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AKANE: Badaaz

2022 / Magnum Records
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尽きることのない探究心が生んだ最新版ダンスホール・レゲエ

20 June 2022 | By Nao Shimaoka

ダンスホール・レゲエが誕生してから約30年以上が経った今。同ジャンルを国内で長年牽引してきたアーティスト=AKANEが、「2022年のダンスホール」をテーマにしたEP『Badaaz』と共に降臨。3年前にリリースされた前作『AkaneAMG』では他ジャンルの要素も積極的に取り入れてきたが、今作ではパンデミックを経験して自分なりのダンスホールを見つめ直し集約した4曲で挑んでいる。

「カッコいい/イケてる」の他「荒くれ者たち」などの意味も持つアルバム・タイトル『Badaaz』の音楽は、まさにその名前通りのダンスホールとヒップホップの融合だ。作品は重厚感のあるベースが特徴的なビートの上で、AKANEがパトワ語と英語を混ぜて妖艶に歌い上げるトラック「Hooked On You」で始まる。続くRudeBwoy Faceが客演する「美味美味Smoke」は今作でヒップホップ要素が最も感じられる楽曲だ。快楽の世界を遊び心満点なリリックで表現しており、特に中毒的なリディムと、AKANEとRudeBwoy Faceのトリッキーなフロウは相性の良さが光っている。

「ダンスホール」がメインテーマ故に、「楽しく踊れる」だけではなく、反骨精神がエレメントでもあるレゲエの精神性もAKANEは忘れていない。鋭いキック音が怪しげなトラック「BADAAZ」では、コロナ以降顕著に多発するアジアン・ヘイトに対して抗議の姿勢を見せている。「全てのレイシストに言わせて/もし私がアジア人ってことを理由に差別をするなら/私はあなたの左目にワサビを入れる/そして右目に刀を向ける」と怖気づにラップするシンガーの姿はなんとも頼もしい。

EPの幕を閉じる「New Day」は、過去に囚われずに今と未来の自分やその世界に目を向けることを歌ったメロディアスなアンセムだ。「過去の栄光も明日にはFar Away」と言うフレーズには、自身のみならずリスナーや周りの人々へ向けて意味を込めているとAKANEは言及しており、不安定な世の中に生きる現代人に響くリリックに仕上がっている。

EPは4曲とミニマルな構成ながらそれぞれの楽曲が異なったキャラクター性を発揮しており、ダンスホールを愛するAKANEの意欲と強気なアティチュードが存分に楽しめる作品に完成されている。過去数年の間、国内ではヒップホップが権勢を振るう中、他ジャンルも実験的に取り入れながら、本場ジャマイカに何度も足を運び曲を作り続けてきたシンガー=AKANEは長い間ダンスホール・レゲエにこだわり続けてきた。『Badaaz』はそんなAKANEが生み出した彼女なりの最新版ダンスホール・レゲエであり、尽きることのない彼女の音楽への追求心を表現した作品である。(島岡奈央)

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