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西村中毒バンド: ハローイッツミー

2021 / NEW FOLK / Mastard Records
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親密な物語性とひらひらと移り変わるサウンドを宿したポップ・アルバム

22 May 2021 | By Yasuyuki Ono

ラッキーオールドサン、台風クラブ、家主、田中ヤコブ、本日休演らを擁し、始動から数年足らずの間に、家主『生活の礎』(2019年)、田中ヤコブ『おさきにどうぞ』(2020年)、本日休演『MOOD』(2021年)などの良作を立て続けに世に送り出したことでいまや国内インディー・ミュージックにおいて最大級の信頼度を獲得した《NEWFOLK》。《NEWFOLK》という名は主宰、須藤氏の“屋号”とのことだが、その須藤氏が主催したイベント《うたのゆくえ》京都編(2019年)にも参加していた京都を拠点とする渚のベートーベンズのドラマー、西村中毒がバンド編成をもってリリースするファースト・アルバムが本作である。

滑らかな絹のようなコーラス・ギターにはじまり、抜け感のあるドラムとベースが全体としてリラクシングな風合いをまとわせる「ハローイッツミー」に、ミニマルな始まりから徐々に空間を占める音の割合を増減させてメリハリをつけながら展開する「春のような冬の日に」。オーセンティックな風合いのパンク・サウンドをもって一気に加速していく「犬」や「Direction」もあれば、「naginohi」では歪んだギター・サウンドをまとったオルタナティブ・ロックが鳴らされ、「何の変哲もない」ではミニマルなアコースティック・サウンドの中でフリー・フォームなパーカッションがアクセントを加える仕掛けもある。そのようにコロコロと変わりゆくサウンド・カラーをもち、あちらこちらを自由に飛び回る本作は、西村中毒が生み出す淡く、メランコリックなメロディーによって纏め上げられている。《JET SET》で販売されていた宅録による多重録音のなかにロマンティックなローファイの美しさをギュッと閉じ込めたソロ作品『DEMO TRACKS』(2019年)や、渚のベートーベンズでの「暇なら飲もう!」に「雨はひとひら」(『フルーツパーラーミュージック』(2015年)収録)、「寂しい日が来ても」(『Oyster』(2017年)収録)といった楽曲群でも存分に発揮されていた西村中毒のメロディー・センスが、本作では変化に富むバンド・サウンドのダイナミズムをもって花開いているといえるだろう。例えるならば、初期くるりの抒情性、サタデイ・グッド・ルックス・トゥ・ミーの透明感のあるサウンドの中にしかと宿る隠しきれないいなたさとメランコリア、パーケイ・コーツのガレージ、ポスト・パンクから現在に継承された熱量。本作から聴こえてくるのはそのような音楽たちである。

本作には一人称と二人称からなる日本語詞が織りなす半径10メートルの世界観を持つラヴソングが散りばめられている。それらの歌はあなたと私が時に重なり合うような、もしくはあなたが私の一部になっているような“ゼロ距離”の物語性を本作に付与するとともに、自らの寄る辺となるような親密な感覚で本作を充たすことを可能にしている。しかしながら、上述したような多元的なサウンドが担保する幅の広い音楽的要素がもたらす多元的な読みの可能性によって、本作は内向きでドメスティックな作風に終始することはない。本作のどこからでも放たれる絶え間なきポップネスの所以は、そのリリックが生み出す物語のいい意味での「分かりやすさ」と、ひらひらと移り変わるサウンドの軽やかさにこそある。(尾野泰幸)


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