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「You Are My Sunshine」90年の歴史
第二章
You Are My Sunshineとモータウン

29 April 2023 | By Kei Sugiyama

1962年、レイ・チャールズによる「You Are My Sunshine」(ジミー・デイヴィス)のカヴァーが大きな転換点となったことは前章で触れた。翌年1963年には、モータウンのヴォーカリストとして頭角を表してきたマーヴィン・ゲイがライヴ版としてこの曲のカヴァーをリリースするなど、ここからYAMS楽曲がR&Bにおいて目に見えて量産されていく事となる。特に1964年頃からは「You Are My Sunshine」(ジミー・デイヴィス)のカヴァーではなく、オリジナルの楽曲が増えていく。この頃のYAMS楽曲を以下に列挙する。1964年はバック・オーウェンス「My Heart Skips a Beat」、ザ・テンプテーションズ「My Girl」。65年は、フランク・ウィルソン「Sweeter As The Days Go By」、ビリー・プレストン「My Girl」、弘田三枝子「Sunny」、ザ・シュープリームス「Everything Is Good About You」、ザ・ビートルズ「The Word」などである。ボビー・ヘブによって書かれた弘田三枝子「Sunny」は、現在462ヴァージョンのカヴァーがリリースされるほどのYAMS楽曲を代表する一曲である。

上記について特筆すべきは、モータウン作品が多いことである。ザ・テンプテーションズ、フランク・ウィルソンとザ・シュープリームス、ビリー・プレストンもモータウン楽曲のカヴァーである。この頃プレストンはレイ・チャールズのサポートメンバーとしてツアーを周っていたことも、YAMS楽曲歌唱と関係しているのかもしれない。少し話がそれたが、ポップス生産工場としてのモータウンによる働きが大きかったことが伺える。それを示すように、スティーヴィー・ワンダーは「Angel Baby (Don’t You Ever Leave Me)」(1966年)、「I’d Be a Fool Right Now」(1968年)、「Sunny」(1968年)、「Angie Girl」(1969年)と3年間で4曲ものYAMS楽曲を立て続けにリリース。ダイアナ・ロス&ザ・シュープリームスは「Honey Bee (Keep On Stinging Me)」(1968年)、モータウン楽曲の「My Girl」をジャッキー・ウィルソン&カウント・ベイシー(1968年)とスモーキー・ロビンソン&ザ・ミラクルズがそれぞれをカヴァーした。このようにモータウンの楽曲がYAMS楽曲の中心となっていたことが分かる。

そうしたモータウンの様子が窺える面白い録音がある。それはフォー・トップス「Wonderful Baby」(1967年)だ。当時リリースされたテイクでは「You are my sunshine」のフレーズはカットされていたが、2005年に蔵出し音源としてリリースされた「Wonderful Baby – Alternate 1」では、サビ部分でバックコーラスと共に「You are my sunshine」と歌っている。これだけ多くのYAMS楽曲をリリースしていること、ボツテイクの中にもこうした音源が存在することなどから想像するに、当時モータウンにおいてこの“You Are My Sunshine”というフレーズが一つの決めゼリフ的に使われていたことが言えるのではないだろうか。

70年代に入るとモータウンにある変化が起こった。それはマーヴィン・ゲイやスティーヴィー・ワンダーなどが楽曲制作のコントロール権を徐々に獲得していき、自ら楽曲を制作するようになったことだ。その中で生まれたのがYAMS最大のヒット曲と言えるスティーヴィー・ワンダー「You Are My Sunshine Of My Life」(1972年)だ。多くのYAMS楽曲を制作してきたレーベルであるモータウン、その中でもとりわけYAMS楽曲を歌ってきたシンガーである彼は、最もYAMSに拘ってきたミュージシャンとも言える。彼がYAMS楽曲を歌う背景には、レイ・チャールズと同じく盲目の彼が歌うことにより、物事を視覚で捉えるための光という言葉に、表面的ではない内面の魅力という意味も付け加わることも関係しているだろう。YAMS楽曲は彼が歌うからこそ、楽曲に多義的な意味が付与されると言えるのではないだろうか。さらに彼は翌年に「Golden Lady」(1973年)というYAMS楽曲をさらに発売するなど自ら好んでYAMS楽曲を歌っていることが伺える。

モータウンは70年代に入りデトロイトからカリフォルニアへと拠点を移すが、マイケル・ジャクソン「Ain’t No Sunshine」(1972年、ビル・ウィザースのカヴァー)、ザ・ミラクルズ「You Are Love」(1974年)、ジャクソン5「You’re My Best Friend, My Love」(1976年)、ダイアナ・ロス「You Got It」(1977年)とYAMS楽曲を定期的にリリースしている。ここには拠点を移しても彼らの中で変わらないフィロソフィーの一部としてYAMS楽曲を意識していたという事かもしれない。(杉山慧)

筆者作成のプレイリスト
第二章 You Are My Sunshineとモータウン

短期集中連載
「You Are My Sunshine」90年の歴史

第一章 You Are My Sunshineとレイ・チャールズ
第二章 You Are My Sunshineとモータウン
第三章 You Are My Sunshineとディスコ
第四章 You Are My Sunshineとヒップホップ
第五章 You Are My SunshineとR&B
第六章 You Are My Sunshineとゴスペル
第七章 ダニエル・シーザー「Best Part (feat.H.E.R.)」とその後
まとめ

「You Are My Sunshine」90年の歴史 扉ページ

Text By Kei Sugiyama

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