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2018/ MATADOR / Beat Records
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ボルチモア出身の18歳女性シンガーソングライターが鮮烈デビュー!〜シンプルなローファイ・サウンドに響く、青春の煌きと淀み

12 June 2018 | By Hiroko Aizawa

こんなにも心地よいローファイ・サウンドがあるのか、と思わず溜息を漏らしながら、耳にこびりついて離れないメランコリックなメロディと、直情的な歌詞に思いを馳せる。スネイル・メイルのデビュー作は、そんな作品だ。

ボルチモア出身、5歳でクラシック・ギターを習い始め、アヴリル・ラヴィーンやパラモアに夢中になった幼少期。その後、MGMTやグライムスに夢中になり、友人のギター講師でもあった元ヘリウムのメアリー・ティモニーにギターの指導を仰ぐことになる。決してマニアックではなく、むしろオーソドックスすぎるとも言える一連の原体験は、シンプルなバンド・サウンドとエモーショナルな表現の共存に影響しているだろう。

クラシック・ギターの技術で養われた、確かな演奏技術によって繰り出される流れるような物憂げなメロディに乗せて、彼女の身に起こった日常の出来事に対する偽りのない感情をシンプルなリリックで表現する。彼女の悲しみや苛立ち、恐怖、一抹の寂しさは、決して感情的になりすぎることなく、それでいて無機質とはかけ離れた絶妙なバランスのヴォーカルに乗せて伝えられる。そのヴォーカルは、自然体とも肩肘を張らない脱力感とも似て非なる、虚飾のない朴訥とした魅力があり、聴く者の感情を揺さぶってくる。

多感な青春時代の恋愛模様や日々抱える葛藤、それは音楽にはありふれた題材かもしれないが、誰の心にも響く普遍的な要素である。この作品を聴くたびに、いくら歳を重ねても、その時代特有のセンシティブな感覚が蘇っては物思いに耽りつつ、前を向いていくのだろう。(相澤宏子)

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