UKのコロンビア移民としての矜持を示す《XL》からのファーストEP
過去の記事でもたびたびマンチェスターとそのダンス・ミュージックについて書いてきたが、そこで紹介した一人、Florentinoが《XL Recordings》と契約したのは個人的に2022年の大きなトピックだった。そんなFlorentinoが《XL》からEP『Kilometro Quinze』を10月20日に発表したので、そのバイオグラフィーなども含めて紹介したい。
先述したとおり、Florentinoはマンチェスターを拠点とするDJで、コロンビア系のルーツを持つ。彼の両親もアシッド・ハウス・シーンにかかわってきたような人たちだったらしく、そんな環境でFlorentinoも自然とナイトクラビングを楽しむようになり、10年代前半からマンチェスターのコレクティヴであるSwing Tingで活動。テクノやベース・ミュージックの影響を受けたトラックを作りはじめた。しかし、それを聴いた親戚に「そういうのじゃなくてレゲトンを作ってくれよ」と言われたことをきっかけにレゲトン、クンビアとUKのダンス・ミュージックを融合させるスタイルを思い付き、2015年に発表したEP『Tu Y Yo』では、デンボウを取り入れた現在のスタイルをすでに確立している。また、2020年には自らのレーベルである《Club Romantico》を設立。自作のほか、マイアミのNick Leonの作品をリリースしたり、DJ Python、Kelman Duranとのユニット、Sanger Nuevaとしての作品を発表するなど、世界各地を移動しつつ活動を続けてきた。
Florentino『Tu Y Yo』
Sanger Nueva『Goteo EP』
その最新リリースであるEP『Kilometro Quinze』では、先述したDJ Pythonに加え、BAMBIIやShygirl、Baby Cocadaといったゲストが参加した、実験的なダンス・トラックが並んでいる。Florentinoの魅力はラテン・ミュージックの躍動感や下世話さを保ちつつ硬質なベース・ミュージックに仕上げるという二面性にあると思うのだが、特に今回のEPではXLからのリリースという性質もあってかより音数の少ない、引き締まったプロダクションが耳に残る。ちなみに“Kilometro Quinze”(15キロメートル)とはコロンビアにあるFlorentinoのお祖父さんの農場近くを走る道路の名前だそうで、自らの出自をレペゼンする彼の姿勢が窺える。
EPの各曲に触れていくと、まずクリック音を左右に振るイントロで幕を開け、デンボウに乗ってBAMBIIが囁くようなヴォーカルを聞かせる「Constrictor」から始まる。また、同曲とともに先行でシングル・カットされていた「Pressure」は、ダビーな音響のなかで刻まれるビートにShygirlがパトワを乗せ、ゲットーな雰囲気が漂う。この2曲はいずれも近年、注目を集めるDJ/プロデューサーをゲストに招いた歌もので、EPの中心となるトラックといえるだろう。個人的に気になるのはDJ Pythonが参加した「Sicaria」で、これはDJ Pythonのシグニチャーである神秘的なシンセのもと、それを切り裂くように金属的な質感のドラムが暴れ回るようなトラック。中盤2分過ぎからの単音弾きのシンセが入ってくるところは通常であれば下世話になりそうだが、それを抑え、あくまでミニマルな質感で保つところにFlorentinoのバランス感覚が感じられるかと思う。
また、EPのなかで唯一Florentino単体のクレジットである「Con Luz」は、BPM170近い高速のジャングル/ドラムンベースだ。こうしたスタイルのトラックは彼の作品では比較的珍しい気がするのだが、そこに入っているブレイクビーツを聴けばラテン系の高音パーカッションが入っていることに気付かされ、クンビアを思わせる2拍子系のリズムなど含めて、Florentinoなりのドラムンベース解釈なのかもしれないと思わせる。こうした新たな境地も見せる『Kilometro Quinze』は、UKで生活するコロンビア移民としての矜持を感じさせると同時に、自らが根差したルーツからベース・ミュージックを解釈することで新たな音楽が生まれることの可能性を感じさせる。今後も、先述したNick Leon、DJ Python、Kelman Duranといった音楽家とともに、その動向を追っていきたい。(吸い雲)