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【Late Youth, Fast Life】
Vol.3
対等なコラボレーションが生むマジックが見せた
現行ブーンバップへの道標の一つ

27 April 2023 | By abocado

《Griselda》やアール・スウェットシャツなどの作品のプロデュースを手掛け、気付けば現行ブーンバップの最重要人物の一人となっているジ・アルケミスト。ラッパーとのアルバム単位でのコラボレーションにも積極的で、これまでにボルディ・ジェイムスやラリー・ジューンなどと共に作品をリリースしてきた。そして、そんなジ・アルケミスト関連作の一つ、オッド・フューチャーのドモ・ジェネシスとのミックステープ『No Idols』が4月20日にボーナス・トラックを追加した上で各種ストリーミングサービスで解禁・リイシューされた。

今作が最初に発表されたのは2012年8月。オッド・フューチャー名義のファースト・アルバム『The OF Tape Vol. 2』、フランク・オーシャンのファースト・アルバム『channel ORANGE』がリリースされたばかりの、オッド・フューチャーの全盛期である。ドモ・ジェネシス個人としてもラフなビートジャック作品の『Under the Influence』を前年に発表してラッパーとしての方向性と実力を示し、新たな代表作の誕生に期待がかかっていた時期だ。ジ・アルケミストも前年に発表したカレンシーとのタッグ作『Covert Coup』が話題を集めていた頃。ラッパーもプロデューサーも「旬」を迎えていた、最高のタイミングで制作されたのが今作なのである。

『Under the Influence』でサンプリングをベースとしたビートを好んで使っていたドモ・ジェネシスは、オッド・フューチャーの中でもブーンバップ志向の強いラッパーだ。ジ・アルケミストの作り出すソウルフルで捻りのあるビートとも見事なコンビネーションを発揮しており、冒頭を飾る「Prophecy」からそのマジックがはっきりと感じられる。なお、ドラムを(ほぼ)入れずにウワモノのループで引っ張っていく同曲は、《Griselda》などの試みにより浸透したドラムレス/弱ドラム系の曲だ。それ以前からMFドゥームなどが取り組んでいたためルーツとまでは言わないが、現行ブーンバップと同じ感覚で楽しめる曲であることは確かである。タイラー・ザ・クリエイターを迎えたタイトル曲ではビートスイッチも用意されており、今のリスニング感覚にも見事に合致している。

現在との繋がりという視点では、アール・スウェットシャツが3曲で参加していることも見逃せない。近年はお互いの作品に参加し合っている黄金タッグのアール・スウェットシャツとジ・アルケミストだが、その初合体は(恐らく)ここである。さらに、後にジ・アルケミストとのタッグ作を発表するアクション・ブロンソンやフレディ・ギブスも参加。古くからジ・アルケミストとの作品を多く残してきたモブ・ディープのプロディジーも駆けつけており、今聴くとジ・アルケミスト周辺のオールスターのような面々が揃っている。とはいえヴィンス・ステイプルスやタイラー&アール兄弟といったオッド・フューチャー人脈、ドモ・ジェネシスと大麻愛(420に解禁!)という共通点を持つスモークDZAのようなラッパーも参加しており、どちらに寄り過ぎるわけでもない対等なコラボから生まれる人選だ。

この「どちらに寄り過ぎるわけでもない」というのはサウンド面でも同様で、ジ・アルケミストらしさを保ちつつも、タイラー・ザ・クリエイターの「Yonkers」に代表される当時のオッド・フューチャーのダークなムードに寄せたような曲がしばしば見られる。例えば「Elimination Chamber」や「The Daily News」での不気味なビートは、まさしく当時のオッド・フューチャーらしいスタイルだ。どちら寄りでもない人選で異彩を放つスペースゴーストパープが薄気味悪いヴァースを披露した「The Daily News」は、この時期の「旬」の煌めきが感じられる今作のハイライトの一つである。

ラップもビートも身内で完結させるDIY集団のような側面があったオッド・フューチャーにとって、このタイミングでの外部プロデューサーとのコラボは今振り返ってみると新たな一歩である。また、シーンの異端児のように扱われることの多いオッド・フューチャーが、ヒップホップのどの文脈に位置付けられる集団なのかを示す作品でもあった。この後オッド・フューチャー勢は外部アーティストと積極的にコラボレーションを重ねていき、アール・スウェットシャツは現行ブーンバップの筆頭格へと成長していく。また、先述した通りジ・アルケミストにとっても現在に繋がるようなものが散見される作品である。現行ブーンバップへの道標の一つとして記憶されるべき重要作だ。(アボかど)

The Alchemist – 「Loose Change feat. Earl Sweatshirt」(2021年の『This Thing of Ours』収録)

〜連載バックナンバー〜
【Late Youth, Fast Life】
Vol.2 Dr. Dre『The Chronic』
サンプリング・ソースとしてだけではなく、隣接ジャンルとして他ジャンルに向き合う
http://turntokyo.com/features/series-lyfl-vol2-the-chronic/

Vol.1 Big Sean『Detroit』
現在でも通用するビートでラッパーとしての実力を強くアピール
http://turntokyo.com/features/series-lyfl-vol1/

Text By abocado

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