権威から逃れ、ハートフルなインターネット空間を目指して
「Snooze, you lose!」。現在《The Face》によるTwo Shellのインタビュー記事にアクセスすると、画面に表示される文言である。彼らの音楽活動へのアティチュードのひとつに、徹底的なリアルタイム志向がある。Two Shellは注目を集めているエレクトロニック・デュオであるけれど、彼らに関する情報は少ない。公に共有されているのは、UKアンダーグラウンドが主な活動の場で、サイバーパンク風のヴィジュアルだということくらいである。SNSはリリースごとに定期的に消去されるし、インタビュー記事も12時間ほどで消去された。なぜなのか。インタビューによると、音楽そのものを聴いてほしいゆえの行動らしい。影響力や知名度といった評価軸や、そういったものを生み出す権威あるものから遠ざかりたいという。
大雑把に言えば、テクノをはじめとしたダンス・ミュージックにハイパーポップを混ぜ込んだ音楽というような5曲から構成されている本作。その1曲目「Ghosts」のヴォーカル・サンプル、続く「Pods」のシンセの音質は、他所でも言及されているように、ジョイ・オービソン「Hyph Mngo」のそれらと非常によく似ている。また、彼らが今年1月にデジタル・リリースした「home」のヴォーカルは「Memory」の一部に変容されていることがわかるだろう。これらは実際にTwo Shellに起こったことなのだが、《Pitchfork》のレビューでの褒め言葉が《Boomkat》のレビューで皮肉に転じていたり、冗談でツイートされた内容が大真面目な記事になったり。オンライン上では、こういった齟齬による意味の変容がしばしば起こる。そしてだいたいの場合、より権威がある方の話が広まって、もっともらしいということになる。そういったことを飲み込んだ上で、他の楽曲の変容や、特段珍しいわけではないハイパーポップを混ぜ込んだダンス・ミュージックという手段で制作した楽曲を以って、インターネット上でのよりよい変容のあり方を、彼らはこのEPで見せている。
ただシンプルに、良い音楽をつくり、応援してくれるひとたちに聴いてもらう。これが、オープンで誰でもアクセスが可能な場では、主に権威的なものによって不可能になっていると彼らは判断し、親密で良好な関係の構築を彼らのウェブサイト「shell.tech」で試みている。パスコードを見つけた人だけがログインでき、チャットで交流が行われているのだ。本作の舞台は彼らの仮想都市Shell Cityだが、曲中で読み上げられる言葉 “I will love you”、“I hope you enjoy ride” などは、当然楽曲を構成する要素であると同時に、彼らが望む関係を築いている、あるいは今後そうなっていくリスナーへのメッセージでもあるのだろう。彼らの音楽、そして彼らの音楽を軸につくられていくコミュニティの行く先も合わせて、油断せずに注目し続けたい。(佐藤遥)
※フィジカルはアナログ・レコードのみ(2022年8月現在)
関連記事
【The Notable Artist of 2022】
#4 yunè pinku そこに存在するための内省的なレイヴ・ミュージック
http://turntokyo.com/features/the-notable-artist-of-2022-yune-pinku/