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《The Notable Artists of 2024》
-TURNスタッフ/ライター陣が2024年に期待するアーティスト-

Editor’s Choices
まずはTURN編集部のピックアップとコメントからどうぞ!


岡村詩野
Claire Rousay

サンアントニオ在住のエクスペリメンタル系の音楽家として紹介されてきたクレア・ラウジーだが、現在彼女はLAに拠点を移している。そして、LAのフラットな気風が彼女をさらに柔軟にさせたのか、エモーショナルなのにアンビエント、混沌としているのに整然、というアンビバレントなクリエイティヴィティを持つ彼女がここにきてさらに開かれてきているのはとても興味深い。Soundcloudのみ、Bandcampのみという作品も多く、その全てを網羅することは不可能なのではないかと思えるほどに多作な彼女、去年は《Saddle Creek》からも作品を出したし、先ごろもミックステープを発表したばかり。メキシコのマベ・フラッティと共闘しているのも個人的には刺激的だ。近年はオートチューンなどを用いて“歌うこと”にも積極的になっていたそんなクレアが、ここにきてとうとうシカゴの《Thrill Jockey》と契約、4月にアルバムが出ることが発表された(日本盤は《HEADZ》から)。スローコアともドローンともつかない、でも確実に歌の力へと表現の軸足が広がっている彼女は間違いなく今年大きく飛躍することだろう。(岡村詩野)

高久大輝
FPCD

2019年の年末、“精神的に不安定な状態”に陥ったことを理由に横浜のハードコア・パンク・バンド、反好旗をヴォーカルのKohsuke(当時の表記はCO-S.Kだったと思う)が脱退すると発表された。後にバンドは解散、約13年の活動期間だった。それから怒りと諦念の張り付いた彼の叫びが、もう一歩踏み込んで希望を見つける瞬間を忘れられないまま時間は過ぎ、その間に社会はさらに暗くなってしまった。こんな状況で彼が再びバンドをやるとは思っていなかったが、喜ばしいことに昨年、Kohsukeを含む4人で結成された新バンド、FPCDから2つのプロモ音源が届いた。バンドの説明に“BEATDOWN PUNKを標榜する”とあるように反好旗と比べても荒々しいサウンド。轟音の中でがなり散らしていて、それでも鮮明には聞き取れないヴォーカル。それらはドン詰まりの世界を生きる人々が抱えたたくさんの声を、逆説的にハッキリと代弁してはいないだろうか。今年はまとまった音源に期待したい。(高久大輝)

吉澤奈々
Kacy Hill

カニエ・ウェストに歌の才能を見出され《G.O.O.D. Music》と契約したのも過去のこと。アリゾナ州フェニックス出身のシンガー・ソングライターはインディペンデントで活動を続け、自身のメンタルヘルスと“本当にやりたかった”音楽制作に向き合ってきた。とくに、2作目『Is It Selfish If We Talk About Me Again』(2020年)はKacyの甘い声とマイナー調のシンセ、スムース・ソウルを融合した、ロマンチックかつ不穏な空気の漂う快作だ。The 1975の奏でるUKガラージと近い側面のある作品が、どこのレーベルにも断られたのは謎で仕方なかった。しかし昨年11月《Nettwerk》と新たに契約、春には4作目のリリースを予定している。新曲「No One」をはじめ、プロデューサーにBartees Strange、Peteyの楽曲を手掛けるAidan Spiroらが参加。より軽やかに歌い囁く、Kacy Hillに再び注目したい。(吉澤奈々)

尾野泰幸
Short Fictions

所謂“エモ・リバイバル(エモ第四波)”の流れから、近年輪郭が形成されていった“エモ第五波”は徐々に世界中へと広がっていった。今や定義することそれ自体をヒラヒラと躱しながら意味内容が拡大した“エモ”というカテゴライズがどこまで有効かという議論はさておき、そのタグとともに紹介されることも多々あるピッツバーグをルーツとするバンド、ショート・フィクションズが昨年にリリースしたサード・アルバム『Oblivion Will Own Me And Death Alone Will Love Me』は衝撃的だった。メロディック・パンク、ミッドウエスト・エモ、ローファイ・インディー、フォークとサイケデリア……目まぐるしく入れ替わるサウンドにのって縦横無尽に駆け巡る25分のインディー・ロックは鮮烈な印象を残した。二曲目「Reno Nevada, January 2020」のチープでポップなサウンドと吐き捨てるような歌声を聴いてほしい。たとえそれが綿密に計算されたものであったとしても、ここにあるような軽やかでヒリつくようなロック・ミュージックを私は愛したいし、本作のような作品に一つでも出会うために私は音楽の森をあてどなく彷徨っている。(尾野泰幸)

髙橋翔哉
Teen Daze

カナダ西部のブリティッシュコロンビア州出身、2009年ごろからいくつかの名義で活動、そして多作家。そんなジャミソン・イサーク(Jamison Isaak)の作風をひとことで言い表すなら、ローファイかつノスタルジック。音楽性はハウス、アンビエント、ディスコ、チルウェイヴなどが参照され、ウォッシュト・アウト、トロ・イ・モアのような同世代のいくつかのアクトと近似値がとれるだろうか。ただかれの音楽は、そんな広範な参照点を持ちながら、アウトプットはどれもTeen Dazeというフィルターを通したものになっている。たとえるなら、インターネット上で雑多に投稿されたリミナルスペースやdreamcoreの画像が、写っているオブジェクトはバラバラだけど、どこか質感やムードや世界線を共有しているかのような。2023年は3枚のEPを出すほどにアクティヴでありながら、フルレングスは前作『Interior』以来2年ほどストップしている。これまでのかれのバイオリズムから予想するに、そろそろ次なるメルクマールが築かれることを期待してしまうが、果たして。(髙橋翔哉)


Writer’s Choices
続いてTURNライター陣が今年期待のアーティストを選出!

加藤孔紀
Fuensanta

Fuensantaはメキシコのベラクルス出身、現在はオランダのアムステルダムを拠点に活動する歌手、ダブル・ベース奏者、作曲家、即興演奏家。私はこの人を、メキシコシティ拠点のグループAmor MuereがNTSに提供したミックスで知ったこともあり、近年のメキシコから前衛的と思える音楽が聴こえてくることを刺激的だと感じている。それはメキシコの現代の作家たち例えばグアダルーペ・ネッテルやフェルナンダ・メルチョールなどの小説が近年日本でも翻訳出版され、文芸からも届いてくるように感じる。Fuensantaが2023年にルイス・コールと共同プロデュースして発表したソロ名義のEP『Principio del Fuego』(火の始まり)は、マジック・リアリズムへの短いラヴレターが一つのテーマ。そこから聞こえてくる音は、自然の中やそこかしこにあって見えて知ってはいるが、普段は感じることができていないものという気がする。(加藤孔紀)

MINORI
Joe Cupertino

アメリカはカリフォルニア州クパチーノ出身、台湾育ちというバックグラウンドを持つラッパー、Joe Cupertino。2020年頃からコンスタントに音源をリリースしていたそうだが、私が彼を知ったのはつい最近、2023年に新曲「EMERALD」を聴いた時だった。ラテンのリズムに乗ったフットワークの軽いラップは、自然と何度も聴きたくなる魅力があった。過去の作品をチェックしてみると、「ILLINOIS」では攻撃的な電子音とノイズが乱れ打ちされたトラックに着実に音をはめ、かつ頭から離れないキャッチーなフックも入れ込む。一方「KISS ASS」のようにメロウでスロウなビートにもスタイルをフィットさせる柔軟さがある。彼のラップもさることながら、タッグを組むビートメーカーのT-Razorが作る個性的なビートがとにかく自由で、2人で楽しみながら制作を進める様子がリスナーの私にも想像できる。ネイティブな英語と日本語をナチュラルに横断するスタイルも新鮮。今年はどんな新しいフロウが聴けるのか、新作を楽しみに待っている。(MINORI)

杉山慧
Lava La Rue

デビュー・アルバムが待たれるロンドンを拠点に活動する期待のシンガー・ソングライター。Biig Piigなども所属するクリエイティヴ集団、NiNE8の発起人でもある。一昨年リリースされたEP『Hi-Fidelity』(2022年)収録の表題曲や「Don’t Come Back」では、「Magpie」(2021年)などで見られたサンプリング的な手法から一転、ラグジュアリーなバンド・サウンドを志向。その方向性は最新曲「Renegade」(2023年)でも継続され、テーム・インパラを彷彿とさせるトリップ感もある。彼女は上記のEPをリリースした際のあるインタヴューで、「次にリリース予定の曲(「Renegade」だと思われる)はテーム・インパラにかなり近い音だが、私がジャマイカ人だからトリップ・ホップやアーバンというカテゴリーに入れられるだろう」と答えていた。音楽業界にあるジャンル分けがもたらす罪の側面を指摘し、それを自らの音楽で塗り替えていく姿勢にはワクワクさせられる。(杉山慧)

Casanova.S
leather.head

leather.headはロンドンを拠点に活動するバンドで、Toby、Aidan、JoshのEvans-Jesra3兄弟にドラムのCole O’Neill、そしてpigletとしても知られているCharlie Loaneを加えた5人組。その音楽はヴォーカル/ギターのToby曰く「最後のサイクルに入った、壊れかけの機械のようなイメージ」。とにもかくにも2022年のシングル「Hordes」と「Mara」の衝撃が凄まじかった。キャロラインを通過したブラック・ ミディのようなフォークとポストパンクが交差する柔らかなカオス。2023年の暮れにEP「welded」をリリースしたけれど、さらにアルバムを出せるだけの曲があるとインタヴューで言っていたので今年何か動きがあるはず。Tobyはゴート・ガールのLottieと一緒にlobbyというスロウコアとプログレッシブ・フォークを混ぜたような素晴らしいバンドもやっていて、そちらも何か動きがあるみたいで今から楽しみで仕方がない。(Casanova.S)

市川タツキ
Mustafa

気にかけておきたい存在というものがあるとすれば、今の私にとって彼こそがその1人である。2021年にリリースされた素晴らしいアルバム『When Smoke Rises』以来の新曲である「Name of God」に、昨年の終わり頃、素朴に感動させられた身としては、3年ぶりのまとまった作品を期待したい。ここ1年も、メトロ・ブーミンやダニエル・シーザーのアルバムに参加していたし、最近ではガザ/スーダンへのチャリティー・ライヴ・イベントを主催するなど、活動的ではあったのだが。それにしても、このアーティストの慎ましく切実な歌声を聞きたいという思いが、この世相の中で個人的に最近強まっているのは事実だ。「Name of God」は、Aaron Dessnerがプロデューサーとして参加した彼らしいフォーク・ナンバーで、昨年夏に亡くなった兄へ捧げられている。(市川タツキ)

佐藤遥
Plume Girl

ヒンドゥスターニー音楽の歌手、作曲家のSowmya Somanathによるソロ・プロジェクト。昨年リリースされたファースト・アルバムは、長い時間を共に過ごした大切な人との関係性が終わり、そこで感じた喪失や愛から生まれたという。フィールド・レコーディング、うねる電子音、親密で穏やかなヴォーカルなどは、それぞれ外界との交信を試みているかのよう。ところどころ聴こえるエモ・フォーク的なフレーズや、断片的なストリングス、インダストリアルな音、オートチューンのかかったヴォーカルは、more eazeやクレア・ラウジーの楽曲にも共通していて、2020年代のコンパクトな楽曲制作におけるひとつの方向性と言えるだろう。それらを『In the End We Begin』という壮大で身近な考えがやわらかく包む。彼女のつくる音楽には安寧を祈る厳かな光が差し込んでいて、その音楽自体もまた光を生み出している。(佐藤遥)

二木信
UG Noodle

UG Noodleという音楽家に僕がひかれ、可能性を感じるのは、彼が自分の感覚や経験、感情、肉体性、既存の土着/地域性といったものだけを絶対化せず、歴史を捉えかえす知的営為が創作にいかに重要であるかを、美しいサウンドとブルージーなヴォーカルで示しているから。つまり、ルーツに誠実に向き合う彼の音楽は素晴らしい。1989年生まれの神戸在住のミュージシャン/マルチ・プレーヤーの音楽は、例えばソウル、カリプソ、ラヴァーズ・ロック、スカ、ファンク、ヒップホップ等から成る。が、単なる小器用なポップスではない。歌と詩は普遍性と共に固有性を志向、癖のある録音からは並々ならぬ拘りが感じられる。『The Indian Waltz』(2013年)、『ポリュフェモス』(2020年)、『Beautiful Dreamers』(2022年)といったソロ・アルバムはどれも魅惑的。3枚の濃密な制作で多くが達成された故にすぐに次作が出るかはわからないが、いまはUG Noodle楽団というバンドでライヴ活動を軸にしている。幅広い見識を持つ夢追い人の今後が楽しみだ。(二木信)

前田理子
youbet

ブルックリンを拠点とするyoubet。一度聴いたら忘れられない、舌足らずでフラット気味な歌声は、ダニエル・ジョンストンとエリオット・スミスの間をゆく純真な輝きを放つ。一方で異星人のモチーフを好み、内省を繰り返しながら、枯れた退廃的なセンスで牧歌的なサイケ・フォークを奏でる様は俯瞰的でもあり、過去から未来までの時空旅行に連れていってくれる。このチャイルディッシュでいて老成した表現の次なる展開を期待していたところ、《Sub Pop》傘下の《Hardly Art》と新たに契約したという情報が。以前ライブ映像を見た時、その佇まいにグラム的な美意識が眠っているような気がしていたのだけれど、先行曲のビデオをチェックして確信に変わる。中心人物のNick Llobetはビッグ・シーフのバック・ミークが早くから注目していたアーティストでもある。近い将来発表されるであろうセカンド・アルバムに、期待大だ。(前田理子)

駒井憲嗣
Yushh

2023年2月にリリースしたデビューEP『Look Mum No Hands』収録の「Same Same」が《Resident Advisor》が選ぶその年のベストトラックに選出されるなど、拠点とするブリストル・シーンを越えて世間を賑わせているYushhことJen Hartley。DJプレイ、レーベル《Pressure Dome》運営、パーティーのキュレーションなどで多方面で頭角を現している彼女だが、自身の作品ではダウンビート~ブロークンベースに特化したEP『Siro Silo』をはじめ、多彩なBPMを駆使したビートメイキングと美しいシンセが織りなす浮遊感を持ち味とする。アートフォームとしてのエレクトロニック・ミュージックの卓越した構成力を築きながら、フロアで映えるベース・ミュージックの重厚感を湛えていて、グリッチの奥から立ち上がってくるユーフォリックなムードに胸が締め付けられる。(駒井憲嗣)

ドリーミー刑事
中村ジョー&イーストウッズ など日本語の歌を聴かせるアーティストたち

2010年代以降の東京インディーの勃興とシティポップ・リバイバル。これを換言すれば、エッジーな音楽としての「日本語の歌」の復権だった。しかし各地でアンビエントを軸にしたフェスが立ち上がだったり、シーンを牽引する《カクバリズム》が2023年末にリリースした作品(シャッポ、Ogawa & Tokoro、Masatomo Yoshizawa・XTAL)がいずれも脱構築的なサウンドだったりと、潮目の変化も感じるこの頃。しかしそんな風向きに関係なく、いやそんな風向きだからこそ、2014年結成の中村ジョー&イーストウッズ待望の「シティ」の名を冠したファースト・アルバムが心に染み、身体を揺さぶる。つい口ずさみたくなる古い友達のようなメロディ、ステディでゴキゲンな演奏、そして昭和生まれの粋とペーソスを体現したような歌声。日本語によるガレージ・ソウルの決定盤は、2024年における歌モノの現在地を測る原器でもある。(ドリーミー刑事)

Text By Haruka SatoKenji KomaiShoya TakahashiRiko MaedaNana YoshizawaTatsuki IchikawaMINORICasanova.SShin FutatsugiDreamy DekaShino OkamuraKei SugiyamaDaiki TakakuKoki KatoYasuyuki Ono

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