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「自制すると言葉が重くなる。言うことは全部ちゃんと責任を持っていきたい」
SPARTA ロング・インタビュー:『兆し』の先へと抱えていく大事なもの

02 July 2021 | By Daiki Takaku

ヒップホップというジャンルが広く一般的になるにつれて、そこにあるクリシェも氾濫した。歌われるリアリティに少なからず懐疑的な視線を送らざるを得ないそんな状況にあって、SPARTAの音楽には独特の手触りがある。もちろんフロウと言おうかメロディラインと言おうか迷うような、ラップと歌の間を行く歌唱スタイルも、気持ちが開けていくようなビートのチョイスも手伝ってはいるが、リリックがその大きな理由だろう。決して複雑でハイコンテクストなわけでも、世を斬るように風刺が効いているわけでもない、シンプルでまっすぐな言葉。それは彼そのもののようで、新しいだとか、古いだとか、そういった範疇にはなく、その音楽を聴いているときは裸のSPARTAと私、ただ人と人で、だからこそ聴いている私も嘘がつけなくなる。とりわけ最新作『兆し』では、前作『Count Your Blessings』(2020年)にあったアーティストとしての葛藤や迷いを抜け、より自由な表現を手にした上でリスナーに問うているかのようだ。「お前にとって大事なものは何だ?」と。

『兆し』には、前作に引き続きNo Beer Team、KM、そして新たにSTUTS、JJJ、Areoといったプロデューサー陣、そして客演にはRed Bullがキュレートするマイクリレー「RASEN」でも共演した鎮座DOPENESS、大ヴェテランのGO aka 男澤魔術、名古屋の新星のNEI、姫路からanddy toy store、同郷のDENAMI TXが参加し多様なラインナップとなった。なにより、前作からわずか約10ヶ月という短いスパンでのリリースにも関わらず、SPARTA自身の声は高低問わず幅広い表現を獲得している。

今回はそんな最新作『兆し』にまつわる話を中心に、スケーターとして、ヴィデオグラファーとして、そしてラッパーとしてと変遷してきたSPARTAのこれまでとこれからについて話を聞いた。その音楽と同じように衒いのない裸の言葉たちをロング・インタビューでお届けしよう。なぜ彼の放つ言葉には力が宿っているのか、その理由を知る手助けになれば幸いだ。

(取材・文/高久大輝 写真/山城大)

Interview with SPARTA

──まずはアーティスト名の由来を伺えますか?

SPARTA(以下、S):そういえばあまり言ってこなかったですね。ディレクター・ネームを付けたいなと映像を撮ってるとき思っていて。だからラップする前ですね。『300』(2006年)っていう映画を観ていて、単純にそれに影響されて、1人が10人の力を持つみたいな、厨二みたいな感覚で付けました(笑)。

──ストレートですね(笑)。新作『兆し』は前作から10ヶ月ほどでリリースされました。制作はスムーズでしたか?

S:実を言うと前作『Count Your Blessings』を出したときには9割くらい曲ができてたんですよ。9曲10曲くらいはもう出来ていて、あとはミックス・エンジニアさん探したりするのに時間がかかったって感じで。

──ご自身的にはちょっと遅いくらいですか?

S:そうですね、早く出したいなって気持ちはすごいありました。『Count Your Blessings』もすごい時間かかったんですよ。あれも半年くらい前からできてたんです。ミックスエンジニアさんが忙しかったりするんで、その待っていて時間が経つことが多かったですね。この作品で曲のストックは無くなりました。

──個人的にはこれまでの作品は三部作的に聴くことができると思っていて。初作『3』(2018年)では自己紹介を、『Count Your Blessings』ではアーティストとしての自分との葛藤や迷いが見えて、そして今作『兆し』では光の筋をつかんだように感じました。

S:まさにその通りで、自分の中で大きく変わったなって思っているところがあって。『Count Your Blessings』を出したときは周りの目っていうのをどこかしらに意識していたんですよね。佐々木くん(KID FRESINO)が客演の「ALIEN」を先に出していて、それですごい聴いてもらえるようになって、「ALIEN」みたいな俺じゃないといけないみたいな。そうでなければいけないんじゃないかって勝手に思っていたことがあって。それを『兆し』では全く考えずに作れた。

──抜け出すきっかけはあったんですか?

S:苦しかったんだと思います。「これって俺じゃないな」って思えてきて。ライヴとかも緊張してたんですけど、今は前ほどではなくなって。それも常に美しい、優しい人でなければダメだみたいな考えに囚われていたからで。もちろん「ALIEN」を作ったときの自分は実在してたけど、それから在り方って変わるじゃないですか。変わっているのに「ALIEN」の大きさに飲み込まれていたときがあった。

──制作中にその苦しさに気がつく瞬間があったと。

S:ありました。ライヴとかで緊張するのとかもそういうことなんだろうなって自分の中で色々考えて。よくみんな言うじゃないですか、アーティストが、周りの目が気になって、それを打開したらだいぶ変わったとか。それの小さい感じのが来たんじゃないかな(笑)。

──そういった起点になる出来事はいくつかあると思うのですが、スケーター、ヴィデオグラファーとして、そしてラッパーとして活動してきたこれまでのキャリアを振り返って、他に大きな起点となった出来事はありますか?

S:スケボーで怪我したことが一番大きかったかなって。それがなかったらラッパーにもなっていなかったし東京にも来ていなかったんですよね。4、5年間はすごいスケートボードの調子が良かったんです。スポンサーも付いたり、SNSでも外国の方に見てもらえるような流れが来てて。18、19歳くらいのときはちょっと調子乗っちゃってたんですよね。熊本にいたので世界を知らなかったから勘違いをしていて、出る杭は打たれるって感じで先輩から怒られたりとかいろいろあって、それと怪我が重なったんです。因果応報というか、他人に言ったりやった分だけ自分にすごい返ってきて。で、怪我もしたし、スケボーはもう辞めようと思って、スポンサーはひとつクビになって、その流れで他のスポンサーも自分から辞めますって言って投げやっちゃって。全部ゼロになって、プライドも全部捨てたことがたぶん大きかったんじゃないかなって。それで、イチから頑張ろうって東京の撮影会社に入社して。全裸になれって言われたらなれるくらい本当に何も恥ずかしくなくなった。そのときに作ったのが「Billionaire」と「Orca」と「Straight Up」っていう曲なんですけど、リリックとか今聴いても面白いくらい曝け出せてるから、すごい良い。一度全部無くなったことが今に繋がっていると思いますね。

──それって人生を変えるくらいの挫折ですよね。リリックにそういった経験の影響は出ていると思いますか?

S:あんまり出てなさそうですね(笑)。でも良いことをした方がいいよっていうのはなんとなく言っているような気はしますね。できるだけ優しくしようみたいな。悪いことばっかりしてると悪いことが起きるぞって、裏返しでそういう意味ですね。

──その当時の自分とは変わっていませんか?

S:変わりましたね。お調子者じゃなくなった(笑)。

──環境が変わって地元の友達や昔の仲間との接し方に迷いがあったりプレッシャーに感じたりすることはありませんか?

S:全くないですね。むしろ地元では自分の知らないことがいっぱい起きてて、そういうのも楽しく聴けますね。なんか薄い関係だった人たちの方がそういうのがあるかもしれない。大して仲良くなかったのに「飲み行こうぜ」みたいな、そういうのは増えましたけど、そういうのはプレッシャーじゃなくてめんどくさいなって思うだけですね。地元の友達も東京に一緒に出てきていて、その友達がいるのはデカいですね。「ありのまま」とか「Orca」とかの映像撮ってるアツシってやつは同じ中学校の同級生です。

──ちなみにスケートと音楽、価値や評価基準の違いなどは感じますか?

S:すごく感じますね。スケボーの評価軸って2つあって、めっちゃテクニカルな人が1つ、もう1つが周りのこととか金とかそういうんじゃなくて、楽しんでやることを貫き通す2パターン。自分はどちらかというとテクニック寄りだったんですけど。ラッパーって……いやでも似てるか(笑)。お金を儲ける人と自分の好きな音楽をやるっていうパターン。似てました(笑)。ただスケボーだとお金儲けが良しとされないことが多いかも、Not Coolになっちゃう。でもラッパーだと全然OKなのが俺は結構嬉しかったかもしれない。

──お金儲けとヒップホップは矛盾しないと。

S:スケボーはそれが露骨だと嫌がる人が多くて。それはスケボーがかっこいいと言われてる、媚び売らずにやるクールさだと思うんですけど、自分にはそこがあんまり合わんかったのかもしれないです。あとスケボーの映像を撮っても気持ちを伝えられないっていうのはスケーターの頃に思っていて。スケボーの映像がSNSで何万回再生されようが、俺が今思ってる気持ちは滑りじゃ全然伝わらないじゃないですか。スケーターの頃は言葉っていいなって、ラッパーの人たちがすごい羨ましかった。そのときからラッパーに対しての憧れはあったのかもしれないですね。

──きっかけになったラッパーは誰でしたか?

S:それはやっぱりKOHHじゃないですかね。KOHHが青春時代だったし、スケボーしてる時もずっと聴いてたし。

──言葉については本や詩よりもラップの影響が大きいのですか?

S:その当時はそれが一番大きかったかな。変に突っ張ってて、なぜか本を読むのはダサいと勝手に思っていて。本にすぐ影響されちゃう人とかすごい嫌だったんですよね。難しい言葉を使うのも大嫌いだったし、そういうラッパーの人たちとかに「なんでそんなカッコつけちゃうの?」みたいなことを思っていた時期もありました。

──KOHHさんの曲もそうですけど、SPARTAさんもシンプルな言葉を使っている印象があります。

S:それは自分にとってのラッパーのイメージの基盤にKOHHさんがいるからじゃないですかね。ラップの基礎、基本みたいなところになっていて、それに対して他で好きなアーティストの影響が混ざってSPARTAになってると思っていて。最近は、日頃使わない言葉も使うし。フロウだったりもそのとき好きな人たちがごちゃまぜになって入ってる感じがします。だからそういう感覚で言えば俺はオリジナルではないのかもしれません。

──そういった意味では完全なオリジナルなんて存在しないと思いますが……。特に今聴いている曲などはありますか?

S:なんでも聴きます、J-POPも韓国の曲とかも。J-POPの作詞作曲をするプロの人たちはここでこんな煽り入れるんだ!みたいな。あと、たぶんレコーディングの仕方とかは昔と変わっていて、以前はラッパーも1本で録ってミックスで声をダブルにしたりハモリを作ったりとかしてもらっていたと思うんですけど、今の子たちって自分でレコーディングするんで、ハモリも自分で入れるし、煽りも自分で入れるし、エフェクトも自分で掛けたりする人が多いと思うんです。だからすごい勉強になりますね、いろんな国のいろんな曲を聴いていると。

──聴いて吸収している感覚ですか?

S:それはあるかもしれないです。でも基本的には良いって思ったテンションで作ります。衝動的というか。

──音楽を聴いて作りたいという衝動が生まれることが多いんですね。

S:それがほとんどですね。あと送られてきたビートが良いとドキドキするんですよ。ビートがきて、「うわっこのビートでやりたい」ってなって作る。

──ときめいてるわけですね?

S:ときめいてないと作れないので。だからやっていくうちに自分の中のハードルは上がるだろうから、今後ときめくことはどんどん減っていくと思います。

──じゃあ基本的にリリックはビートを聴いてから書くんですか?

S:単語をいっぱいメモを取っていて、ビートを聴いてときめいた勢いでそのメモの単語単語の接続するところを考えながら入れていくような感じです。

──フロウやメロディもそのときいっしょに出てくる?

S:時と場合によりますね。悩むときはフロウから入れます。まずフロウをレコーディングしてそこに言葉を嵌めていく。でも調子がいいとき、ときめいてるときは同時にできます。どんどん出てきて気持ちいい、みたいな。

──ときめくビートの共通点はどんなところでしょう?

S:前向きってことじゃないですかね。暗くても前向きというか、前進するようなビートが好きだと思います。「Beyonce」とか結構暗くないですか? でも前向きなものを感じる。ひたむきさというか、ビートに感じるもので決めているかも。

──ビートはいくつか送ってもらってセレクトするんですか?

S:そういう場合もあるし、リファレンスがあってそれに寄せてもらうこともあって、もしリファレンスに寄り過ぎていたら遠くしてもらったりとかやりとりしますね。

──ちなみに最後の2曲「Beyonce」と「Stories」のプロデュースをしているAreoさんはどのような方ですか?

S:Areoはもともとタイプビートを作っていたコソボのビートメイカーで。YouTubeでいいなと思ったタイプビートがあって、欲しいって連絡したら、エクスクルーシブで安く作るよって言ってくれて。最初はタイプビートを買ったんですけどそれ以降はプロデューサーとしてガンガン自分のために送ってきてくれますね。

──情報が少ないですよね。

S:たぶん日本ではいっしょに作ったのは俺が初じゃないですかね(笑)。

──客演も幅広いです。作品を前提に依頼しているんですか?

S:いや「I Need Your Love」は最初に曲ができて、ふと鎮座DOPENESSさんにラップしてもらえたらいいなと思って、その衝動のまま連絡したら「いいよ」ってすぐ作ってくれました。

──若手では名古屋のニューカマー、NEIさんも参加されていますね。

S:NEIくんはWWWのイベント「Emotions」で知り合って、そこからMV撮ったりとか会うタイミングが何回かあって、いっしょに曲作ろうよって話に。

──NEIさんといっしょにやりたいという想いはもともとあったのですか?

S:そうですね、縁があるなと勝手に思っていて。佐々木くんとの関係性も似ていたし、何か作りたいなって。

──たしかにお互いKID FRESINOさんにフックアップされたような側面がありますね。「Nostalgia」のGO aka 男澤魔術さんのヴァースも感動的です。

S:素晴らしいですよね、あのリリック。昔GOさんのMVを何個か撮らせてもらっていて、「悠久の唄」っていう曲を聴いてすごいかっこいいと思って、繋がりもあったしGOさんにお願いできたらいいなと思って。

──SPARTAさんへ送るのエールのようですよね。ご自身のヴァースが先にあったんですか?

S:そうです。すごくコミュニケーションしている感じがして良かったですね。

──「Beyonce」はラブ・ソングですよね。一途な想いを持つ人の中でビヨンセを題材に選んだのはどうしてですか?

S:単純にビヨンセがめっちゃ好きなんです。これは最近すごく考えていることなんですけど、自制するというか、こだわりを持って一貫してこれしかやらないとか、一途にひとりの人を愛し続けるとか、そういう行為が持たせる言葉の重みみたいなものがあるんじゃないかなって。言葉って口では簡単に言えるじゃないですか。自分と戦うっていうか、自制すると言葉が重くなるじゃないけど、そういうことを伝えていけたらいいなって。言うことは全部ちゃんと責任を持ってしていきたいって俺はずっと思ってますね。

──それを聞くとなおさら前作リリース時よりもアーティスト像のようなものがはっきりしたのかなと思ったんですけどいかがですか?

S:うーん、自分が何なのかわかっていないかもしれないけど、漠然としていたものに輪郭がでてきた感じはします。嘘つきたくないなとかもそう。今まではずっとがむしゃらにやっていたけど、少しこう、一瞬だけど周りが見える瞬間が最近できてきたなって。周りはこういう人たちなんだなってことで自分はこういうことなんだなってわかってきてる今は途中というか。でもわかったら終わりだとも思うんで、はっきりとはわからないままでいたいですね。

──SPARTAさんは“変わらない”こと、“地に足をつけている”ことをこれまでずっと歌ってきています。ご自身の中で変わらないものとは何ですか?

S:家族というか、今の生活、自分を支えてくれる人たちとの関係はずっと変わらないようにしていたいですね。それが俺は好きだし、周りの人のことが好きなんで。だからそれを変えないように頑張りたいです、自分のせいで変になっちゃわないように。

──すごい売れて状況が変わってしまうこともあるかもしれません。

S:それこそ自制するというか、大事なものがなくなりそうな気がするんですよね。だから最近どうしようかなって思ってます、たくさんお金持ちになったら。

──どうですか、想像してみて。

S:もう地に足つかなくなっちゃうときもあるかもしれないですよね。だから課題かもですね、お金を手にしてからどう使うかというか、どう心を持っておくかっていうのをちゃんと作っていないと、みんなと同じようにフレックスしちゃうんじゃないですか(笑)。

──難しい問題ですね。

S:佐々木くんも「幸せになりすぎないようにする」みたいなことを言っててそれは俺もめっちゃ共感できて、アーティストを続けていくんだったら、それは大事だなって。お金を貰うことは大好きなんだけど俺は性格的にもどっちかっていうとフレックスするようなタイプじゃないし、だからそれを考えていかなきゃなとは思いますね。

──先ほどおっしゃっていたスケーターだった頃に先輩に怒られた経験も影響があるんですかね?

S:ありますね。経験則というか、調子乗ったらダメだっていうのは。自分は調子乗りなので、怖いんですよね、そうなりそうで。最近も他人に対して思うことがすごく溜まっちゃってて自分がどうあるべきかを忘れちゃってることが多くなってきてるからちょっと怖くなってきてて。戻さなきゃなって。

──この先もその核にあるものをキープしていくんですね。

S:もちろん!それを捨てたらもうSPARTAじゃなくちゃうと思うし、それが一番大事。大事なものが何なのか、本当はもっと理解していかなきゃいけない。

──「Stories」で〈ため息出る世の中〉と歌っています。これは具体的にどういったことに対してでしょうか?

S:それはもう普通にみんなと遊べないことですね、お酒飲んだりとか。お酒飲むのも大好きなんで。

──コロナでパーティーもしにくくなってますしね。

S:いやパーティーはもともとあんまり行かないから、家族で出かけるとか、友達とか先輩とかとご飯に行けないとか、そういうのが辛い。逆にいいこともありますけどね、たまに飲みに行くとめっちゃ嬉しいみたいな(笑)。それはいいことだと思ってますね。当たり前が当たり前じゃなくなって、当たり前が変わって、昔の当たり前に喜べるってすごく良くないですか? 美味しくなかったご飯が美味しく感じるんですよ? ただの変わり者かもしれないけど(笑)。

──家族がいてお金も稼がなければいけない状況で今の社会にフラストレーションが溜まったりはしませんか?

S:良かったときを知らないですからね。今の状況が当たり前になっちゃってるんですよね。

──スキルなどのことも伺いたいです。SPARTAさんは曲は歌とラップがシームレスな感覚でつながっているように感じます。オートチューンの使い方やファルセット・ヴォイスだったりも含めて今作は一層多彩ですね。

S:オートチューンに関しては、今回はあんまり使わない曲と使う曲と混ぜる曲と、みたいな。以前は1度オートチューン使ったら曲全部オートチューン使わなきゃダメという変なルールが自分の中にあって。今作はそんなの関係なしにフックのダブルだけオートチューンを使ったりだとか、自由に作りました。LEXくんがそのインスピレーションをくれましたね。彼の曲はめっちゃ自由で「こんな自由でもいいんだ!」って学びました。

──「俺たち」の〈LA LA LA〉と歌うフレーズは1曲目なのもあって、その自由さの表明のように受け取りました。

S:自分は素質的に結構ポップなんですよ。特にヒップホップ好きな人たちにはそういうのを嫌がる人も多いと思うんです。俺はどっちも好きなんで、歌が嫌とかオートチューンが嫌とか思う気持ちもわかるので、どっちも楽しめるよっていう気持ちでやりました。「俺たち」で人の名前を出したのも主語が大きくなるとヒップホップじゃないと思っているからで。俺はラップというよりヒップホップをしてるつもりなんです。最初に作った時は大きくなりすぎちゃったんで、具体性を持たせるためにも友達の名前を出しましたし、自分のリアルな体験を入れましたね。あの流れで〈LA LA LA〉って歌ったら誰でもいいやんてなっちゃう。

──「RASEN」のインタビューではサザンオールスターズをよく聴いていたとおっしゃっていましたが、いわゆるJ-POPの影響は大きいですか?

S:うーん、あると思いますけどね、具体的に何がっていうのはわからないけど。メロディはできましたね、最初から。

──すごいですね。メロディが出てくる感覚はどうやって生まれたと思いますか?

S:ウチの家系が変わってて。父親と母親と姉がいるんですけど、家の中でお父さんがふざけた歌を作るんですよ、すごい短いですけど。それで「ハイ!」って言われたら歌わなきゃいけないんですよ、同じリズムで同じメロディーを歌っていくんですけど。こちょこちょされたりしたら歌わなきゃいけない歌とかもあって(笑)。そういう謎のルールがあったんですよね。

──家庭で培われたものがあるんですね。じゃあスキル的に苦労することはほとんどないですか?

S:ないかな……あーでも最近思うのは鎮座DOPENESSさんとかLEXくん、仙人掌さんもそうだし、声がスペシャルな人っていて。同じこと言ってもかっこよくなる人とかっこよくならない人っているんですよ。俺は割と普通の声なんで、それがすごいコンプレックスに感じてました。

──SPARTAさんの声もスペシャルなものだと思います。

S:低い声は倍音が出るところで歌えてると思うんですけど、高い声は普通だと思ってます。。発生の練習とかもあると思うんですけど、その幅の広さは羨ましいなって思いますね。それで自由さが狭まってきちゃう感じもするので、広げたいです。

──曲のストックも一旦全て無くなったとのことで、次の作品では大きく変わるんじゃないかと思っています。

S:それこそ佐々木くんの『ài qíng』(2018年)が出たときってすごかったと思うんです、それまでの作品とは全然違ったものがきて。ああいった動きをやりたいなって思いますね、佐々木くんの音に近づくという意味ではなく、ジャンルの感覚とかも全く違うような大きな変化をつけた作品を作りたいです。聴いている人を驚かせたい。

──新しいことに挑戦するんですね。

S:それは間違いないですね。次はもっと自分の音楽を追求したい。じゃないと自分がやっていて面白く無くなっちゃう。それこそなんでも聴いてるから、自分がときめけばなんでもやれると思うんです。誰かの期待に応えることよりも、自分が信じることを続けていきたい。

──これまではラッパーとして自分のことを歌ってきて、この先例えば「ドラマの主題歌を当て書きしてください」という依頼があったらやってみたいですか?

S:仕事としてはもちろんやりたいです。実は「One by One」は『キングダム』っていうアニメを観ながら作ったんですよ。そう言われたら『キングダム』の曲にしか聞こえなくなると思うんですけど(笑)。〈上がる士気が〉とか歌ってますからね。

──作品に収録したということはご自身と重なる部分があったんですね。

S:そうです、観ててモチベーションが上がるような、やってやるぞって思うような。

──最後に『兆し』が届いた方に伝えたいことはありますか?

S:俺みたいな、ラッパー的じゃない人でも音楽はできるし、みんなもいろんな人の音楽を聴いて作ったりもして欲しいですね。俺は世界には多いほうかもしれないけどラッパーの中では母数的に少ない方だと思っているんで。あと自分の美学というか、一途に1人の人を愛して家族を大切にしている人が世界にはちゃんといますよって。はっちゃけてる人もかっこいいし俺みたいな人もいるっていう、そういう人の居場所だったりそういったかっこよさの感覚が広がっていくといいですね。それと、健康でいてください。

<了>

 

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Text By Daiki Takaku

Photo By Dai Yamashiro

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