アンビエントとロックを交錯させるNYの才媛
Spotifyからサジェストされたダイアナ・ロペス「To The Man Who Reminds Me of the Ocean」を聴いて、繰り返されるシンセのフレーズから感じるニューエイジと、彼女の透き通る歌声が重なるサウンドにすっかり魅了されてしまった。まだほとんど無名に近いということもあるが、昨年2018年にリリースされた時点ではこの曲を聴き逃してしまっていた。2019年6月現在、彼女はすでに本作『Fluidity』を含むEP3枚、アルバム1枚をリリースしている。サウンドクラウドでの配信をメインにしながらガレージバンドで制作を行っていた彼女だが、2018年リリースの「To The Man Who Reminds Me of the Ocean」以降は、各サブスクリプション・サービスへの配信を開始しするなど少しづつ認知されてきた。
2016年からリリースを開始したダイアナ・ロペス、EP『Soul Searching』ではMPCなどの楽器を使用しながらR&Bやヒップホップなビートにのるソウルフルな歌声が、同年にリリースされたジャミーラ・ウッズの『Heaven』にも通じるサウンドになっていた。翌2017年にリリースされたEP『ambivert』、続く2018年にリリースされたアルバム『Foreign Space』ではそれまでと比べて歌は強調されず、リバーブがかかったぼんやりとしたボーカル、よりシンプルなビートにシンセサイザーを使用してアンビエントなサウンドへ変化していった。弱冠23歳、にも関わらず彼女のアーカイブを辿ると短い期間の中で表現されるサウンドは多岐に渡り、まるであらゆる音楽にトライすることそれ自体を楽しんでいるようでもある。
新作EP『Fluidity』では、前作までのシーケンサーやサンプリングを用いた宅録指向のサウンドではなく、本作のために録音されたギターやドラムが印象的なロックな作品に仕上がっている。例えば「Blu」のエレキギターは低音弦を強調したロックギターなサウンドになっているし、「Purple Haze」と聞けばどうしたってジミ・ヘンドリックスを連想させるように冒頭のリリックはヘンドリックスの楽曲とまったく同じだ。「LAX」の歌詞ではニルヴァーナについての描写もある、随所にロックの匂いが散りばめられている。しかし、ヘンドリックスやカート・コバーンのように歪んだギターや特徴的なギターリフがあるわけではない。あくまでダイアナ・ロペスとしての、前作までにあったようなアンビエントを引き継ぎながら表現するロックサウンドが見事なのだ。
本作では、ロックとアンビエントを行き来するような絶妙なサウンドが成立しているが、共作としてクレジットされライブでも演奏を務めるドラムのDevoye Folkes、ギターのAren Flowerの貢献が大きかったようだ。特に、Devoye Folksのソロ・ワークを聴いているとドラマー、トラックメイカー、DJとして活動しながらハウス、エレクトロニカ、アンビエントなど活動は多岐に渡っており、プロデューサーとして本作に関わったことも頷ける。Devoyeとダイアナは、リベラル・アーツ・カレッジとして知られ芸術専攻も多いニューヨーク州立大学パーチェス校の出身だという。マンハッタンはじめ中心部の地価が高騰した結果、ニューヨークからアーティストが離れているという話を聞いていたが、パーチェスなど郊外のコミュニティからは素晴らしいミュージシャンたちの萌芽が生まれている。彼女とその周辺のコミュニティから目が離せない。(加藤孔紀)