Review

John Frusciante: : I I .

2023 / Avenue 66
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で、音は聴けているの?

16 February 2023 | By Masamichi Torii

2022年、レッド・ホット・チリ・ペッパーズは、ジョン・フルシアンテの復帰作となる『Unlimited Love』と『Return of the Dream Canteen』の2作品を矢継ぎ早にリリースした。現在はツアー中で、来日公演も控えている。そんな折にリリースされた我らがギター・ヒーロー、ジョンのソロ最新作は、先の2作品のレコーディング中に制作されたものらしい。

この度リリースされた作品は、『. I : 』と『: I I .』の2タイトル。それぞれフォーマットが異なっており、前者がレコード、後者がCDとなっている。内容はおおむね重複しているが、収録時間の関係もあり一部が異なっている。繰り返しを意味する音楽記号のような文字列のタイトルは、それぞれ「ワン」と「ツー」と読むそうだ。

レッチリの魅力はその明快さにあると思う。それは彼らの音楽のみならず、コミックから飛び出してきたかのような4人のキャラクターにもいえることだ。ハイパーアクティヴな半裸の男たちの中にあって、とりわけジョンが見せる音楽そのものに奉仕するかのような思慮深い態度は、ギタリストといえばナルシスティックといったイメージを確実に刷新したし、そうした人物像に憧れたギター小僧も多かったはずだ。

このソロ・アルバムは、我々がレッチリおよびそのギタリストを務めるジョンに期待するものの対極に置かれた作品だといって良い。《Elektron》社製のAnalog Four、Monomachineを用いて制作されたこの電子音楽作品には、リフもなければビートもない。イントロもなければサビもない。むろんギター・ソロなどあるはずもない。

ジョンによれば、レッチリの制作を通じて、コードやリズム、音符、構成や展開といったものにはもう十分取り組んだし、サウンドそのものを提示する作品を作りたかったとのことだ。「する(doing)」のではなく「ある(being)」ことを音楽に反映させたかったらしい。制作中に彼は、クリス・ワトソン、ピーター・レーバーグ、ベルナール・パルメジャーニ、カール・ミカエル・フォン・ハウスウォルフ、ヤナ・ウィンダレン、オーレン・アンバーチ、ハザード、ブルース・ギルバート、クララ・ルイス、池田亮司……といった電子音楽、実験音楽の作家たちの作品を聴いていたそうだ。

1時間43分もあるこのアルバムを再生して15秒ほど経過したとき、頭をよぎったのは「まっすぐな道でさみしい」という種田山頭火の自由律俳句だった。気晴らしを目的として音楽を聴きがちな私は、リスナーの情動を焚きつける気が一切ない音楽を前にして途方に暮れ、しまいには生の悲惨さにも襲われる始末だった。けれども、しばらくしてある疑問が生じた。それはこの音楽が本当に「まっすぐな道」だといえるのかという疑問である。

ロック、あるいはポピュラー・ミュージックは、メロディ、リズム、コード進行、展開、ダイナミクス、テクスチャーの変化を駆使し、緊張とリラックスの間を行ったり来たりさせることで、我々が親しみやすいナラティヴを形成していると言って差し支えない。しかしこの作品にはそうしたダイナミックなメリハリは見られない。とはいえ、決してそこでは何も起こっていないわけではない。単に持続しているだけのように聴こえる電子音も、耳を澄ましてみれば、時間の経過にともない持続音のトーンに明暗の変化があることにすぐ気がつくはずだ。この作品が「まっすぐな道」ではないことは今や明らかである。

蛇行したり、散り散りになったり、横たわったり、蠢いたり、震えたり、明滅したりする音をただ聴く。『Stop Making Sence』ではないけれど、もはや何かに形容するのも野暮に思えてくる。そこで、音をそのままの姿で捉えてみようと試みる。けれども「心ここにあらず」という状態に慣れきった現代人の私にはやや困難にも感じられる。

案の定、気が散って、ぼんやり考えていたのは次のようなことだった。ジョンの取り組みをジョンという人物に還元して考えがちで、彼の音楽そのものをじっくりと聴けていなかったかもしれない。こうした感慨は、この匿名的な音楽の作者が、あのジョン・フルシアンテであるという事実によって逆説的にもたらされたといって差し支えないだろう。『: I I .』は、「で、音は聴けているの?」と我々に問いかけてくる作品だと私は受け取った。(鳥居真道)


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