柔らかなメロウネス、しなりの効いたグルーヴ
タンジェリンは、オランダの首都アムステルダムから100マイルほど離れた街フレヴォラントに生まれた、ブリンクス兄弟によるデュオ・グループだ。一卵性双生児である彼らは、幼少期から共に音楽に親しみ、同じように楽器を取得し、デュエットを重ねてきた。その歌声は、彼らがアイドルとして名を挙げるエヴァリー・ブラザーズやビーチ・ボーイズ、ビー・ジーズなどのファミリー・グループと同じく、ぴったり重なって混じり合い、ごく美しいハーモニーを描く。
2002年の自主制作盤リリースを足がかりに地道な活動を続け、2013年以降は地元オランダの名門インディー・レーベル《Excelsior Recordings》から充実作を立て続けに発表するなど、じわじわと国内での人気を高めてきた。近年では国内主要フェスへ立て続けに出演しツアーも成功を収め、アーティストとしての定評を確立している。
本作『Blank Cassette』は、そんな彼らが約5年ぶりにリリースした久々のオリジナル・アルバムだ。これまでの彼らは、息の合ったハーモニーとアコースティック編成を主体とした楽曲から、しばしばサイモン&ガーファンクルを引き合いに出されるインディー・フォーク系のデュオとして評価されていたが、本作ではそのサウンドを大胆に一新し、ウェストコースト・ロック~AOR路線へと舵を切っている。
アルバム冒頭の曲「The World We Live In」からして、名作『Main Course』(1975年)以降のビー・ジーズを思い起こさせるような柔らかなメロウネスが全開で、そのスジのリスナーなら一気に惹き込まれること必至だろう。こうした路線は、曲を聴き進めていくうちにより一層顕著となっていくが、好感が持てるのは、何よりも素晴らしく親しみやすいメロディーが全編に渡って敷きつめられているという点だ。こういうノスタルジックな音楽性を自覚的に展開するアーティストの作品に、テクスチャーばかりに力点が置かれがちでコードワークやメロディーの練度が足りない例が少なくないことに鑑みれば、彼らのソングライティング力の高さは特に注目すべきものだろう。
また、イーグルスやロギンス&メッシーナ、シルバー、アメリカなど、彼らが特に参照しているであろう1970年代中盤~後半のウェストコースト・ロック系の(いい意味でほんの少しの野暮ったさを孕んだ)演奏の再現度も、かなり堂に入ったものだ。しなりの効いたグルーヴが実に小気味よく、あの当時のプレイヤーたちのノンシャランとした演奏のニュアンスを上手く混ぜ込むことに成功している。
一方で、よく聴いていくと、ところどころにインディー・フォーク~ロック的なメロディー、アレンジが顔を出しているのにも気づく。このあたり、かつてキャレキシコと組んだ作品(2016年の『There And Back』)を作り上げた実績を持つこのデュオの矜持が覗くようで、ほどよい個性となっている。AORファン、インディー・ロック・ファンの両方に推薦できる良盤だ。(柴崎祐二)