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【未来は懐かしい】
Vol.64
名門《Freestyle Records》発の最新コンピレーション・アルバムに聴く、知られざるUKブギー〜ストリート・ソウルの輝き

15 September 2025 | By Yuji Shibasaki

2003年にイベント・プロモーターのエイドリアン・ギブソンによって設立されたUKの《Freestyle Records》は、これまでに、ソウル、ファンク、レゲエ等のレア音源を数多く発掘し、多くのDJやリスナーから厚い信頼を得てきたレーベルだ。2021年には、本連載でも紹介歴のあるリイシュー・レーベル《Death Is Not The End》を運営してきたルーク・オーウェンが経営を引き継ぎ、UKダンス・カルチャーへの該博な知識を元に、新たな領域の開拓を続けてきた。

ここ数年の《Freestyle Records》の再発ラインナップをみると、そうした新傾向がはっきりと見えてくる。1980年代を通じてUKのマイナー・レーベルからリリースされた同国産のブギー、ブリット・ファンク、ストリート・ソウルの12インチ・レコードが続々と再発されているのがわかるだろう。

かねてよりこれらのジャンルのファンはそれなりに存在していたとはいえ、アメリカ産のブギーやモダン・ソウル系のレコードに比べると、DJ界隈においてはそこまで注目度が高くなかったというのが実際のところだろう。しかし、歴戦のディガーであるオーウェンのこと、まさにそうした領域にこそ、今耳にすべき良質なグルーヴ/サウンドがひしめいていることを発見したのだった。

実際に、同様の領域に強い関心を持つ人物は、彼だけではなかった。同じ時期、DJ/プロデューサーのジャイルス・ピーターソンとインコグニートのリーダー=ブルーイが新プロジェクト=Str4taを発足させ、その初作としてブリット・ファンクを主題とするアルバム『Aspects』(2021年)を、更に翌年にはストリートソウルへと接近した『Str4tasfear』を発表したのだ。

他にも、同じくUKのリイシュー・レーベル《Athens Of The North》が、ストリートソウルやそれに隣接するラヴァーズロック系のレコードをリリースするなど、ここ数年で(派手な動きではないものの)注目度が高まりつつあることは、明らかだった。

今回新たに《Freestyle Records》が発表したコンピレーション・アルバム『The Way U Make Me Feel: UK Boogie & Street Soul, 1980-1994』は、こうした一連の流れの盛り上がりを更に幅広い層へと印象づけることになるだろう。

本コンピの内容を紹介する前に、そもそも、ここで言うUK産ブギー、およびストリート・ソウルとはどんな音楽なのかを簡単に説明しておきべきだろう。 ダンスミュージックにおける「ブギー」なる呼称は、様々な由来と文脈が絡み合っているゆえに厳密な説明を加えようとするとなかなかにややこしい語になってしまうのだが(気になる方は拙編著『シティポップとは何か』等を参照してほしい)、ここでは簡単に、「ディスコ・ブーム通過後に、最新テクノロジーである電子楽器や強いビートを取り入れたダンス指向の音楽」と理解しておくのがいいだろう。なので、「UKブギー」と言った場合、UKで制作/リリースされた、そうした「ポスト・ディスコ」系サウンドを指すと考えれば問題ない。

では、ストリート・ソウルとは何か。こちらはよりUK独自の文脈に沿った言葉で、ひとまずは、同地産のファンク=ブリット・ファンクを元にエレクトロニクスの色彩が強まり、ドラムマシンやシンセサイザーが多用されるようになった音楽、ということができるだろう。また、それらを実際に制作していたのが主に小規模レーベルで、人脈的には西インド諸島からの移民二世らを中心としたラヴァーズ・ロック系のプロデューサーやシンガーと大いに重なっていることも特徴といえる。そのような背景はもちろんサウンド自体にも反映されており、メジャー発のUKソウル系音楽に比べるとシンプルで荒削りの部分も少なくなく、更にはダブ的な音響処理を伴うことも多い。加えて、フィーチャーされるシンガーも無名の者が多く、アマチュアリズムが感じられることも多い。

要するに、「インディー」で「DIY」な質感が強いのがこれらの音楽の特徴といえるわけだが、私見では、外でもないそういったサウンドの傾向こそが、現代のリスナーの審美眼に強く訴え得る要素になっていると感じる。もちろん、例えばシングル「Hangin’ On String(Contemplating)」の大ヒットで知られるルースエンズのように、後に人気グループへと成長したストリート・ソウル・シーン出身のアーティストもいないではないが、現在のDJカルチャー/ダンス・ミュージック文化の文脈では、やはり(結果的にヒットには至らず歴史に中に埋もれてしまった)マイナーな12インチ・レコードに注目が集まる傾向が強いといえる。

本作『The Way U Make Me Feel: UK Boogie & Street Soul, 1980-1994』に収録されているほとんどのトラックは、まさしく、そうした極めてレアな12インチ・レコード群から集められている。これらのほとんどは、ここ数年の間に《Freestyle Records》から単独うリイシューされていたものなので、そういった意味では、本コンピは実質的に一連の再発の総集編といえるだろう。

内容を聴いていこう。まずはM1のLa Famille & Caron Wheelerの「Dancer (Vocal Mix)」から。上述したことと矛盾するようだが、いきなりビッグネームのキャロン・ウィーラーが登場だ。だが、この曲は当然ながら彼女がブレイクするきっかけとなったソウルⅡソウル(彼らもまた、ストリート・ソウルとレア・グルーヴ〜アシッドジャズをつなぐ極めて重要な存在だ)在籍時よりも前(当時19歳)の音源で、1982年にマイナー・レーベルからテストプレス盤が出されたのみという激レア作だ。程よいエレクトロニクスが心地よい秀逸なブギー曲で、ほのかにダブ的なヴォーカル処理も効果的だ(ダブワイズ(的な)サウンドということでいえば、M3のDistance 「Just One More Kiss Featuring – Janey Halite」の後半パートにも注目)。 ブギー目線では、キャンディー・マッケンジーによるパトリース・ラッシェンのカヴァーM7「Remind Me」(1983年)も出色の出来(このシンセ・ベースをきいて「これこれ!」となれば、アナタは既にブギー・ファンです)。M8のEddie Capone’s Treatment「I Won’t Give You Up Featuring – Diane Jones」(1985年)、M9のT. J. Johnson Band「I Can Make It (Good For You)」(1983年)も同傾向の逸曲である。

M2のClarity「The Way U Make Me Feel」は個人的なイチオシ曲。1985年にゴスペル系歌手のサイモン・ウォーレス率いるグループがリリースしたものだが、これを聴いて同時期のジャパニーズ・シティポップ〜和ブギー楽曲を想起したアナタの感覚は正しい。同時期のUS産エレクトロ・ファンクなどを含めて、(大規模スタジオセッションに頼る必要のない)利便性の高い制作技術の浸透がいかに全世界的なものであったかを物語っているといえるだろう。

音像の特異性ということでいえば、M4のPause「It’s Just Amazing」がもっとも面白い。この空間を活かしたアンサンブルやリズムの質感はまさにラヴァーズ・ロック的。実際にこの曲のパフォーマーである「ポーズ」は、ラヴァーズロック系グループ=ジ・アドミニストレーターズのサイド・プロジェクトにあたる由。

更に、M10のPrivate Funk-Shun「All That I Wanted Was You」(1986年)はややフュージョン色強めのトラック。ブリット・ファンク・シーンとの連続性を感じさせてくれる内容だ。

M11のPurely Fizzycal「Make A Move」は、1987年の録音。この頃になると、ブギーの定式から離脱し、同時代のジャム&ルイス作品など、よりコンテンポラリーなサウンドからの影響が覗く(ラップも有り)。周辺ジャンルや同時代の流行を敏感に反映しながら発展していく様も、UKストリートソウルの面白さだ。

M6のRick Clarke「Gonna Make You Happy Featuring – Jill Francis」は、1992年がオリジナルだが、ガラージ〜ヒップホップ色を強めているのが興味深い。ストリート・ソウル・シーンから、グラウンド・ビート、UKガラージ、2ステップ他、UKのクラブ・カルチャーが太い線で繋がっていることが理解できるだろう。そして、ラストのGold In The Shade「I Really Love You So」は1994年のオリジナル。これもまた、同時代のサウンド傾向を如実に反映している。

UKのクラブ〜ダンス・ミュージック文化の奥深さと多種多様さ、そして、その中に連綿と流れるアメリカ産ファンクやソウル、そして西インド諸島由来の音楽的要素を再確認するにあたって、本コンピレーション・アルバムはまさに格好の素材といえるだろう。まだまだ「発掘」の最中といえるUKブギー〜ストリート・ソウル。《Freestyle Records》の仕事に引き続き注目していきたい。(柴崎祐二)

Text By Yuji Shibasaki


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『The Way U Make Me Feel: UK Boogie & Street Soul, 1980-1994』


2025年 / Freestyle Records


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柴崎祐二 リイシュー連載【未来は懐かしい】


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