「絶対に自分が聴いたことのない音が出るまで作り続ける、みたいな感じでやっていた」
ウ山あまね × 佐藤優介
『ムームート』をめぐる作り手同士の対話
ニュー・アルバム『ムームート』を2022年9月にリリースしたウ山あまね。2019年、「ウ山あまね」名義での活動をスタートして以来、現代におけるポップ・ミュージックを刷新してきた彼に、その独特な制作スタイルや音楽家としての姿勢について、同じくミュージシャンである佐藤優介がインタヴューを行った。音楽的なルーツから、“ポップス“という概念をめぐって語り合った、音楽家同士の対話をお届けする。なお、1月19日には《渋谷WWW》でリリース・パーティーも開催(詳細は下記)。2023年、更なる飛躍が期待される。
(インタヴュー・文/佐藤優介 進行/岡村詩野 撮影/植村マサ 協力/高久大輝)
Interview with Amane Uyama
佐藤優介:『ムームート』に関するインタヴューっていうのは、もうお受けになりましたか?
ウ山あまね:今回が初めてです。一応、今後に予定されているものもあるんですが。
佐藤:アルバムが出てからまだそういうものが読めてなかったので、すごく刺激を受けた身としては気になってたんです。それで、何も俺がやることはないと思うんですけど……(笑)。ちゃんとしたインタヴューはしかるべき人がやるとして、ちょっとお話を聞いてみたいと思ったんです。
──初対面とのことですが、ウ山さんも佐藤優介さんのことは知っていたんですよね。
ウ山:はい。初めて聴いたのは「UTOPIA」だったんですけど……まず、こんなにヴォーカルちっちゃくしていいんだっていうことに驚いて(笑)。ポップスというか、歌ものでヴォーカルが小さいって結構マイナスに働くことが多いと思うんですけど、あの曲に関してはそれがすごく作品にマッチしてたし、こういうアプローチの曲って聴いたことがなかったので。やられたっていうか。
佐藤:それの何が問題かっていうと、自分では歌がちっちゃいと思ってなかったっていうことですね(笑)。ミックスまで自分一人でやってると、そういう社会性を失っていくというか……でも、ヴォーカルの処理なら『ムームート』のほうがよっぽど過激じゃないですか。そのお話も後でお聞きしたいんですけど。
──では、まず、ウ山さんが音楽活動を始めたきっかけを教えてください。
ウ山:中学生の頃にギターを始めたのが最初です。アジカンがすごく好きで。それで友達とバンドを組んで、オリジナル曲を作り始めたのが作曲のきっかけでした。あとは当時ボーカロイドが流行っていて、その中でもゆよゆっぺとか、ハードコア・シーンが結構賑わっていて。そこからハマり始めて、高校の頃はポスト・ハードコアとかをずっと聴いてました。
佐藤:その頃作っていた曲もハードコアだったんですか。
ウ山:そうですね。ギターもドロップCチューニングにしたりして。
佐藤:ああ、それを聞くと、今のあまねさんの音楽にも通じるものがあるような気がします。
ウ山:かもしれないですね。エモのメロディー・ラインみたいなものが自分の根底にあるのかなっていうのは最近感じます。
──佐藤さんは、そういう部分で共感できるところってありますか?
佐藤:いや……俺みたいなのが、軽々しく共感するとか言っちゃいけないんですよ(笑)。それはやっぱり覚悟がいるというか。だから……ライターの人たちもひょっとして困るんじゃないかっていう感じは、ちょっとわかるんです。『ムームート』は特に、分析できないというか、分析してどうするというか……ただ気持ちよく浴びてればいいじゃないかと思っちゃうんです。でも、語れないことをいかに語るかっていうのが仕事じゃないですか。
──(笑)
佐藤:(笑)それで、気持ちよく浴びてればいいっていうのは本当なんですけど、最初に思ったのは、率直に言って、「殺されるな」っていう……(笑)。どちらかといえば、俺なんかは、今ある音楽を必死に延命させようとしてる側だと思うんですけど。そこにきてあまねさんの音楽っていうのは、この人本気で殺しにきてるんじゃないかって思わせる感じがあって……そういう殺意みたいなのは(笑)、実際どうなんですか。
ウ山:殺意はありましたね。特に今回のアルバムを作っていたときの原動力っていうのは、殺意みたいなものだったかもしれないです。でもそれは、持たざるを得ないっていうか。僕が普段仲良くしてる人たちも、殺意を持ってやっているので(笑)、殺らなきゃ殺られる、みたいな感じではあるんです。
佐藤:そういう環境っていうのは、やっぱりいいものですか。
ウ山:いや、めちゃくちゃ辛いです(笑)。
佐藤:のんびりはできないですよね、きっと(笑)。
──佐藤さんの言う「語りづらさ」というのはどういう部分なのでしょう?
佐藤:うーん……たとえば小学校で習うような、音楽の三大要素みたいなのがありますよね。メロディー、ハーモニー、リズムっていう。で今は、それに加えて音色ってのがあると思うんですけど、基本的には最初の三つが前提にあって、音色はその上に装飾的に乗っかってくるものだっていうのが、歌ものというか、ポップスの典型として未だにあると思うんですけど。
ウ山:一般的にはまだ、音色の優先度は低い感じはしますね。
佐藤:それでいうと、あまねさんの音楽は、メロディーのすぐ下に音色があるというか……ハーモニーを音色で塗り換えてるような感じがしたんですね。
ウ山:ああ、そうですね。それは僕が音色というか、サウンドデザインがすごく好きだからっていうのがあるんですけど……でも実は、そのバランス感覚は自分の中で気に入っていないところでもあって。それは、ちょっと難しくなっちゃうのかなというか……曲を聴いた人から、よくわからないって言われることが多くて(笑)。そういうものは、あんまり自分が作りたいものではないんです。
佐藤:そういったマスというか、聴き手のことは考えるんですか。
ウ山:うーん……そうですね、考えますね。自分自身がリスナー気質というのもあるんですけど、一聴していい曲だなと思えるものを作りたいなと思っているので。よく自分の音楽について、メロディーがあるからポップスとして成立している、というような評価をもらうことが多いんですけど、中学生ぐらいの人とか、普通っていうとあれだけど、そういう普通に音楽を聴いてる人からしたら、難しい音楽に捉えられちゃうのかな、とは思っていて。
佐藤:直感的に興奮しちゃえばいいんですけどね。それに、ハーモニーの代わりとしてこういうものが出てくるっていうことに、俺はすごく刺激を受けたんです。その、音色というか、サンプルから自作されてるんですよね。そこで作られる音っていうのは、どれくらい結果を想定してるんですか。
ウ山:『ムームート』に関していえば、ほとんど想定はしてないですね。メロディーとコードがある程度できているものを流しながら並走させて、そこに辻褄が合いそうな部分を探していく、というのが基本的な作り方ではありました。もちろん、こういうベースが欲しいと思ったら、ストックしてあるものから割り当てたりもするんですけど。
佐藤:ちょっとフィールド・レコーディングみたいな感じもありますね。そういった偶然性というか、偶発的に生まれるものっていうのは、あまねさんにとって重要な要素なんでしょうか。
ウ山:そうですね。ただ、今回のアルバムでは、その偶然性みたいな部分がありすぎて、全体的にとっちらかっちゃったんじゃないかっていうところもあって。統一性がないんじゃないかとか……。
佐藤:でも、思いもしない音が出てくるっていうのは、やっぱり楽しいんですよね。
ウ山:楽しいですね。楽しいし、絶対に自分が聴いたことのない音が出るまで作り続ける、みたいな感じでやっていたので(笑)。それですごく時間がかかっちゃったっていうのもあるんですけど。
“ポップス“の可能性佐藤:当たりが出るまでガチャ引く、みたいな(笑)。その、作り方についてもう少し聞きたいんですけど、冒頭3曲目ぐらいまでは、わりとエレピっぽい音でコードを聞かせようっていう感じもあるじゃないですか。それが、「デン」あたりからちょっと怪しくなってきますよね(笑)。ここまではぶっ壊しても大丈夫っていうのと、ここから先はやばいなっていう、そういう線引きはあるんでしょうか。
ウ山:作っているときは全部大丈夫だろうと思ってたんですけど……聴き返してみると、そうでもないなっていう……(笑)。一応、コード進行は全部決めて作り始めてはいるんですけど、たまにエゴサとかしてると、「ベースが入ってない」って書いてる人もいて、いや、入ってるんだけどなって(笑)。
佐藤:でも、そう思っちゃうのもわかるというか(笑)。サウンドデザインというか、エフェクトを多用するような音楽でも、歌ものになるとベースは結構はっきり鳴らす人が多いじゃないですか。そういうわかりやすいベース・ラインみたいなものは、今回あまり重要ではなかったんでしょうか。
ウ山:そうですね。「デン」は特にそうなんですが、なんというか、空間の存在感を作るためにベースを配置しているところが自分にはあって。空間の広さを認識させる役割をベースに担わせているというか……でもやっぱりベース・ラインの存在っていうのは、わかりやすさには重要なんでしょうね。歌メロ自体がわかりづらいわけではないので、「いけるだろ!」と思ってはいたんですけど(笑)。
佐藤:わかりやすいメロディーさえあれば、ポップスとして成立するはずだと。
ウ山:そうですね、そこは信じていたところです。
佐藤:でも、また次の「ランドリー」までいくと、そのメロディーさえもエフェクト化していきますよね。ブクブクっていう……。
ウ山:あれはもう、あれを聴かせたいということですね(笑)。
佐藤:そこで思ったのは、あまねさんにとって、メロディーというか、人の声ってどういう位置づけなんだろうっていう。
ウ山:ちょっと信頼を置きすぎてる部分はあるかもしれないですね。歌さえ聞こえていればポップスとして成立すると思っていた節があるので。
佐藤:アイコン的な役割というか。
ウ山:そうですね。なので、そこに全ベットして作ってるような部分はありました。
佐藤:それさえも壊そうとするような動きが出てくるので、これはどこまでいっちゃうんだろうってどきどきさせられて。でも、そこでメロディーまで思いっきり抽象化しちゃうと、ポップスにはならないっていう認識はあるんでしょうか。
ウ山:ああ、あるかもしれませんね。とはいえ、ポップスになりそうな要素って、そこだけではないとは思うんですけど。
佐藤:俺はそこにちょっと可能性を感じたんです。ハーモニーだけじゃなくて、歌が歌として、もうキーなんか認識できなくなっても、ポップスとして成立させられるんじゃないかっていう。
ウ山:メロディーの可能性というか、メロディーが基本になるポップスとして、どこまでいけるのかっていうことですね……ああ、でも作ってるときはそこまで考えてなかったですね。今言われて、ああ確かにもっとそこにチャレンジすればよかったなっていう(笑)。
佐藤:いや(笑)。ただ、これはどこまでいっちゃうんだろうっていう……音楽を聴いてて、久々にそういう気持ちにさせてもらったような気がしたんです。
ウ山:今後の課題ですね(笑)。でも、今はやっぱり、ちゃんと誰が聴いてもポップスとして認識できるようなものを作りたいので。次はエクスペリメンタルな方向からは少し外れるかもしれないです。それでまた戻ってくるみたいなことはあるかもしれないですけど。
佐藤:そうなんですね。でも、アルバムが出たばかりでこんなこと言うのもあれですけど、この人次はどうするんだろうっていうのは気になって。
ウ山:実はもう、結構考えてます。もしかしたら『ムームート』を気に入ってくれた人たちは、がっかりするかもしれない。
佐藤:がらっと変わるんでしょうか。
ウ山:比重は変わってくると思います。さっきの、ヴォーカルとサウンドデザイン、ハーモニー、ビートっていう序列を変えてみたいと思っていて。ただ、自分はそもそもサウンドデザインの部分が注目されるきっかけでもあったので、それでいうと、今はちょっと自殺みたいな心持ちで作ってる部分もあって。でも、今までの作り方をしていたら、自分の本当に好きなものは作れないのかなと。
自他との関係性佐藤:劇薬ですもんね、『ムームート』は。それと関係する話かはわからないんですけど、やっぱり“ハイパーポップ“って呼ばれることが多いですか。
ウ山:多いですね。
佐藤:一旦そういう呼び名が定着すると、名前で呼んでもらえることの安心感と、それを裏切りたいっていう向きも出てくるじゃないですか。そういう話でもないんでしょうか。
ウ山:“サウンドデザインの人“みたいな呼ばれ方をすることに対して、半分諦めみたいな部分はあるんです。そこから、自分の聴きたいものに近づけるように今は作っていて……それで駄目だったら、もういいかなっていう(笑)。だから、同じことを続けるのに嫌気が差したってわけでもないんです。さっき言ったような作り方は、単純に体力を消耗しますし、今回のアルバムでもそれをずっと続けていて、これ以上は無理だと思って。最終的に、良し悪しを正確にジャッジできない状態で終わらせたような部分も実はあるんです。
佐藤:でも、ここまでいったら終わりだっていう判断は、難しいんですよね。
ウ山:難しいですね……自分が作曲を始めたときから、一貫して考えている基準があって、それは“良くなるまで作り続ける“っていうことなんですけど(笑)。今回のアルバムの制作中は特にそれがブーストされたというか。さっきの話もそうなんですけど、自分は若干諦めっぽいメンタリティでもあるので……だから次は、自分にできることはこれなんだ、っていうものを出せたらいいなと思ってます。
──その“諦め“っていうのは……。
ウ山:嫌な話なんですけど、自分の可能性というか……それまでは、自分の範疇にない、何か真新しいものがないと面白くないというか、納得できないと思ってやってきたんですけど、結局そんなものはないんだっていうことに気がついて(笑)。
──それは過去の自分との相対的な新しさなんでしょうか。それとも他者との比較で?
ウ山:うーん、両方かもしれないですね。他者との間でもあるし、自分との問題でもあるというか。
佐藤:他者との関係性でいうと、同時代にそういう人たちが近くにいると、誰が一番尖ったところにいられるかみたいな、そういうのって意識したりしませんか。
ウ山:それは……あるんです(笑)。お恥ずかしいことに。でも今、6人組のPAS TASTAっていうグループをやってるんですけど、そこでは、それぞれ自分にはできないことをお互いにやり合ってるような感じがありますね。
佐藤:なんとなくそういう意識があると、変に過剰になっちゃったりもするじゃないですか。でも『ムームート』には、そういう狙った過激さみたいなのはなくて、すごく自然で。その自然さにむしろ感動したんです。だからこれは、すごく時間をかけられたんじゃないかと思ったんですけど……。
ウ山:ちなみに、「UTOPIA」はどのくらい時間をかけましたか?
佐藤:よく覚えてないんですけど……でも、何に時間がかかったかっていうと、ほとんど確認なんです。そのときは「よし!」と思っても……一番まずいのは、締切があるとするじゃないですか。その締切当日に、「いいのができた!」って思うのが……。
ウ山:やばいですね(笑)。
佐藤:やばいんですよ(笑)。
ウ山:今回、マスタリングをキムケン(木村健太郎)さんに依頼したんですけど、自分の作品を誰かに依頼するっていうのが初めてのことだったんです。それまでずっと、一人でああでもないこうでもないと悩んでたのが、キムケンさんの解釈があがってきたときに、「もうこれでいいな」って思えて。
佐藤:他の人の視点が入ると、ちょっと客観的に見えるようになりますよね。
ウ山:そうですね。何ならもう、キムケンさんがそう言うんだからこれでいきましょう!っていう(笑)。そういう部分でも、ジャッジを下すきっかけになりましたね。
──ちなみに、さっきおっしゃった、“誰が聴いてもポップ“なものっていうのは、何か指標とするものはあるんでしょうか?
ウ山:うーん、誰が聴いてもポップであり、誰が聴いても変であり、みたいな……一番理想的なのは、ロスタム・バトマングリかもしれないです。音楽の関わり方としても理想的だし、何より「ロスタムの音だ」って一発でわかるじゃないですか。やってることはある意味すごく古典的なんだけど、サウンドがかっこいいから現代的に聴こえてくるというか。あと実は、今回のアルバムの最後の「キチュンシツン」という曲は、ハイムをリファレンスにしていて。
佐藤:そうなんですか!……ああ、でも言われてみたらちょっとわかる気がする。あ、こうやって終わらせてくれるんだっていう、安心感みたいなものもあって。そういえば、今回ギターは使ってるんですか?
ウ山:その「キチュンシツン」では使ってますね。
佐藤:あれはやっぱりギターなんですね。もしかしてシンセなのかなとも思ったんですけど。
ウ山:今後はもっとギターを弾こうと思ってます。
佐藤:それは楽しみですね。今、ギターって結構使いどころが難しい楽器じゃないですか。
ウ山:でも海外だと、それこそハイパーポップの流れでギターは結構使われてるんですよ。underscoresとか。
佐藤:そうなんですね。もともと、音の情報量でいえばシンセよりもずっと豊かな楽器だと思うんですけど。さっきのヴァンパイア・ウィークエンドが出てきた頃って、同時代で面白いバンドがいくつか出てきましたよね。グリズリー・ベアとか、ダーティー・プロジェクターズとか……。
ウ山:僕もそのへん大好きで。アニマル・コレクティヴとか、バトルスとか。
佐藤:あの頃は、次誰が何やるんだろうっていうのをみんなで気にしあっていた空気感があって。それでいうと、今あまねさんにとって、この人次は何やるんだろうって待ってるような人はいたりしますか。
ウ山:うーん、いっぱいいますけど……ビリー・アイリッシュだって次どうすんのって思ったりもしますし(笑)。一番はやっぱり長谷川白紙かな。
佐藤:白紙さんの、あれは聴きましたか。花譜さんとコラボした「蕾に雷」。滅茶苦茶いい曲ですよね。
ウ山:はんぱないですね。
佐藤:楽曲提供であれをもってくるのって、とんでもないですよね。じゃあ次どうなっちゃうんだろうっていう……。でも、ヴァンパイア・ウィークエンドが好きっていうのはちょっと意外でした。アジカンはやっぱり、自分の世代でもみんな聴いてはいましたけど。
──アジカンだと一番好きなアルバムはどのあたりですか?
ウ山:うーん……1枚っていうと、『ワールド ワールド ワールド』かなあ。曲単位でいえば「ワールドアパート」とか、「転がる岩、君に朝が降る」とか……でも最近の曲も含めて、本当に選べないくらい好きですね。
──後藤正文さんは今、人と人とをつなぐ役割という点ですごく大きな存在になっています。《APPLE VINEGAR》の設立、継続もすごく意識的だと感じます。
佐藤:今年(2022年)同じイベントに出させてもらったときにGotchさんがソロで何やるかっていうと、即興演奏とポエトリーなんです。ほとんど並行して、アジカンで何万人の前で歌う後藤さんもいるわけですよね。どういう感覚なんだろうって、終演後についお聞きしたんですけど、それは別に矛盾するものじゃなくて、同じように興味があるんだっていう。その感覚ってやっぱりすごいなと思って。それで、こういうイベントに人がもっと入るようになったらいいよねっていう話をされてて……なんかもう本当に感動して(笑)。Gotchさんみたいな人って、後にも先にもいない気がします。
──後藤さんの影響は年々多岐に及ぶようになってきていますね。
ウ山:後藤さんはもう、自分にとっては原点みたいな人で。音楽だけじゃなく、インタヴューとか本を読んで、そこからいろいろ影響が広がっていったっていうのもあるんです。
“時間“の概念について
佐藤:話を『ムームート』に戻すと、今回のアルバムは全8曲で、1曲の長さも2分か3分ちょっとで、結構コンパクトですよね。そういう時間についての意識っていうのはあったんでしょうか。
ウ山:それはありましたね。自分はもう、時間というものが耐えられないので……(笑)。短いほうがいいっていうのはずっと思ってたんです。でも最近、実は関係ないんじゃないかとも思うようになって。時間が短いからこそ逆にできなかったこともあるんじゃないか、っていうことに気づいて。だから、最近はあんまり考えないようにしてます。
佐藤:俺はわりと、短ければ短いほど良いって信じてるんですけど(笑)。構成についていえば、あまねさんの音楽って、変な話どこから聴いてもいいっていうか、断片で聴いても十分面白いというか。
ウ山:確かに、断片で作ってる感じもありますね。
佐藤:そういう自由さに関係してるかはわからないですけど、『ムームート』を聴いていると、もはや新しいを通り越して、すごく原始的な音楽にも思えてきて。これが民族音楽っていわれたら、納得しちゃうようなところもあるというか。
ウ山:ああ、でもアフリカの音楽はすごく好きなんですよ。もうビートと声だけみたいな。歌も、ユニゾンだと思ったら、急にハモりだしたりして。
佐藤:ほとんど反射神経でやってるような世界ですね。
ウ山:コノノNo.1とか好きでよく聴いてたんです。そういうアフリカ音楽の真似事みたいなことをしていた時期もあって。
佐藤:ああ、それはきっと出てますよね。原初的な喜びっていうか……だからやっぱり、平均律みたいなものからはみ出していくと……。
ウ山:回帰していくのかもしれないですね。そういう概念もなかったような時代に。
佐藤:そういうところで、やっぱり殺気を感じたんです(笑)。軽々しく共感なんて言えないっていうのはそういうところで。自分みたいな人間は、結局20世紀的なものによって生かされてるわけです。だから、同調しますと言っちゃったら、それこそ自殺になっちゃうんですよ。
ウ山:作っている側としては、全然軽薄に、いいねって思ってもらえたら嬉しいんですけどね。
佐藤:いや、本音としてはやっぱり、どっちも好きだって言いたいんです(笑)。だから……2つの間に、いい意味で緊張感があればいいなというか、もっと言えば、相互的な関係になれたらいいなと思っていて……要するに、友達になってくださいってことなんですけど……(笑)。
ウ山:(笑)ああ……いやもう全然、はい(笑)。そうですよね。友達、ほしいですよね。
<了>
ウ山あまねと佐藤優介「ウ山あまね “ムームート” Release Party」
2023年1月19日(木)渋谷WWW
OPEN/START 18:50 / 18:50
出演:ウ山あまね / 君島大空(独奏) / Carl Stone / 諭吉佳作/men / 俚謡山脈
詳細:https://www-shibuya.jp/schedule/015077.php
Text By Yusuke Sato
Photo By Massa Uemura