文系? 体育会系?
いやいや、どちらも持ちうる無敵バンド!!
ヤリたいだけ、とか歌ってるヤンキー・バンドだろ。なんて思っててすみませんでした。
彼らのファースト・アルバムを初めて聴いて本当に驚いて心の中で土下座した。ルースターズがいちばんスゴい。ストーンズのファーストっぽく言えばジャパンズ・グレイテスト・ロックンロール・メイカーズだ。60年代のストーンズみたいなバンド、世界中探してもいないとずっと思ってた。でもいた。しかもこの日本に。とにかく興奮した。
60年代のストーンズが好きなんです。あのチャーミングさが。でも初期のストーンズみたいなバンドって探すといそうでいない。同時代のイギリスのバンド、例えばゼム、例えばプリティ・シングス。あるいはアメリカのガレージ・パンク・バンドたち。シャドウズ・オブ・ナイトとかチョコレート・ウォッチ・バンドとかね。それっぽいバンドはいるんだけど(もちろん全て大好きです)、でもなんかこう、外側は出来てるんだけど中身が違うというか、肝心な核の部分が足りないというか。聴いた時に同じ気持ちにならない。そういう再現できない魅力が初期のストーンズにはあるのかなって、ずっと考えていたんです。ルースターズを聴くまでは。
「テキーラ」
ファースト・アルバムはこれで始まる。60年代のパーティ・バンド、チャンプスのインスト・ロックンロール古典。の、カヴァーです。今はもとより当時としてもエレキ・インストみたいなのって古臭いものだと思われていたはず。なのにこんなにシャープな曲に解釈してみせるなんて。その相当なセンスの良さにここでまず打ちのめされてしまいます。話はずれるけど90年代以降の日本で見られるようになったロックンロールの“トッポいカッコよさ”みたいな感覚、あれの源流にはこの曲があると思ってます。
「恋をしようよ」
冒頭で軽くディスってしまったけどいやいやいや。この曲はとんでもない名曲だという事をここで書いておかなきゃいけない。なんで「ヤリたいだけ」なのかというとさ、ストーンズがファースト・アルバムで倍速カヴァーしたマディ・ウォーターズ「I Just Want To Make Love To You」をそう翻訳したわけでしょう。しかもそのストーンズのヴァージョンに当時つけられた邦題が「恋をしようよ」で、それを曲名にするっていう。音楽的ルーツへの理解と愛情に裏打ちされた憎いまでのこのやり口! しかもそういった文脈を知らない(知らなくていい)本当に“ヤリたいだけ”の人々にもちゃんと届いて愛されていると。文系と体育会系どっちのセンスも持ってるバンドは無敵なんだ。特にロックンロール・バンドにおいては。
「どうしようもない恋の唄」
もう、それこそどうしようもないほどに決定的な名曲。このちょっとレトロな歌謡感(なんたって恋の“唄”ですから)の配合具合の絶妙さ。歌謡感がこれよりちょっとでも多くなると今聴くにはちょいダサに聴こえてしまうんじゃないか。この匙加減。センスと言うしかないんだろうな。スゴいです。今聴いて古くないんだったらこのあとずっと永久に、永遠に、古びないんだと思う。
「ロージー」
こんなに切な/刹那なスカの曲ってこの世にありますか?!もっとテンポ遅くしてレゲエのビートなら割とあると思うんです。スカビートでこのエモさは画期的だと思う。泣けて踊れる、という。最高のデビュー・シングルにしてアルバム・ラスト・チューン。こんな曲で終わっていくアルバム、カッコ良すぎませんか。
「GIRL FRIEND」
セカンド・アルバムを聴いていちばんハッとしたのがこの曲。やっぱりね、こういう曲も出来るんだって。60年代のストーンズはだれよりもセンチメンタル。ビートルズの数倍センチメンタルだと思ってて。自分にとって60年代のストーンズの魅力はこのセンチメンタルさにあると考えてきたから、この曲の存在に嬉しくなった。まるで「As Tears Go By」や「Lady Jane」をやるストーンズ。歌詞も良いんです。この曲に限らずルースターズの歌詞はどれも素晴らしい。誰にでもわかる言い方で、その曲にぴったりなストーリーだったり情景を描く。「そんなにかしこくないけど/色んなことがわかってる」という歌詞はそのままぼくにとってのルースターズの魅力そのものだし、いちばんかっこいいロックンロール・バンドのあり方を描いているように思える。
「DAN DAN(LET’s ROCK)」
サード・アルバムの一曲目。この頃から英語で歌う曲が増えてきます。英語で歌うルースターズ、これがまた格別にカッコいいんだ。それはブロークンイングリッシュで歌う良さなんです。ちゃんと発音しないからこそカッコいいんだと思わせる。これを初めてやったのは彼らなんじゃないかとぼくは思ってる。ブルーハーツ が「マ、イ、ク、ロ、フォン」「トゥー、マッチ、ペイン」とカタカナで歌う瞬間のあの良さ。そしてフリッパーズ・ギターがファースト・アルバムでまるごとやってみせたあの良さ。ぼくにとってその源流にルースターズがいる。
「ニュールンベルグでささやいて」
4曲入り12インチ。世が世なら33回転の7インチでリリースされたであろう”EP”作品の表題曲。ストーンズがドン・コヴェイを取り入れたのと同じ手つきで、それをそのまま80年代にスライドさせてコールドファンクを物にして見せる彼らに心底感動させられる。このレコードには裏ジャケに山名昇さんのライナーノーツが印刷されていて(インナーにではなく裏ジャケに。まるでアンドリュー・オールダム!)そこに書かれている「彼らは正統だ」という文言がズシリと響く。正統なロックンロール・バンドが正統なやり方で時代を乗りこなせた例は本当に少ない。だからこそこのオリジナル・メンバー4人のこの路線でのアルバムを聴いてみたかった。
「I’m Swayin’ In The Air」
この曲は英詞ではないけれどブロークン・イングリッシュで歌うルースターズのカッコよさがある。ブロークン・ジャパニーズ、というか。なんだか棒読みみたいに歌うでしょう。ホットでは無い。かといってクールというのとは違う。やっぱり棒読みというのが近い。歌い方だけじゃない、メロディーもどこかそんな感じがあります。だけどこんなにも良い曲なのが本当にスゴい。この棒読みの感じ、これがこの時期のルースターズのいちばんの魅力だと思う。
ルースターズのことを書くんだったら勢いつけて一気に駆け抜けるみたいに書かなきゃ嘘だと思ってそんなふうに書きました。とにかく、こいつはとんでないものに出会って興奮してるんだな、というのが伝わればそれでOK。願わくばあなたも同じ気持ちになってくれたなら。
ルースターズのカッコよさを分かってもらうのにいちばん手っ取り早いのは『EARLY LIVE 1981』というライヴ映像作品を観てもらう事だ。
ストリーミングが解禁されるなんて思ってもみなかった頃はそう考えていました。解禁された今でもやっぱり探して観てほしいという気持ちがあります(探せばすぐ見つかります)。この映像、なんたって「カモン」で始まるんだ。なんかちょっと微妙な(すみません……)チャック・ベリーの原曲をストーンズがキュートに作り替えてデビュー・シングルにしたあの曲。あの「カモン」をアイドル性はそのままにさらに疾走させて色気のある曲にしてみせるルースターズ。こんなバンド、世界中探したっていない。最高。(矢島和義)
Text By Kazuyoshi Yajima