注目すべきはブリル・ビルディング時代を思わせるコーラス豊かな音作り
この人がデビューしてきた時、その退廃的な歌詞世界やストイックに過ごしてきた生い立ちなどがやたら注目されていたが(そして、それはもちろん彼女の作品の大きな生命線の一つではあるが)、一方で、ふんだんに取り入れられたストリング・アレンジや、歌詞の内容の割に瑞々しく、ある種の定型をすごく意識したようなソングライティングの方が個人的にはずっと魅力的に感じていた。まるでブリル・ビルディング時代のソングライターたちに影響を受けたような手法で、世が世ならキャロル・キングにも比肩しうる才能ではないかと思っていたのである。
そして、その予感は本作で飛躍的に確証へと変わった。“Born To Die”から“Lust For Life”へ。この5作目となるアルバムで、まず特筆されるだろうポイントは、イギー・ポップのかつてのアルバムと同じタイトルにも表れているように生きることへの強い渇望だろう。だが、驚かされるのは、それらを立体的で豊かなサウンド・プロダクションで聴かせていることだ。とりわけ、先行曲でもある「Love」、ザ・ウィークエンドと共演したタイトル曲などで取り入れている、60年代のガール・グループのようなコーラスが顕著。フリートウッド・マックのスティーヴィー・ニックスとデュエットした「Beautiful People Beautiful Problems」も、エイサップ・ロッキーをフィーチュアした「Summer Bummer」も、いずれもスロー・テンポでメロディの動きも少なく、曲調こそまるで違うが、その中で実に美しく重層的にハーモニーが積み上げられており、奥行きのある音処理で広角的に仕上げられている。それはまるで、ロネッツにおけるフィル・スペクター、シャングリラスにおけるシャドウ・モートンのようなプロデューサーの仕事を思い出すほどと言っていい。ショーン・レノンとデュエットした「Tomorrow Never Came」を聴いて、ジョン・レノンがスペクターと組んだ『ロックンロール』(1975年)を思い出すのは筆者だけだろうか。
こうした音作りに大きく関与したのは、少なくともタイトル曲に関してはマックス・マーティンだったという。古くはバックストリート・ボーイズやブリトニー・スピアーズ、最近でもテイラー・スウィフトやアリアナ・グランデらを手がけてきたこのスウェディッシュ・プロデューサーに加え、リック・ノウルズといったショウビズど真ん中で仕事をしてきたようなスタッフと長く組んでいることの意味は小さくない。(岡村詩野)
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