90年代スタイルのヒップホップも咀嚼するUK注目のシンガー・ソングライター
弱冠16歳のUK注目のシンガー・ソングライターのセカンドEP。彼はテーム・インパラやマック・デマルコ、そしてレックス・オレンジ・カウンティなどの流れから出てきたサイケデリック指向を持ったシンガーソングライターと言われている。事実、サビでの“STOP THINKING”のコーラスがMGMT『Oracular Spectacular』にも似たサイケデリアを思わせる「Stop Thinking (About Me)」、打ち込みのビートに合わせて軽くラップをするような歌い方などヒップホップの影響を感じさせる部分と、主軸となるギターの少し儚げなメロディーがマック・デマルコを思わせる「Busy」、ヘロヘロなギター・ソロが心地よい開放的な「Tragic Love」…と、本作4曲中3曲からは、確かに彼のそういった側面がうかがえる。
しかし、本作で重要なのは「Sunday Morning Cereal」だ。ロウ・ファイなシンセサイザーの音と打ち込みのビートなどから伝わるのはドクター・ドレへのリスペクト。実際、本作を作るにあたって90年代のヒップホップをよく聴いていたと彼はインタビューで語っている。こうしたヒップホップから影響を受けたシンガーソングライターとして思い浮かぶのは、チャンス・ザ・ラッパーやNoname、ジェイデン・スミスなどとも共演するRaury…中でもRZAをフィーチュアした「CPU(feat. RZA)」だが、まだ16歳のAlfieにとって90年代のヒップホップは生まれる前の、言わば後追いの音楽。まだまだ成長過程であることを踏まえると、この方向性に落ち着くことなく、今後作風や趣向が変化していくことも十分ありえるだろう。だが、今はこの90年代スタイルのヒップホップをとりいれるチャレンジが新しい試みとして奏功している。
こうして彼は日々のトライ&エラーの中で起こったことをモチーフにして無我夢中で作品作りに向き合っているのだろう。そうなるとますますこれからの活躍が楽しみになってくる。例えばファンク色をより打ち出したりした彼なりのアンダーソン・パーク解釈な楽曲なども聴いてみたいし、コラボしたいというレックス・オレンジ・カウンティのように、タイラー・ザ・クリエイターとの共演でその手腕を発揮していってほしい気もする。変化の一片がそのまま閉じ込められた本作を聴いていると、今後の彼の動向が、あるいはそのままUKのこれからを担っているのでは?とも思えてくるのだ。(杉山慧)