ストリートとワイルドサイドを通じて社会と接合する女性SSW
彼女の存在はルー・リードの「ワイルドサイドを歩け」を歌う映像を観て知った。場所は路上。それはまさに「Walk On The Wild Side」さながらにストリートで歌うことで生き生きと人生賛歌を伝えているかのようだった。
南アフリカ共和国ケープタウン出身でベルリン在住のシンガー・ソングライター、アリス・フィービー・ルー。本国では2016年に発売(日本では今年7月)されたアルバムがこの『Orbit』だが、この7月には満員の観客に迎えられて初来日公演も実現させた。僕はそのライヴを観ることができたのだが、そのエネルギー溢れる歌と、誰をも受け入れてくれるような包容力に打ちのめされ、終演後にはそこで売っていた本作のアナログ・レコードも手に取った。
彼女はケープタウン出身だが、ヨーロッパの様々な場所を巡った末にベルリンに行き着いたという。ちなみに、ベルリンはルー・リードにとっても縁の深い町。『Berlin』というタイトルのアルバムもある。Alice Phoebe Louの本名はAlice Matthew、彼女の現在の名前に入る「Lou」はLou Reedからとられているのかも。しかし、ベルリンという街を基点にしながらも彼女の意識はベルリンに限らず世界のそこかしこにあるストリートに向いている。
この『Orbit』を聴いていると、歌声にかかるリバーブの残響はどこか遠い場所を連想させ、ギターやピアノが奏でるアルペジオのリフレインは今日まで続いてきた誰かの記憶を思い起こさせるよう。生活、社会を見つめ直し自由でありたいと訴える「Society」や街の表情が移り変わるとともに自身の旅立ちを決心する「The City Sleeps」と、いずれの楽曲も一人の人間が旅や路上から見つめた景色をもとに歌われている。やはり彼女の意識は常にストリート、そこから見える人間の生活にあるということだ。
先の来日公演では、ジョニ・ミッチェル、エイミー・ワインハウスなど様々なミュージシャンの存在を感じさせながらも瞬く間に変化する歌声で観客を夢中にし、弾き語りの要素が強い本作とは異なるコミュニケーション抜群のバンド然とした演奏が新鮮だった。旅を続け、常に変化する社会を見つめているからこそ、一つの表現に留まらない自由な音楽を奏でることができるのかもしれない。(加藤孔紀)
◼️Alice Phoebe Lou OFFICIAL SITE
https://www.alicephoebelou.com/
◼️Space Shower Music内アーティスト情報
https://spaceshowermusic.com/artist/12575219/