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piri & tommy: froge.mp3

2022 / Polydor
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キリトリを前提にしたダンス・ミュージックの形

10 November 2022 | By Kei Sugiyama

TikTokを中心に話題を集め、チャーリーXCXやピンクパンサレスなど話題のミュージシャンがフェイバリットに上げる男女デュオpiri & Tommyのデビュー・ミックステープ。マンチェスターを拠点に活動し、公私のパートナーでもある2人が知り合ってからの1年間の日記的作品。ダンス・アルバムを作りたいというインタビューでの発言をなぞるように、徹底的に繰り返しの美学が貫かれた一枚になっている。

全12曲で36分という収録時間からも分かるように、3分間ポップスを地でいくだけでなく、極端に歌詞を少なくし、意識的にコンパクトにまとめられている。シングルとしてリリースされた「soft spot」、「beachin」、「words」そして「on & on」と、どれもディスクロージャーやピンクパンサレスなど現在のUKガラージ~ドラムンベースが基調となっているが、速いBPMにサビでのワンフレーズによる繰り返しがより楽曲に推進力をもたらしている。「on & on」のサビでの繰り返しは、1回聴けば誰でも理解できてしまうキャッチーさを持っている。「easy」はそうした楽曲の中でも極端で、3分の中でほとんど「easy」しか言っていない、その数なんと約140回にのぼる。楽曲全体でも2つのフレーズだけで構成されており、楽曲の中で足を止めるような展開を極力さけていると言えるだろう。しかし、歌詞に意味がない訳でなく、恋人同士の浮かれた感じを、楽曲と歌詞の両面からこれ以上ないほど上手く楽曲に落とし込んでいる。

歌詞はアルバム全体を通して極端に少ないが、「words」では、言葉にするのが苦手な人とのコミュニケーションをテーマにしているなど、1曲1テーマで、サビは繰り返しによりダンス・ミュージックの即時性を担保している。具体的に言及し過ぎず余白部分を作ることで普遍性と共感を成立させているだけでなく、TikTokなどでの楽曲を使った大喜利的要素も担保しているのではないだろうか。そうした楽曲の中で、「settle」と「sunlight」はギターが良いアクセントになっている。特にアルバム最後に収録されている「sunlight」は、ディスクロージャー「Help Me Lose My Mind」を思わせる清涼感があり心地よい。

これまでに発表した楽曲で唯一本作に収録されていないのが、デビュー曲「It’s a match」だ。本作においてpiriの歌声は基本的に加工されている。しかしこの曲では彼女の声がそのまま聴ける。その歌声はどこかフリートウッド・マックのスティーヴィー・ニックスを思わせる。サウンド面でも、70年代のアイズレー・ブラザーズを代表する一曲の一つ「If You Were There」のディスコ感を下地にしたようなファンキーな楽曲になっている。「sunlight」の途中のヴァース部分でもそうした彼女の歌声が聴けるが、こうした楽曲からも分かるように、BPMを落とした楽曲でも彼女たちには声という別の魅力がある。ドラムンベース・デュオと呼ばれているが、それは彼女たちの魅力の一側面に過ぎない。さらに言うと、この二人での活動が今後も続くとは限らない。わざわざ名前の表記を並列させており、二人が独立したミュージシャンであることを伺わせている。それぞれが別のプロジェクトをやって再びタッグを組むなども考えられる。個人的には、次回作は70年代ソウルを基調にしたような作品を聴いてみたい。まだまだ色々な懐がありそうでそこも楽しみだ。(杉山慧)


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