ヴァンパイア・ウィークエンドが見つけたラップ時代におけるバンド・サウンドとは?
ヴァンパイア・ウィークエンド(以下、VW)は、バロック、アフロ、サイケ、そうした音楽の歴史と積極的につながることで自らを更新することに成功してきたバンドだ。そのことが「インディー・ロック」という10年代後半に急速に求心力を失った枠組みに閉じ込められ、過去の遺物になることからバンドを救ってきた。
それでもラップがポップの中心に陣取り、ギターロック・バンドがその存在意義を問われる時代において、VWは今、2つの問いに向かい合っている。「オーセンティックなソングライティングは未だに有効なのか?」、そして「ラップ時代におけるバンド・サウンドとはいかなるものか?」という問いだ。
新作からの第一弾シングルになった「Harmony Hall」と「2021」は正にこの2つの問いへのアプローチを示していた。流麗なギター・アルペジオとVWらしいメロディを持つがモダンなプロダクションの「Harmony Hall」、細かく刻んだハイハットと曲の極端な短さが明らかにトラップにも顕著な昨今のプロダクションを感じさせる「2021」。こうした構成に彼らなりの解が現れていたように思う。
そして一昨日リリースされた第二弾シングルが「Sunflower / Big Blue」。オーセンティックなソングラインにモダンなプロダクションは今回も見られる。「Sunflower」はサイケ好きらくグレイトフル・デッドの「China Cat Sunflower」をモロに引用しているとはいえ、プロダクションは一見不釣り合いなプラスティックさで不思議なバランスだし、ギターとユニゾンするベースもかなり全面にでたミックスで、それをなぞるようなビートのほうが聴き手を前に運んでくれる作り。ただメロディラインはこれまでのVWと地続きにある安心感もある。そして「Big Blue」はビートルズの「Revolver」期を想起させるような美しいギター・ストロークとメロディにDJダヒのプロダクションという掛け合わせだ。
加えて興味深いのはギタリストの起用法。「Sunflower」ではケンドリックとも仕事をした最新のヒップホップ/R&Bを代表するプレイヤーである若干20歳のスティーヴ・レイシー(ジ・インターネット)を起用し、これは「Harmony Hall」に参加しているカントリーやブルースなどのルーツ・ミュージックの伝統を守るスティール・ギター・プレイヤーである御年70歳のグレッグ・リーズと対比的だ。
この2回のリリースを通してバンドは、楽曲そのものの作りに留まらずコラボレートの大胆な導入というアルバム制作における方法論のメタ的なアプローチにおいても「現在」を取り込みながら、コラボレーターの人選においても過去の歴史と現在を接続し、バンドの在り方の未来を作ろうとしているように映る。それはアリアナ・グランデが新作において、そのリリースの仕方で女性ポップスター・ジンガーの在り方を更新してみせたことともシンクロする。まだ4曲ではあるけれど、アルバム全体の意図を見渡せる地図のピースが少しずつ揃ってきた。
思えば「アメリカ人として生まれ、死ぬこと」という重いテーマと向き合った前作の最終曲「Young Lion」はこんな言葉で締め括られていた —「焦ることはない、若き獅子たちよ」—。彼らが6年の歳月をかけて出した解がもう少しで明らかになる。(定金啓吾)
Photo by Monika Mogi
※6年ぶり4作目となるニュー・アルバム『Father Of The Bride』は5月3日発売
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Text By Keigo Sadakane