想像してみて
2012年から音楽活動を始め、ファーストEPは《Maltine Records》からリリース。活動のフィールドや形態の境界を越えて、礼賛、唾奇、tofubeatsらのリミックスや、にしな、cyber milkちゃんなどのアレンジも行っている、トラックメイカー/プロデューサーのPARKGOLF。
2021年のセカンドアルバム『Totem』は、おかもとえみやSUSHIBOYSら複数のゲストを招き、江頭誠の毛布のトーテムをキーアイテムに据え、夜明けから始まる時間の流れがあるようなコンセプチュアルなアルバムだった。自身の作品として、その次のリリースとなる本作『FOLK JUMP』は、ゲストはおらず5曲10分で、PARKGOLFの作るサウンドの多彩さがコンパクトに示されたEPである。
PARKGOLFの楽曲の魅力は、まずその音にある。個々の音に明確な個性がある。テクスチャは、upsammyやTristan Arpといった、ハードウェアも用いダンス・ミュージックとアンビエントの間で制作しているアーティストと近い。そうした音が、びよびよ、くねくねと動きを持っている。
ここで冨田勲「月の光」を聴いたときのことを話したい。ドビュッシーの同名曲をモジュラー式のモーグ・シンセサイザーでリメイクした楽曲である。ピアノでの演奏と比較すると、ピッチベンドなどのなめらかさが際立って聴こえ、そのなめらかさこそがエレクトロニックな音の特徴のように思えた。また、原曲が儚く物憂げな月明かりならば、冨田の場合は傍に浮かんで月を眺めている。そう想像させること、できることに、電子楽器の音は宇宙と結びつけられてきたとはいえ、驚き嬉しくなった。
そのエレクトロニックななめらかさが、PARKGOLFの動きの多い音たちにもある。それが様々なテクスチャと相まって、つるっとしているがなにか手触りが残る音になっているのだ。これは「SPICE (feat. FARMHOUSE)」(2019年)から続くnico itoによるアートワークにも共通する感覚だ。今作はゆったりしているので、個々の音が耳に入ってきやすい。
先述のupsammyやTristan Arpともっとも異なるのは、それらの音が集まって、フューチャー・ベース〜バブルガム・ベース的なチャーミングさを独自に発展させた楽曲になっているということである。upsammyやTristan Arpの作品には植物や水のイメージが伴う。でもPARKGOLFの作品はそうではない。音が多様でそれぞれの動きがあり、エモーショナルで歌うようなメロディーがある。ぽちゃぽちゃと喋ってみたり、牛のように鳴いてみたりするユーモアもある。植物や水などの雰囲気もあるが、より我々に近い、でも我々とは違うもののようである。ちょうど昔の妖怪はモウと唸っていたような。
しかし、インスタグラムの投稿によると「Shooting Star」はインドで星を見たときの実体験が元となっている。つまり「Shooting Star」の、このきらきらとしたあたたかさは、ここにあるということである。だからたぶん、このEPから聴こえる、ひゅるひゅると広がる壮大さも、奇妙で陽気な感じも、ゆっくりとさみしさが流れていく穏やかな心地も、我々と違うものというよりは、知らないだけで、気づいていないだけで、ここにあるのだ。
そういえば祖父の新盆で近所の人たちが賑やかに話す横で、お供えの海老の天ぷらのしっぽが棚からのぞいていたな。(佐藤遥)

