《The Notable Artist of 2023》
#2
Tony Shhnow
プラグの代表格、Tony Shhnowはトラップ20年目の顔となるか?
T.I.がアルバム『Trap Muzik』をリリースしてから20年。トラップはその後Young Jeezy(現Jeezy)のブレイクやグッチ・メインの活躍などを経て、2013年にミーゴス(R.I.P. Takeoff)がシングル「Versace」をヒットさせたことにより「三連フロウや手数の多い808の使用」といった現在多くのリスナーが抱くイメージを確立させた。その後トラップからはレイジのような派生ジャンルも誕生。2022年にはその一つである「プラグ(plugg)」のドキュメンタリーを《SoundCloud》が制作し、そのリラックスしたサウンドを関係者の証言をもとに紐解いた。
西海岸生まれでアトランタ育ちのラッパー、Tony Shhnowはそんなプラグを代表するアーティストの一人だ。そのスタイルは切れ味とゆるさの両面を見せるラップを、R&Bなどのサンプリングも取り入れたサウンドで聴かせるもの。また、時にはブーンバップやミシガン勢のようなハードなビートにも乗り、ザ・ネプチューンズのビート縛りのフリースタイルで作ったミックステープを発表したこともある。プラグで広く知られているものの、それだけではない魅力を持ったアーティストなのだ。
と、こう語ると「いいと思ったものは何でもやる」というような軽さを持つアーティストのように思われるかもしれない。しかし、インタヴューでの発言を見る限りTony Shhnowはどちらかと言えば研究熱心なタイプで、その上で「アトランタのラッパーとしてどうあるべきか」を考えているような節がある。例えば《BRICK》のインタヴューでは「俺は音楽を学ぶ生徒なんだ。一見新しいことをやっているように見えたとしても、恐らく学んだことやそれを発展させようとしたことをやっている」と語り、《CLASH》のインタヴューではMFドゥームの魅力を力説している。プラグについても「新しいものではなく、以前からアトランタにあったもの」と話し、昨年リリースしたミックステープ『Reflexions』収録の「Nothing 2 My Name」では“レジェンド枠”としてグッチ・メイン周辺での活動で知られるOJ Da Juicemanをフィーチャー。Young Jeezyの名盤にタイトルとアートワークでオマージュを捧げた『Plug Motivation』というミックステープも発表しており、2000年代のミックステープのようにホストDJを迎えた作品もリリースしている。つまり、トラップ、そしてアトランタやヒップホップの歴史に敬意を払いつつ、突如発生した新しい流行ではなく先人の試みの延長線上にあるものとしてプラグを位置付けるのがTony Shhnowの音楽なのだ。OJ Da Juicemanとの共演も、「Make The Trap Say Aye」などの名曲を手掛けたプロデューサーのZaytovenがプラグとの共通点を指摘されることが多いことからこそ生まれたものだろう。
そんなTony Shhnowはここ2年ほどで急速に名を広めつつあり、2021年には《Pitchfork》、2022年には《Stereogum》と大手メディアからの取材を受けている。ZelooperZやBrent Faiyazなど、人気アーティストとの共演も増加しつつある。(それ以前からトラップという言葉の使用や類似のスタイルは散見されていたが)仮に2003年のT.I.「Trap Muzik」をトラップ元年とするのなら、トラップ10年目の顔はZaytovenのビートを用いた「Versace」でヒップホップを変革したミーゴスである。伝統を踏まえた音楽性で注目を集めるTony Shhnowは、もしかしたらトラップ20年目の顔になるかもしれない。(アボかど)
※参照
https://brickthemag.com/blogs/archive/tony-shhnow
https://www.clashmusic.com/features/i-enjoy-being-surprised-the-endless-creativity-of-tony-shhnow/
https://thehundreds.com/blogs/content/on-the-beat-mexikodro-the-enigmatic-atlantan-producer-redefining-traps-sound
https://pitchfork.com/thepitch/tony-shhnow-bad-bunny-wwe-lil-uzi-vert-diamond/
https://www.stereogum.com/2206806/tony-shhnow-interview/columns/lots-of-commas/