インディー・ポップに重ねた若きドキュメンタリー
ブレイズヘアが印象的なテキサス州メスキート出身のSSW、ハナー・ジャダグはポップ・ミュージックの技巧を19歳にして早くも身につけている。高校在学中に《Sub Pop》と契約、SoundCloud上に楽曲をアップロードしたのをきっかけに話題となっていた。それでもジャダグはマイペースで落ち着いているようだった。その様子は、2021年にリリースされたEP『What Is Going On?』の制作から伺える。録音機材はiPhone7のGarageBandとiRig、マイクとギターというシンプルさ。SoundCloudでRelaxingのタグを貼って投稿していた彼女の姿はベットルーム・ポップの言葉がぴったりだ。時に自然体のままに、ストレートな歌詞へと表現することもあった。『What Is Going On?』のオープニング曲「My Bones」はアメリカの黒人女性として感じる差別を、国や世の中に向けて〈私の骨を持って家に置いてもバレない〉と突き出している。彼女の真っ直ぐさはストイックに感じるほどで、現在はニューヨーク大学で音楽を専攻しているという。ビーチ・フォッシルズやワイルド・ナッシング、アーロ・パークスのオープニングを務めるなど、新鋭のインディーポップ・アーティストに注目した。
まず、このデビュー作『Aperture』はシンセやリズムのアレンジが特徴的だ。言ってしまえば全体的にミディアムテンポの構造が多い中で、アレンジは大部分を占めるのかもしれない。それでもポップス、R&B、オルタナティヴと細やかにリズムパターンを移す手法は前作のEPにはない変化だろう。例えば「Warning Sign」の速度を落としたブレイクビーツ然り、交差するドラムパターンの生み出す揺らめき。「Scratch The Surface」は80年代ポップスの如く、跳ねるバックビートがどこかノスタルジックな印象を残している。
一方で、アルバムを通して一貫した質感のハーモニーが微睡みをもたらす。ふわりと舞うオーガンジーのように軽やかなヴォーカル。淡く重なるレイヤーから想起するのは、同レーベル《Sub Pop》のビーチ・ハウスが放つドリーム・ポップだ。この優美なハーモニー作りにおいては幼少期から教会に通い、聖歌隊で歌った経験から得たのだそう。実際に「Explanation」と「Letter to My Self」は信者と教会にまつわる内容の楽曲で、ジャダグが教会から離れるきっかけを綴っている。キャッチーなメロディーライン、身の回りの出来事を綴る歌詞、目眩く展開とポップソングに欠かせない要素を表したのが本作『Aperture』と言える。
ハナー・ジャダグが創作する音楽は現在進行形のドキュメンタリーのようだ。思えば先に挙げたビーチ・ハウスも、ギター、オルガン、ドラムと簡潔に楽器を揃えてのスタートだった。今やゴシックの神秘性と独自のスケールで包みこむ《Sub Pop》の中でも確固たる存在である。耳に残るポップスが大好きと話す若きアーティスト、ハナー・ジャダグは更に音楽スタイルを拡げていくはずだ。彼女の進化するソングライティングを楽しみに耳を澄ましたい。(吉澤奈々)