転して、FMシンセのような柔らかさが多くなることで、どこか切なさを感じさせるのかもしれない。続く「Give It Up For Love」の女性コーラスとカッティング・ギターを織り交ぜたグルーヴは、今のゴシップの軽やかさを体現しているようだ。加えて「Light It Up」の淡いシンセの揺れ、時折か細くなるヴォーカルもこれまでの外交的な感情からベッドルーム・ポップの内向性へと行き来しているように思えた。
今作はアルバムを通して柔軟な試みに富んでいる。同時に、これまでもタッグを組んできたプロデューサー、リック・ルービンとの相性の良さを示してもいるだろう。そして何より、今作『Real Power』における表現の充実は、ゴシップの持つ変わらないアティテュードの上にあるのだと再認識するのだった。(吉澤奈々)