ルーツを見つめ直して見えてきた新たな可能性
現在シカゴを拠点に活動している5人組バンドDivino Niño。彼らのルーツを辿れば、コロンビア、プエルトリコ、アルゼンチン、メキシコ、キューバ、ベネズエラと中南米の様々な所に縁があり、サウンドにもそうしたルーツの断片が感じられる面白さが彼らの特徴の一つとなっている。デビュー作『Foam』(2019年)は、そうした中にカート・ヴァイルやマック・デマルコなどを思わせるドラッギーな揺らぎが心地よい作品だった。それこそシカゴを拠点に活動しており、本作にも参加するなど彼らと繋がりのあるホイットニーやツイン・ピークスの名前を挙げることもできるだろう。2枚目となる本作では、ドラッギーな心地よさはそのままに、レゲトンの中でもネオペレオから影響を受けた楽曲などダンス・ミュージック色の強い作品となった。
彼らにこうした変化を及ぼしたのが、コロナ禍だった。バンドとして集まることが容易でなくなったことを契機に、音楽の作り方がAbletonをはじめとしたプログラミングでの楽曲制作へとシフトした。そうした中で本作の下地として影響を受けたのが、Isabella Lovestory「Mariposa」を中心にBad Gyal、Ms Ninaなどのレゲトンから派生して生まれた「ネオペレオ」と括られている楽曲。さらにデヴィッド・ボウイ「Modern Love」、90年代のベック、ビースティ・ボーイズ、ウィル・スミス「Miami」などが影響を受けた音楽に挙げられている。ボウイの中でもナイル・ロジャースと共作したダンス・ミュージック色が最も強い時期の作品を挙げていることからも、本作の方向性が見えてくる。そしてバッド・バニーの特大ヒットなどを契機に英語に拘る必要がなくなったことや、自らのルーツを振り返った作品でもあったため、英語歌唱からスペイン語歌唱になった。
ネオペレオから影響を受けた「Tu Tonto」をはじめ「XO」、「Ecstasy」などを中心に、彼らの特徴であるサイケデリックでドラッギーなメロディーが、ダンス・ミュージック然としたビートに乗ることでより官能的な楽曲としてアップデートされている。その中でも耽美といえるのが「Drive」だろう。途中でビート・スイッチが挟まれるなど硬軟が交差するこの曲において、ザ・スミスのジョニー・マーを思わせるギターのアルペジオは、アクセントになっているだけでなく、彼らのように多用なルーツを持つ者たちがカルチャーを貪欲に吸収していく過程で、これまで交わらなかったモノが組み合わされていく面白さが体現されていると思う。
コロンビア・ボゴタで一緒に育ったJavier ForeroとCamilo Medinaが7歳の時にマイアミで再会し、Javierが所属していたカルト教会へCamiloを誘い、そこで音楽活動をすることになったのがこのバンドの母体である。そうした環境下で育ったこともあり、ザ・ビートルズを聴いたのも大学でシカゴに出て来てからだそうだ。このような過去を持つ彼らにとって、官能的な歌詞を歌うことは、過去を払拭する部分があるのだろう。特にキリスト教の洗礼を模した「XO」のMVはそれを映像的に風刺していると思う。また「Especial」冒頭での“あなたが望むように”という自尊心を鼓舞するかのようなコーラスや、「I Am Nobody」での“いま私は誰でもないが、何者かになれると信じ始めている”という歌詞なども、こうした文脈を踏まえると自立への鼓舞と言えるのではないだろうか。自身のルーツを見つめた本作により、明らかにこれまで以上に大きな注目を集めはじめている彼ら自身のことも指しているのだろう。(杉山慧)