「ずっとおかしなやつらでいたい」“オルタナティブ”を提示するバンド、シリカ・ゲルが語る活動再開後の新曲と韓国インディ・シーン
シリカ・ゲル(Silica Gel)は韓国のインディ音楽シーンで独特な地位にいるバンドだ。筆者は彼らほど「オルタナティブ」や「インディペンデント」という言葉が似合うバンドはいないと思う。
まずはシリカ・ゲルの名前を初めて聞く人たちのために、彼らのこれまでの歩みを簡単に説明しよう。2013年にバンド・メンバー5人、VJ3人の計8人による大所帯で結成し、2015年に自主制作EP『Five Views of a Zero-Gravity Deer』、2016年にフル・アルバム『Silica Gel』を発表すると、翌2017年の韓国大衆音楽賞の「今年の新人」部門(前年はヒョゴ、翌年はセソニョンが受賞している)などの新人賞を受賞し、デビュー当時からその実力が認められた。2017年末にEP『SiO2.nH2O』を発表すると、2018年1月にパラソルとの来日公演(シャムキャッツ、トクマルシューゴと共演)を最後に、メンバーたちの兵役のため約2年間の活動休止期間に入る。昨年8月に4人のバンド・メンバーのみの新体制でシングル「Kyo 181」を発表しカムバックし、年明け2月にはニュー・シングル「Hibernation」を発表。昨年10月にソウル・ホンデのライブハウス「ヴェロソ」で行った4日間の公演は、コロナウイルス対策のための人員制限はあったとは言え、全公演即完するなどライヴ・パフォーマンスも定評だ。
彼らの強みは、メンバー全員がシンセサイザーを使いこなし作曲・編曲も行えることを生かしたジャンル混交でテクニカルなソングライティングだ。デビュー当初の作品の、サイケデリック・ロックやドリーム・ポップ的な煌びやかな音像、壮大な曲展開、変則的なリズムを取り入れた実験性、強靭なグルーヴによる迫力あるバンド・サウンドは、多様な個性と確かな演奏力を兼ね備えたメンバーが集結したシリカ・ゲルにしか作れないものだった。
Silica Gel「9」Video
一方、約2年の活動休止期間を経た新曲「Kyo 181」、「Hibernation」は、エレクトロ色が濃くなり、演奏もよりコンパクトに洗練されるなど、シリカ・ゲルの新章を告げる楽曲だ。一つのジャンルにカテゴライズ出来ない音楽性で彼らにしか出来ない実験を繰り返すシリカ・ゲルは、現在進行形で進化しているバンドなのだ。
またメンバーはシリカ・ゲル以外でも重要な活動をしている。特にシンセサイザーとボーカルを務めるキム・ハンジュはセソニョンの一部楽曲をプロデュース、ギターとボーカルを務めるキム・チュンチュは筆者の韓国インディ連載記事でも紹介した通り、カー・ザ・ガーデン、キム・ドゥットルなど数多くのインディ・アーティストのプロデュースを行う傍ら、ソロ・プロジェクトPlaybookでも活躍している。
Playbook「Abandoned Umbrella」Video
またシリカ・ゲルのことは、当初VJのメンバーを3人擁していたことからも明らかなように、単なる「ロック・バンド」ではなく「総合的なパフォーマンス・バンド」と見た方がいいかもしれない。楽曲のプロデュースやミックスを自ら行うことは勿論、マーチャンダイズやライブの演出などでも自分たちの個性を表現しようとする。昨年11月にY2k92、セソニョンのファン・ソユンのプロジェクト、So!YoON!を迎えて行ったオンライン・ライヴSyn.THE.SiZE 신시사이즈 #01〉でも、オンラインの特性を生かした演出でファンを驚かせた。
[緑の照明の部屋でシリカ・ゲルが、紫の照明の部屋でSo!YoON!が、赤の照明の階段でY2k92がパフォーマンスし、この画像の通りそのパフォーマンスを反対側のビルからも撮影した]
本記事でお届けするインタビューからはメンバーたちが韓国のインディ・シーンの現状に懐疑的であることも読み取れるだろう。だが、シーンや「インディ」という言葉の持つ意味に真摯に、批判的に向き合い、取るべきアティチュードを常に考え、自分たちにしか出来ない音楽性とパフォーマンスを追求、それを自らの意思と力で実現しようとする彼らの姿勢はまさに、インディペンデント・アーティストの一つのロールモデルを体現しているように思える。そして、そんな彼らが提示しているのは、幾つものチームの分業で作品を完成させるメインストリーム、現状の韓国インディ・シーン、「音楽ジャンル」という枠組みといった目の前に転がるあらゆるものへのオルタナティヴな姿勢なのだ。
以下にキム・ハンジュ、キム・チュンチュ、キム・ゴンジェ(ドラム)、チェ・ウンヒ(ベース)の4人のメンバーと行ったインタビューをお届けする。活動開始後の新曲「Kyo 181」、「Hibernation」の音楽性から、メンバーたちの多様なテイスト、先述のオンライン・ライヴ、韓国インディ・シーンの現状や彼らの活動姿勢に至るまで、幅広いトピックについて話を聞いた。(取材・文/山本大地)
Interview with Silica Gel
──活動再開後に発表された新曲「Kyo 181」、「Hibernation」はエレクトロ・ミュージックのテイストがとても強く、「バンド・ミュージックやロック・ミュージックと、エレクトロ・ミュージックの境界線を壊そう」といった意思も感じたのですが、この2曲に共通する音楽的なテーマ、アプローチの意図があれば教えてください。
キム・ハンジュ(以下、ハンジュ):「Kyo 181」と「Hibernation」の共通点があるとすれば反復性が強くなったことだと思います。あとは、シンプルだけど強力なものを作りたくて、ポップ・ミュージックのフォーマットから借りてきた部分もあるし、以前少しあったプログレッシヴ・ロック的な展開も減らしたり、そういう意図が反映された2曲だと思います。
Silica Gel「Kyo181」Video
──「ポップ・ミュージックのフォーマットから借りてきた部分」と仰いましたがもう少し具体的に教えてください。
ハンジュ:私たちはこれまでは楽器を演奏してそのサウンドでアピールするタイプのバンドでした。例えば過去には「Two Moons」みたいに実験的な構成の曲もあったし、例えるなら演奏曲、クラシックのオーケストレーションのようなものをやっていた感じでしたが、今はギターやボーカルが中心になる曲を書くようになったという意味でポップ・ミュージック的なアプローチをした、今の大衆音楽にある基本に倣ったという風に言える気がします。
Silica Gel「Two Moons」Video
──ボーカルが中心にある音楽に変わった理由やきっかけはありますか?
ハンジュ:変わったといえば変わったのですが、これからは異なる2つのラインを持って進む感じで考えています。一方は「Kyo 181」、「Hibernation」のようなメインの曲たちで、もう一方では、最近も24分の長い曲を作ったのですが、そういう実験的なコンセプトもやっていこうと。
──「Kyo 181」よりハードなサウンドの「Hibernation」を公式の曲紹介文の中で「シリカ・ゲルのスタイルのメタル」と表現されましたね。その真意を知りたいです。
キム・チュンチュ(以下、チュンチュ):「Kyo 181」を起点にしてシリカ・ゲルのシーズン2が始まった感じなのですが、以前はサイケデリック・ミュージックとかそういうスタイルの曲たちがあったのに対し、「Kyo 181」を起点に以前よりも重たくてハードなロック音楽の感じがある曲を書き始めました。特に「Hibernation」は、私たちが今までアプローチしてみなかったスタイルは何があるか考えて、以前の曲が綺麗で華やかな感じだったと例えるなら、そうではなく「メタル」で熱いエネルギーを持ったスタイルの曲を書いてみたくて作ったんです。重たくて、ループがずっと反復するような。
Silica Gel「Hibernation」Video
──「Hibernation」のイントロの機械音を聴いて、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー、アルカ、ソフィなど、同年代の前衛的なエレクトロ・ミュージックのアーティストを思い浮かべたりもしました。具体的にこの間聴いていたどんな音楽がこうしたアプローチに影響を与えたと思いますか。
チュンチュ:もともと私はギタリストなので、ギター・ロックとして出来る最もディープなスタイルを作ってみたかったのですが、それがこういう怖くて怒っているような、攻撃的な感じの曲でした。シリカ・ゲルが持っている要素はエレクトロ・ミュージックもあるし、サイケデリック・ミュージックもあるし、そういうのが自然と混ざった結果、単純なメタルというジャンルよりは、「シリカ・ゲルが再解釈したメタル・スタイル」になったと思います。
──「Kyo 181」も「Hibernation」も同じメロディが反復されるだけのシンプルで制限のある曲構成ですが、全然単調な感じはしません。むしろその反復性を生かして、曲の中でギターとシンセサイザーのエフェクトが変化しながら、聴き手をサイケデリアに陶酔させているような感じで面白いなと思いました。こうした反復性のある構成について拘りがあったのでしょうか。
チュンチュ:しつこく反復するような構成は、過去にもシリカ・ゲルには「hrm」、「Orange」とかがありましたが、ダンス・ミュージックのように、ビート自体を楽しむ感じを出したいと思って書いてきました。「Kyo 181」は、ハンジュ……?(「Kyo 181」を作曲したハンジュに問いかけるように目配せして)
キム・ゴンジェ(以下、ゴンジェ):僕たちがしつこい人たちなので……(一同笑)。
ハンジュ:僕たちは別にしつこい人間ではないですが(笑)。ただその時そうしたかったからに近いので、どうしてこうやって作ったのかと推測するのは難しいですが、この曲を作った時僕がフィリップ・グラスをよく聴いて彼の自叙伝を読んでいたことは関係あると思います。あと、最近は多様になったけれどヒップホップも基本的にはループで作られた音楽だと思うし、そういうものから魅力を感じていたし、コードを使う音楽自体ループ・ミュージックじゃないか?という考えも前からありました。
──普段からヒップホップやエレクトロ・ミュージックも聴いていたことが新たな方向性にある程度影響を与えたようですね。では、活動休止前と比べてバンドの音楽に一貫していると思えるのはどんな部分でしょうか。
チュンチュ:一番大きな部分はシリカ・ゲルが作りたい音楽をずっとトライしてきたことだと思います。ただ、作りたい音楽はその時々で違ってきました。音楽ではなく他のメディアであるかもしれないですが、その時々のインスピレーション源から受けたアイデアを僕たちがやりたいまま実験して、その結果がよければずっとやってみて。僕たちはやりたいと思ったことを実行できる人たちなので、今後もそうやっていこうと思います。
──サイケデリック・ミュージックは常にシリカ・ゲルの音楽の核の一つであると思います。サイケデリック・ミュージックにはどんな魅力を感じますか。
ゴンジェ:基本的に音楽をやる人たちは、こうやって(テーブルを叩きながら)8分を叩いただけでも自分なりに何かを感じようとします。歌詞のようなものより、そういう形のある音から感情や意味を読もうとするんです。音に集中することが好きだとも言えると思います。サイケデリック・ミュージックは何かを感じたり考えたりするのに余地があるので、好きなんじゃないかと思います。
──シングル「Kyo 181」にはリミックスが3曲収録されましたね。以前もEP『SiO2.H2O』でリミックスを2曲収録していましたが、外部のDJ、プロデューサーによるリミックスを積極的に収録することに何か理由はありますか。
ウンヒ:意味を持ってやってはいないですが、その時その時この人が参加してくれたら良いだろうなと思う人にお願いしています。
チュンチュ:リミックスを収録することはシングルやEPを出す時の作品のボリュームを出すための方法だったとも言えます。普段から興味があった人やかっこよくやってくれそうだと思う人にお願いしたら、完成したものが私たちが考えていた方向性と異なるものになることもあり、それが面白かったりもするし、また他のアーティストと制作をすることは有難いことでもあるので、リミックスを収録することに意味があると思います。
──ハンジュは最近、逆の立場でペク・イェリンの「Lovegame」のリミックスをされましたね。他のアーティストの楽曲をリミックスする作業はどうでしたか?
ハンジュ:とても面白かったです。リミックスする時って、その人がどういうアーティストで、どういう編曲をしているとか、細かいデータに接するんですが、そこが面白かったです。深く考え過ぎたり、うまく作ろうとはせず、自分に何が出来るかを考えてアプローチしました。
ペク・イェリン「Lovegame」キム・ハンジュ Remix
──ハンジュとチュンチュは他のアーティストのプロデュースもよくやられていますね。プロデュース作業の経験から、シリカ・ゲルの音楽に活かせることがあるとすれば、どんなことだと思いますか。
チュンチュ:他の人たちと作業しながらプロデュースやミックスにおいて新しい実験やアイデアを試せるのが良いですね。そこでやってみた結果が良ければシリカ・ゲルにも活かせるし、その逆もあるし、そうやって互いに循環する感じです。他のアーティストの楽曲をプロデュースすることは僕にとって勉強する過程でもありますね。
Meaningful Stone「A Call from My Dream」(チュンチュがプロデュース)
ハンジュ:僕もプロデュース活動がシリカ・ゲルの作業にどう活かされるか楽しみでもあるし、チュンチュの言っていることと似ています。僕はプロデュースはセソニョン(Se So Neon)の楽曲だけしてきたので、セソニョンの楽曲のプロデュースはもはや「自分のもの」のようにやっています。
──歌詞は特別な意味を持たない曲が多いようですね。ハンジュは「僕が作る曲は何かを象徴する大きな意味が無いです」とインタビューで話していたことがありますよね。特別に何か考えがあるのか教えてください。
ハンジュ:僕は即興的に歌詞を書く方で、気楽に書いておいてそこから良い部分を使います。特別な考えは無いです。どうやって書いてもよく聞こえないとか言われるし(笑)。
──よく聞こえないというのは大丈夫なのですか?
ハンジュ:実は歌詞がはっきり聞こえなきゃいけないという考えが以前から無いんです。コクトー・ツインズから影響を受けているのですが、コクトー・ツインズも歌詞ははっきり聞こえないし、歌詞カードも作らなかったと聞いています。今後発表されるシリカ・ゲルの曲には歌詞が与える特別な雰囲気もあるので、もっと聞こえるようにやってみようという考えもありますが、今まではそんなに気を遣ってこなかったですね。
チュンチュ:僕の場合はボーカルも一つの楽器だと考えているので、歌詞によるストーリーテリングとかよりも、むしろ発声・発音から感じられる音楽的な部分や、特定の単語から感じられるトーンやイメージを表現するのに興味があって。歌詞の内容とかはっきり聞こえるかよりは、そういうことに集中して書いています。
──チュンチュにも歌詞を書くのに参考になっているような人がいますか?
チュンチュ:参考になったというよりは、印象的に聴いた曲が一つあります。ジェファーソン・エアプレインの「White Rabbit」という曲なのですが、幻覚っぽい内容の歌詞なんです。何が言いたいかわかりづらいけれど、彼女(グレイス・スリック)が歌う単語から感じられる何かがあって、そういう風に書いたら面白いなと思いました。
──メンバーそれぞれ少しずつ音楽の趣向が違うみたいですが、シリカ・ゲルの場合はそれが長所になっていると思います。メンバーたちはどう感じていますか。
チェ・ウンヒ(以下、ウンヒ):確かにメンバーの音楽の好みが違うなと思うことが良くあります。僕が思いつかないこと、出来ない部分を残りのメンバーが知っていたり、出来たりするから、長所になっていると思います。ただそれだけじゃなくて、共通の好みもあるので、コミュニケーションしやすくて良いですね。
チュンチュ:それぞれ聴く音楽や好みが違って、「彼はこんなのが好きなのか、聴いてみなきゃ」となることことで、バンドの音楽性の幅がより広くなるきっかけになって、作業しながら出てくるアイデアも多様になるので、長所になっていると思います。
──具体的に自分はこういう音楽をもともと聴いていなかったけれど、他のメンバーを通して聴くようになったというものはありますか?
チュンチュ:僕は実はエレクトロ・ミュージックはあまり聴かない方だったのですが、ハンジュがアンビエントやIDMとかをたくさん聴くので、気になって聴くようになりました。彼に教えてもらったり、自分で探したりもして。
ハンジュ:少し違う話かもしれないですが、例えばチュンチュが素晴らしいギタリストなので、それをどうやって生かせるかを考えて、レッド・ツェッペリンを聴くようなことがありました。実際僕だけじゃなくてレーベルの社長もそう感じるらしいんですが、チュンチュをジミー・ペイジのように出来ないかと思って。
ウンヒ:僕はハンジュとよく一緒にいることで、テクノ・ミュージックとかのクラブ・ミュージックを好きになりました。
ゴンジェ:僕も大雑把に音楽を聴く人なんですが、いつも他のメンバーの影響で新しい音楽を知るようになったり、こういう音楽あったよなと思い出させてくれるので、彼らに感謝しています。
──メンバーそれぞれ作曲や演奏のスタイルに影響を与えたと思うアーティストやジャンルの名前をいくつかキーワードとして挙げてみて下さい。
チュンチュ:とても多いですが、最近たくさん影響受けたのはバッハとかバロック音楽の作曲家ですね。バロック音楽が旋律中心の音楽なので、メロディを生かしてハーモニーを作っていくことに興味が生まれて。あとは最近よく聴いているのはアリエル・ピンクです。なんだかダサい感じがするけれど、可愛らしく、ちょっと怖くもあり、妙で面白い感じもして、ハマっていました。
ハンジュ:バッハもそうだし僕もクラシック音楽からたくさん影響を受けました。もともとクラシック音楽で音楽を始めたので、そこから離れられない何かがあるんです。クラシックが完全に自分の中の血となってしまっているような感じもして。あとは人生を変えた人としてトム・ヨークです。クラシック音楽から大衆音楽に転向する時のきっかけが実はレディオヘッドとトム・ヨークだったんです。最近も『Anima』を聴いたんですが、やっぱりすごい音楽ですよ。彼の生き方も手本になる部分があるし。
ウンヒ:僕はビートルズですね。最近もジョン・レノンやポール・マッカートニーのソロを聴いたのですが、僕が好きなビートルズ特有の古典的な感じがあって。
ハンジュ:ゴンジェがつまらなそうに見てるけど……(笑)。
ゴンジェ:いや、面白いよ!
チュンチュ:ゴンジェはビートルズ苦手だから……。
ゴンジェ:ビートルズの曲を最初から最後まで聴いたことがないんだ。おじさんの足の臭いみたいな感じが拭えなくて……。
チュンチュ:その臭いがいいんだけど……(笑)。
ゴンジェ:僕のキャラクターのせいもあると思います。皆が良いと思うものをあまり好きになれない…。また聴いてみれば気に入るかもしれないんだけど、聴いてみる気が起きないという…。
僕は伝統的なものにとても興味があります。曲名もない不思議な音楽や民族的な音楽とか。前に日本の雅楽や能楽とか、三味線音楽にもハマってた時がありました。中国のものもハマっていた時があったし、儀式とかで何かを祈りながら、当時の人間の技術ではどうにも出来なかったことを祈るのに使われたり、いろんな国のお葬式で使われる音楽も好きでした。ドラムの演奏的にもキューバやラテンの彼らにとって生活的なリズムであるものにハマって。ただ、韓国のは資料を探すのが少し難しいですが……。
──チュンチュはクラシック音楽から旋律的な部分を影響受けたと言っていましたが、ハンジュはクラシック音楽を学んでどんな影響受けたと思いますか?
ハンジュ:8歳から17歳の時まで10年くらいクラシック音楽を学んで、そこで音楽をやるスタイル自体を学んだので特にどこと言うのが難しいですが、当時は楽譜中心的な考え方になっていたと思います。もちろんクラシックも最近はジョン・ケイジとか現代音楽の場合は必ずしもそうではないですが。大衆音楽に転向してエレクトロ・ミュージックやシンセサイザーを扱うようになると、楽譜に表記されない曖昧な音が多くて、適応するのが少し難しかったです。シリカ・ゲルをやりながら、クラシックの影響を出来るだけ捨てようと努力をしましたし、今は楽譜中心的な考え方から離れて音楽をやっています。
──最近解散したダフト・パンクは皆さんにとってどんな存在でしたか?世代的にもたくさん聴いたかもしれないし、エレクトロ・ミュージックも取り入れているバンドの皆さんがどう聴いていたか気になりました。
ハンジュ:昨日も最近出たドキュメンタリーを見たのですが、僕にとってはとても濃い思い出のある音楽です。昔好きだった音楽を好きじゃなくなることってあるじゃないですか。でも、ダフト・パンクはそうじゃなくてむしろ僕が昔音楽を楽しんでいた記憶と繋がっていて。中学生の時が今まで一番熱心に、楽しんで、時に涙も流しながら音楽を聴いていたのですが、当時フレンチ・ポップにハマってメゾン・キツネのコンピレーションも出る度に聴いて、参加したミュージシャンについて調べたりしてて、その中心にダフト・パンクがいたんです。彼らはそういう記憶を思い出させてくれるし、今もその記憶をまた想像させてくれたのでこの質問をしてくれて嬉しいです。他のメンバーたちも一言ずつ話してくれない……?
チュンチュ:ダフト・パンクは僕もとても楽しんで聴きました。でも解散した時はただ「そうかあ」って感じでしたね。『Random Access Memories』のあとは特に何も作品が出なかったじゃないですか。僕は昔の音楽をよく聴くのですが、多くの場合彼らはもう活動していなかったり、亡くなっていたりします。でもダフト・パンクは僕が音楽をやっている間にも伝説的な存在だったし、そんな彼らが解散を迎えたので、彼らと同じ時代に音楽をやっていたと思うと不思議な感じです。
ウンヒ:僕たちは「炊飯器(ダフト・パンクのヘルメットのこと)=ダフト・パンク」と当然のように連想するけれど、後進のミュージシャン達はそうで無くなるんだなあとか考えました(笑)。
ゴンジェ:『Random Access Memories』が出た時から解散するんじゃないかって感じはしました。当時のインタビューの発言からも、終わりを暗示するような感じがして。あの作品で彼らが音楽的にトライしたことも、あれだけのゲストを呼んで作ったことも、彼らがやってきたことを解きほぐしていくようで、アルバム自体が「もうこれ以上やらないよ」って言っているような感じもして。だから解散に関して衝撃みたいな感じはなかったですね。
──昨年11月に行われたオンライン・ライヴ「Syn.THE.SiZE 신시사이즈 #01」は演奏もカメラワークもオンラインでしかできない試みをたくさんしていて、すごく面白かったですし、意味のあるライヴだったと思います。どのように企画され、ユニークなアイデアが生まれたのか教えてください。
「Syn.THE.SiZE 신시사이즈 #01」Video
ハンジュ:コロナウイルスの流行でオフラインでライヴが出来ない状況だからこそ、逆に出来ることをしてみたらどうだろうかという考えで企画を始めました。僕たちのクリエイティブ・ディレクターとして、ダソム・ハン(アート・コレクティブ、Dadaism Clubの中心人物。他にヒョゴ、イェジ(yaeji)らの作品も手掛けてきた)という人に参加してもらい、レーベルの代表と一緒にアイデアを出してもらいました。あと、僕たちはいつも何をするにしても少し面白く、変な風にやってみようという人たちなので、こういう形でライブをやる流れになったと思います。
──ライヴの機会はやはりコロナウイルスの流行でかなり減っていますよね。インディ・シーンを中心とした今の状況についてどう思いますか。特にTV番組に出たり、チャートで上位に入ったりしないようなインディ・ミュージシャンにはライヴの機会があることが、生活においても重要な意味を持っていると思いますが。
チュンチュ:ライブは継続的にやらないといけない状況だと思います。法的にやってはいけないと言われているわけではないのに、一時はライヴをしていたけれど、結局延期や中止になったり、また次いつ状況が悪化するかもわからないからって、最近は自ら(ライヴの機会を)諦めてしまっているような感じがするんです。もちろんそれが正しい選択だとも言えるかもしれないですが、このままではシーンやファンのテンションが下がってしまうかもしれないし、コロナウイルスの流行が収束して、ライヴをやりましょうとなっても、「ずっとやっていなかったんだからやらなくてもいいでしょ?」と考える人もいるかもしれないという不安が少しあります。もちろん注意や心配をしながらやっていかなきゃいけないですが、ずっとやらずにいていいのかな?と思います。むしろ制度の下で出来る規模のライヴなら出来るだけやる方向でいるのがいいんじゃないかなと思いますね。
──兵役による活動休止期間は音楽的な方向性やシリカ・ゲルのバンド活動にどんな影響を与えたと思いますか?
ゴンジェ:僕たちがお互い胸を張るようになったし、よりお互いを好きになったと思います。どんな方向性を誰が提案しても受け入れられる準備が出来たと言うか。あと、また喧嘩する準備も出来た、穏やかに……(笑)。
チュンチュ:一定の期間会うことがなかったので、その間一人で聴いて来た音楽から自らの音楽スタイルがよりはっきり構築された感じですね。活動再開してまた集まる時、より濃い温度感で方向性とかが多様になったり、アップデートされるのが良かったと思います。
ハンジュ:ワンピースで途中でメンバーたちがそれぞれ他の場所に旅立って2年後にまた集まる過程があるじゃないですか。そういう感じですね(笑)。
──ハンジュがあるインタビューで「僕たちは、チーム全員が一つの目標に向かっていく”チームワーク”のようなものではなく、それぞれが自由に才能をはっきしたときに生まれる結果であり、”チームプレイ”だ」と話されていたのが、それぞれの趣向やスタイルを尊重しようという意思にも感じられて印象的でした。そうした信頼感のようなものはどのように生まれたと思いますか?
ハンジュ:そのインタビューでの発言は、活動休止の時期を経て他のメンバーに信頼できる能力が生まれたのが分かったことで出たんだと思います。その発言をした当時はさっき話した24分の演奏曲を4日間スタジオに籠って、一緒に寝泊まりしながら作った時期でもあったし。その時もゴンジェのアイデアが予想も出来ない働きをした時もあったし、チュンチュのアイデアも使ったし、それをウンヒが編集してくれて。そうやって有機的にそれぞれが能力を発揮しながら絵が完成するような感じが良かったんです。どれだけ自由なチームだとしても統制は必要です。そういう役割を僕がチームの中心でやって来たのですが、これからもこういうやり方でグループの活動を広げようと思います。とにかく長い期間一緒にやって来て、それぞれのメンバーに能力があり、何がよく出来るかとかもわかっているので、信頼できるのだと思います。
──活動休止の期間を含めると結成してから約7年経ちましたね。シリカ・ゲルは特にどんな部分が成長したと思いますか。
ハンジュ:活動休止期間に会えなかった分、メンバー間の信頼関係が強まり、互いの大切さも気づくようになりました。それ以外にもメンバーが社会生活を経験してきたので、そこで得た自信みたいなものもあると思います。音楽的な部分よりも人間的、社会的な成長が大きいと思います。
──では、結成当時と今を比べると韓国のインディ・シーンはどう変わったと思いますか?
チュンチュ:僕はだんだんメインストリームとの交流が増えてきたという点では、良くなった部分もあると思います。ただその影響で、メインストリームでより重要視される、音楽とは別で取っつきやすいビジュアル的な部分とかが、インディでもアーティストのイメージが形成されるのに大きな影響を持つようになった気がします。今のインディ・シーンは丁寧に作った音楽を軸にしながらも、聴いてくれる人たちにアピールするためによりかっこいいイメージやビジュアル的な部分も努力したり勉強してみようという感じだと思います。それが少し残念にも思えるし、こういう時期だからこそ音楽を丁寧に作らなきゃいけないなとも思います。
ゴンジェ:インディ・シーン自体はライヴハウスがたくさん無くなってしまったよね。ただ、シーンというのは変わり続けるものなので、インディという単語が持つ意味も流動的に変わってきていると思います。なので、当時と今を比べるのも難しいと思います。
ハンジュ:この質問に関しては、それぞれで考えることは違うものだと思います。僕は「インディ・シーン」という表現より「アンダーグラウンド」という表現を使おうとしているのですが、シリカ・ゲルはシーンと言える枠の外で活動しているような状況だと思います。僕たちが自ら選んだことなのですが、アンダーグラウンドのシーンで活動をしながら良くないことも感じたので、そこからは距離を置こうとしてやってきました。そうして少し外からシーンを見てみると、今って解散したバンドも多いし、元気もなくなっているし、シーンと呼ぶには難しい感じがします。アンダーグラウンドで音楽をやっていた人たちは、元のバンドを解散して自由に活動している人もいれば、音楽を辞めた人もいるし、シリカ・ゲルのようにオルタナティヴなスタイルでやっている人たちもいるようです。今は変化の時期だと思いますが、その要因は良い音楽がそこからたくさん出てこないことにあると思います。また僕は自分がバンドをやっている人なだけに、バンドで音楽をしようとする人たちに対して批判的な視線を持つことが多くて、僕が感じているそういうネガティヴな部分も今良い音楽があまり出てこない理由にも含まれると思います。今の状況って、後からまた新しいことが生まれるだろうということを意味しているとは思うけれど、まだ何が変わったか振り返ることが出来る時期ではないし、コロナウイルスの流行が落ち着くまでは様子を見なきゃいけないと思います。
──先ほども自分たちはシーンと言える枠の外で活動していて、それを自ら選んだと仰いましたが、私も外からシリカ・ゲルを見ていて似たイメージを感じていました。一つのジャンルに留まることなく、多様なジャンルを取り入れて、常に新しいことを試している音楽的な部分からも見ても。
ハンジュ:最近はそういう(シーンと言える枠の外で活動しようという)考えを特別に持ってはいないです。勿論、良いネットワークが生まれれば、その時には良いシーンも構築されるでしょう。最近はシーンよりも小さなクルーという形態でグループを作る場合も多いようなので、そっちに可能性を感じたりもします。でも、僕は色んなミュージシャンと一緒に活動をしてみたいけれど、それを通してクルーとかシーンを作りたくはないですね。僕たちだけでも、一緒にいるのは楽じゃないので(笑)。今はやりたいことをやることがより大事だし、シーンやクルーのようなものに大きく頼らないようにしたいと思っています。僕たちはどこかに属するには曖昧なキャラクターになってしまったので、そう思うのかもしれないです。今の状況を僕たちは自任していますし。僕たちはずっとおかしなやつらでいたいし、オルタナティブな方向性でやって行きたいので。
ゴンジェ:「周辺人」みたいなポジションがめっちゃいいね。
※周辺人:韓国語で「二つ以上の異質な社会や集団に同時に属し、その両方の影響を受けていながらも、そのどちらにも属していない人」を意味する
チュンチュ:僕たちはインディペンデントな性向があるみたいです。「みんなでライヴを一緒にやろうぜ」と言う人たちのグループにも僕たちは属していないです(笑)。僕たちが「なんで入れてくれないんだよ!一緒にやろうよ」みたいなスタンスでもなくて、そのときそのときで僕たちがやりたいことをやることに集中したいし、こういうやり方でやっていけるだろうと僕たちだけで考えてやっているし。ただ、「同僚たち」が増えたらいいなとは思います。僕たちのように「ここはシーンというには曖昧な状況だし、僕たちがやりたいことをやろう」と考えているミュージシャンが多ければ面白いだろうなと思います。
──今のシリカ・ゲルのポジションについてはどう思いますか。外から見ていると、もっと注目されてもいいように思えますが、皆さんは満足されているのか、それとももっと注目を受けたいといった考えがあるのか、野心のようなものがあればお聞きしたいです。
チュンチュ:注目を受けられれば良いですが、僕たちが急に注目を受けるための音楽を作ることも出来ない人たちなので。流行と自分たちがマッチする時期が来るとか、そういうのは誰も知ることが出来ないと思います。偶然話題になるようなこともあるし、そういうものだと思っています。勿論、注目を受けてシリカ・ゲルがもっと大きいプロジェクトを出来れば、すごく面白いと思いますが、今は注目を受けるために僕たちのスタンスまで変えなきゃとは思いません。僕たちがしたいことを一生懸命やった結果、いつか意味のあることを一緒にしてくれる人がついてくれたり、あるいは僕たちが思う注目されて然るべきかっこいいことをずっとやっていったら、そういう時期が来ると思います。シリカ・ゲルのメンバーそれぞれがバランスを掴んでいることが大事じゃないか、マインド・コントロールをしながら、地道にやっていかなきゃいけないのではと思います。
──シリカ・ゲルというバンドの変化や成長を考えた時に、理想的なロールモデルだと思える存在っていますか。
ウンヒ:漫画「BECK」に出てくるバンド、Mongolian Chop Squadじゃないかと思います。バンドを始めた時に思い描いていたイメージがそうだったような気がするし、幼い時からハマってもいたので。最近もBECKみたいにやれれば、幸せだろうなと考えました。
ハンジュ:仮想のバンドを答えるのでいいのかな(笑)。
<了>
Silica Gel
Hibernation
LABEL : BGBG Records
CAT.No :
RELEASE DATE : 2021.1.29
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Text By Daichi Yamamoto