コートニー・バーネットは、世界的大ブレイクを果たしたデビュー・アルバム『サムタイムス・アイ・シット・アンド・シンク、サムタイムス・アイ・ジャスト・シット』(2015年)から、3年ぶりとなるセカンド・アルバム『テル・ミー・ハウ・ユー・リアリー・フィール』を5月18日に発売!そして早速、新作から中毒性の高いパンク・ロック・アンセム「Nameless, Faceless」のミュージック・ビデオを公開。このシングルは、ネット上の終わりなき匿名の人々によるハレーション現象を怒りや皮肉の感情とともに表現し、彼女にとって歌というベストな道具を使って、その現象に応戦した曲だ。
2015年に発売されたデビュー・アルバムは、その年の「アルバム・オヴ・ザ・イヤー」の上位を席巻し、グラミー賞「最優秀新人アーティスト」へのノミネート、ブリット・アウォード「インターナショナル女性ソロ・アーティスト賞」の受賞、その傑出した歌声やウィットに富んだ感性、時折見せる無邪気でユニークな観察眼は高い評価を獲得し、新世代を代表するアーティストとなった。また昨年は、盟友カート・ヴァイルとコラボしたアルバム『ロッタ・シー・ライス』をリリースし、こちらも高い評価を受けている。
そして、前作の大ブレイクを経て新作はどんな作品になっているのだろうか?
新作では、意外ともいえる変化を軽やかに見せている。問いかけ?、それとも命令調なのか独特なアルバム・タイトル、いつもと違った表情を見せるクローズアップで撮られたセルフポートレイトのジャケット写真、そしてこの作品には、今までになかった素直さ、骨太な演奏、優しさに溢れる歌声、そして力強い歌詞が響く。言うなれば、自身の音楽的進化において注目すべき新たなフェーズに入ったのである。
今の彼女からは言葉数を減らしながらも逆に多くのことが伝わってくる。かつて彼女は自身のフィルターを通した視点から世界を眺め歌っていたが、新作は、善人たち、悪人たち、愛する人々など、彼女に関わる色々なものに視点を移して歌っている。それらは親しい人から全く知らない人まで、実に様々な範囲まで及ぶ。
ファースト・シングル「Nameless, Faceless」は、その歌詞一つ一つが印象的だ。「アルファベットが入ったスープを飲み込んで、君よりもっと上手な言葉を吐き出せたらいいのに」。このネット上の醜い現象が現実世界において、誰もあずかり知らないところでひっきりなしに人々の安全を脅かすようなことになっていなければ、ただの喜劇で終わるのだが、現実には頻繁に起こっていることである。カナダの女流作家マーガレット・アトウッドの言葉から借りた一節がコーラスとなってまさにそのことを描き出している。
「僕は誰もいない暗闇の公園を歩いて行きたい/女性に笑われるのを怖がる男性がいる/私は誰もいない暗闇の公園を歩いて行きたい/男性に殺されるのを怖がる女性がいる/私は手にしっかりと鍵束を握っている」
今現在においてもクレヴァーで捻りの効いた言葉使いやストーリー性溢れるその着眼点は全くもって変わるところがない。
彼女はよりシリアスで外界へ向けたトーンで現在の社会情勢を切り取っていながらも、彼女の持つメロディアスで中毒性高い旋律は今もって健在である。