アジアツアー目前!日常に潜む、破壊と再生の歌集
破壊と再生。分解と再構築。こと芸術においてよく耳にする言葉は、世の中に深く根を張っていた差別問題が顕在化する昨今を生きる我々にこそ必要で、心の奥底で皆が希求しているものなのかもしれない。この『CIRCUS CIRCUS』を聴きながらそんなことを考えるのは、少しばかり大袈裟だろうか。
今作はゆるふわギャングとトリー・レーンズやジェイミー・アイザック、ミツキらとも仕事をするカナダの人気プロデューサー、ライアン・ヘムズワースが手を組んだジョイント・アルバムで全7曲のEPサイズ。出世作『Mars Ice House』、前作『Mars Ice House Ⅱ』と緩やかに繋がってはいるものの、そこにあったカラフルで陶酔的音像は削ぎ落とされ、よりラウドに、より疾走感に溢れたものになった。前作に収録の、こちらもヘムズワースが参加している「Speed」のサウンドを聴けばわかるように、本作の楽曲の大半はそこにある畳み掛けるラップやバウンシーなビートが叩き台になっているとも言えるだろう。
そして今作で陶酔とともに削ぎ落とされたものがもう一つ。それは、こちらも前作に収録された「Antwood」の「神様どうか答えを教えてください幸せとは」というラインに顕著な神頼みにも似たある種の逃避的リリックで、本作での彼らは徹底して自身の主権を譲ることはない。それによってつまびらかになるのは明確な線引きで、言い換えるなら“フェイク”と“リアル”の差異だ。中でも「Smokin’ Like A Yurufuwa」での「全部繋がってるガイダンス/それもわからない奴」というNENEのラインと「何にもできないお前は/てめえで周りが見えないから」というRyugoの叫びは、全てが繋がり世界を形作っていることへの無理解とその行動の判断を他者を担保にすることを否定する。ヴァースの頭で響く「壊せ何もかも/全部砕いて巻き直せ」というRyugoの咆哮も、単なる破壊衝動でも、ただのジャンキー的思考(もちろん彼らはウィードを愛しているかもしれないが)でもない。あなたの選択ひとつひとつにそれまでの価値観を見直し、再構築するという行為、まさに破壊と再生が宿ることを伝えている。つまり、自らの価値基準で選択しているか否かが境界線だ。
過去を振り返る「Daydreaming」、そして本作の中では最もAutomatic色が強く出たサウンド・スケープの「Vacation」に辿り着くまで5曲。タイトルの通りサーカスのごとく突き抜けたサウンドと言葉に心踊らせながらも、リスナーはその選択が、その行動が、主体的であるかを自問自答し続けるが故に、聴き終わったあとに残る感覚はひどく重たい。それは、性暴力や公務員の隣国への差別、入管での人権無視…そんなことが日常的に起こる国で生きている我々に鋭く突き刺さるからであろう。「こんな世界にもううんざり…」そんな声が漏れそうになるけれど、ひとりひとりがその一端であり、変化を求めるのならまず自分が変えなければ。そう、本作はタイトルのような虚構とは正反対の、日常に潜む破壊と再生へと我々を立ち向かわせるのだ。そんな彼らは明日からアジアツアーへと旅立つ。変化を掴み取る存在は実に心強いじゃないか。(高久大輝) ※本作のCD販売なし
▪️ゆるふわギャング Official Site
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