プレーンであることに照れがなくなった純粋ポップスとしての強さ
まるで70年代〜80年代のニュー・ミュージックのような。聴く人によってはそう感じるくらいどの曲もメロディそのものがある種の“いなたさ”を持っている。先行曲でもある「セダン」など、確かに後半にはノイジーなギターが飛び出してきて、このバンドの立ち上がりがペイヴメントなどの影響を受けてのことだったことを実感させるが、サビのコーラス・ワークなどはかなりベタにハーモニーの定型にのっとったもの。ポップ・ミュージックの伝統的なマナー…それも日本国内で独自に進化を遂げてヒットの法則にさえなった一定の大衆的スタイルを継承していることに改めて気づかされる。
そこで思うのは、なるほど、だからこそミツメはどんな意匠を演奏やアレンジにほどこしても最終的にメロディの強度が抜群に高いということだ。逆に言えば、サイケデリックだったりアブストラクトだったり…といった過去の作品における様々なアプローチ、優れたプロダクションをもってしても、結局のところ彼らが本質的に持っている純度高いメロディの強さには絶対にかなわないということ。それをこのアルバムは鮮やかに証明してみせている。ほぼ何も纏っていないのではと聞こえてしまうくらいに、これほど旋律がハッキリと軸に置かれた歌モノ作品が届いてしまった今、筆者はもうこう言う他ない。エクスキューズなしに、堂々と「ポップス」と名乗ってしまえ!と。
それを裏付けるものとして、今作のこれまで以上にクリーンな音質もあげられるだろう。レコーディング、ミックスは過去作すべてを手がけている田中章義とのことだが、なぜだろう、歌の位置が前に出て、あえてバッキングに徹しているかのような演奏がその周囲を包み込むような位相になっているからか、これまでの作品とは印象が大きく異なってさえ聞こえる。
ヴォーカルも楽器の一部…などというような表現でうやむやにごまかされてしまうような音作りとは本質的に違う、歌とメロディをてらいなく前に出すことに振り切った潔い作品だ。いい機材、いい再生機器などではなく、あえて劣悪環境のカーステレオとかで聴いてみたい、きっとそれでもこの歌の良さが伝わってくるはず、そう実感する。それこそスピッツの作品がそうであるように。そういえば、ミツメはスピッツの「プール」をライヴでカヴァーしたことがあるという。
メンバーの川辺素がソロとして一緒にライヴをやる機会も多い夏目知幸率いる今のシャムキャッツもそうだが、プレーンであることにもう全く照れがなくなってきているのかもしれない。意識も音も抜け切ったかのような本作を聴いて、ヘンな喩えだが、「アイスクリームはバニラに限る」と断言したくなった。(岡村詩野)
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