「こんなラップ・アルバム他にないでしょ」
独自の世界観を構築するヒップホップ・ユニット
OGGYWESTが新作『무섭다(ムソプタ)』で描き出す、不安や恐れ
疫病、戦争、テロ。世界を真っ黒な雲が覆い、地上は息つく間もないほど荒れている、そんな様相だ。ここ数年のネガティヴに思いを馳れば、ズブズブと沈んでいってしまうのは簡単かもしれない。いや、人の感情とはそんな単純なものなのだろうか。
少なくとも、そういう現実を生きている認識が彼らにもあるのではないか、とOGGYWESTのサード・アルバム『무섭다(ムソプタ)』を聴いて筆者は思った。実際、シリアスでありながらもどこかユーモラス、またはカオティックでありながらもチルいOGGYWESTらしい世界観を提示する本作は、同時に生々しく現代生活を見つめるアルバムでもある。
LEXUZ YENとヤング・キュンによる、西荻窪を拠点とするこのヒップホップ・ユニットの活動は大半がコロナ禍に重なっていた。2020年にファースト・アルバム『OGGY & THE VOIDOIZ』、2021年にセカンド・アルバム『sulfur』をリリースした彼らの音楽には、当然のように、孤独な時間への眼差し、ハードな表情とリラックスした表情の両方があり、その生活感と音楽性により唯一無二の世界観を作り出している。
スムースな展開と一貫したムードの中で、何か刺さるものが、引っかかるものが確かにある。そんな本作のタイトルである「무섭다(ムソプタ)」という言葉は、不安や恐れを意味する。展開される、遊び心あふれる多彩なビート、サウンドの数々は、いつものように、ユニークにこの世界の混沌をそのまま映しているようでもあるが、一方で本作はとりわけ内省に浸っている印象もある。
本作にパッケージされている空気感の生々しさは、この時代特有のものでもありながら、同時に、内省的な側面において普遍的な何かを獲得しているようにも聞こえる。少なくとも、『무섭다(ムソプタ)』には、どん詰まりと開放の瞬間、孤独と快楽に身を委ねる姿、大胆さと繊細さ、その全てが刻まれていると言えるだろう。そんな感覚を携える本作について、作品に対して抱いた印象を率直に投げながら、本人たちに話を聞いてきた。彼らが何を思いながら、この怪作、または本人たちも自称するところの、最高傑作を作り上げたのか。できるだけ詳細に彼らの声をお届けしよう。
(取材・文/市川タツキ 協力/高久大輝)
(向かって左から、ヤング・キュン、LEXUZ YEN)Interview with OGGYWEST
──OGGYWEST名義だと前作『sulfer』から、約一年半ぶりの新作ということになります。まずは本作の制作の経緯から簡単に教えていただけますか?
LEXUZ YEN(以下、L):『sulfer』と今作の間に、粗悪ビーツ(soakubeats)さんとのアルバム『永遠』のリリースも挟んで、とりあえずまた自分たち名義で一枚出したいなと。
ヤング・キュン(以下、ヤ):元々『sulfer』の前の『OGGY & THE VOIDOIDZ』に収録されている「ヘル・ハワイ」という曲でビートを提供してもらって、最初はその流れで粗悪さんとEPを一緒に作りましょうという話になって。そこから『sulfer』の制作が終わったタイミングでそっちを進めたから、結果的に『永遠』にかなり時間をかけたんだよね。
L :話が出てから2年くらいですかね。ビート自体は結構早い段階であったんですけど、人のビートで作るのも初めてで、なかなか手がつけられず。
ヤ:基本的にそれまではLEXUZがビートを作って、制作も二人で内にこもってやっている感じだったので、外部の人からビートをもらってまとまった作品を作るというのは、確かにほぼ初めての経験でした。あと、ちょうどコロナウィルスの時期と制作が重なっていたのも大きかったかもしれない。
L:僕らの活動の大半がコロナと重なっていましたからね。
──それこそファースト・アルバム『OGGY & THE VOIDOIDZ』の制作時期が、ちょうどパンデミックと重なっていたんですか?
L:そうですね。それこそ当時はVOLOJZAさんに誘ってもらって《BATICA》でライヴをやる予定だったのが、コロナで無くなったりもして。それで、その後にファースト、次の年にセカンド、同年の末に『永遠』をリリースしていって。で、昨年は何も出してないんですよ。
ヤ:AIWABEATZさんとの「Saturation」というシングルは出したんですけど、OGGY単独では何も出さない年でした。
──確かに昨年まとまった作品は出してないですよね。
ヤ:ただ昨年の夏ごろに、スタジオを借りまして。それまでは基本的に西荻のLEXUZの家で宅録する形でやっていたんですけど、プライベートな居住スペースでもあるので、その部分でだいぶ厳しくもなって。
L:妻もいますからね。やっぱりスタジオとしてやるにはどうしても人の出入りもありますし、ご近所さんも含めて、騒音も気になりますから。だったらいっそのこと部屋を借りようと、物件を見ていて、武蔵小金井に防音室がついているアパートを見つけて、そこを今ではOGGYSTUDIOとして使っている形です。
ヤ:それが昨年の8月ごろで、そこから本作を本格的に作り始めました。
──場所ができたことによって、集中してアルバムの制作に取り組めたわけですね。
ヤ:ただ、タイトルの“무섭다”っていう言葉自体は、それ以前からLEXUZが言っていて。もう少し前からLEXUZの中ではコンセプトがあったんじゃないかなとは思うんですけど。
L:元々『sulfer』の続編的なものが作りたかったんですよ。サウンドとしてもロックっぽいものにしたくて。結果的にはそこまでロック要素は無くなってしまったんですけど(笑)。
──確かにそうですね(笑)。
L:ただなんとなく暗いものを作りたいというコンセプトはあって。自分、韓国のサスペンス映画が好きなんですよ。例えば、『殺人の追憶』(2003年)とかを見て、あの日本とは違うじめっとした質感と、一方でどこかコミカルな側面があったりする、あのバランスの絶妙さに惹かれて、本作もそういうムードの作品を作りたかったというのはあります。
──そのバランスを目指したというのは、アルバムを聴いてもすごく納得しますね。
L:同時に今の政治とか世界の現状に対して“恐ろしい”という感情を、そもそも持っていたんですよね。で、“恐ろしい”の韓国語を調べると、アルバムのタイトルになった“ムソプタ”という言葉が出てきて。その言葉をモチーフにしたら面白いんじゃないかと思ったのがきっかけです。表題曲で1曲目の「무섭다(ムソプタ)」のビート自体は、スタジオを作る前からすでにできていて、作品としてはそこから膨らませていきました。
──『무섭다(ムソプタ)』は、カオティックな様相の中に、どこか爽やかな瞬間もあるようなOGGYらしい作品でもありつつ、より内省的な色が強くなっている印象です。先ほど『sulfur』の続きともおっしゃっていましたが、その部分も含めて、お二人から見て今までの作品との変化はどこにあると思いますか?
L:やっぱ歳じゃないですかね(笑)。
ヤ:それは大きいですよね。あとは、やっぱり今回の変化ってLEXUZが自分のことをラップしているのも大きいと思っていて。歳とともに、やらなきゃいけないこと、対応しなきゃいけないことも増えて、同時に体は衰えていく。そのどん詰まり感は影響しているのかなと。あと、単純に売れねえっていうのもでかいですけど。
L:歳をとると金がないことがリアルになってくるというか。ハタチくらいで音楽を始めたとして、20代半ばで金がないのはある程度は開き直れると思うんですけど、30代半ばで金ないと、リアルだなっていう。
ヤ:リリックでもそのカツカツ感は描写していて。今、いろんな物の値段も高くなっていく中で、差し迫った問題としてリリックに入れていますね。
L:辛気臭くて申し訳ないです(笑)。でも、誰しもが直面している問題でもあるとは思うので。ある種のラッパー的なボースティングから外れて、仮面を被らないで生活を直に描写した結果ですかね。ただ先に「무섭다(ムソプタ)」という象徴的な言葉を冠していたおかげで、自分たちの生の言葉の中に、戯曲性というか、フィクショナルな要素も持たせられたかなと思っています。
──アルバムのストーリーとして、ということですよね。
ヤ:少なくとも「무섭다(ムソプタ)」という言葉がパッケージ的なものとして非常にわかりやすかった。
──「무섭다(ムソプタ)」という言葉は様々なものに向けられているように感じます。社会に対してもですし、人生、将来に対しても……。
ヤ:そうですね。さらに言うのであれば、その“恐ろしい”という感覚は、外に向けられてもいながら、自分に向けている部分もある気がします。今作では過去を振り返っている場面も多くて。2人とも地元はバラバラですけど都会育ちではないですし、ちょっと郊外の武蔵小金井という場所に移って、その中で地元や過去を思い出しながら、これまでの歩みの間にあった様々な“恐ろしいもの”にも目を向けていたんじゃないかなと。
L:自分の中にも恐ろしさを感じるという感覚は確かにありますね。今作で言っていることって、正直ルサンチマンの塊のようなことだとも思うんですよ(笑)。その中で、それが非モテ中年男性の攻撃性として、自分でも聞こえてしまうことがたまにあって。我ながら「酷いな(笑)」とも思うんですけど。例えば、今ミクロなテロリズムが日本中で起こり始めているじゃないですか。そういう事件を起こしている人たちと、一瞬でも心情が一致してしまっていることとか、そういう場面では自分に対して恐れを感じます。
──なるほど。
L:例えば『テロルの原点』という本があって。大正時代に財閥の安田善次郎を暗殺した朝日平吾という人についての本なんですけど。彼はとてもナルシスティックでありながら、誰も受け入れてくれないという鬱屈した感情をだんだん外部に向けていって、事件を起こしてしまう。そういう人たちと自分たちは違うと言いたいけど言い切れないところもある。当然暴力には反対だけど、鬱屈した感情は否定しきれないというか。後からアルバムを聴き直していると、そういう感情が出ている場面もあってまさに自分に“恐れ”を感じたりもして。そういう点でもこのタイトルは間違っていなかったなと思っています。
LEXUZ YEN──個人の内省と社会が密接に関係しているということですよね。例えば『ジョーカー』(2019年)というテロリズムを描いた映画がありましたが、あれはまさに危うい形であれど、今お話ししてくれたようなことが描かれていたと思います。
L:そういうことを意図して作ったわけではないんですけどね。後から聴き直した時にそう感じて、自分に対しての恐れという、タイトルの解釈が一つ生まれた感じですね。
──OGGYWESTの作品における政治や社会の描写に興味深さを感じています。例えば、本作で登場する“国葬”というワードも、あくまで曲の主人公の生活の背景として描かれている印象です。政治や社会が、個人の生活の背景にあるという前提をまず認識し、その生活をあくまでスケッチ的に切り取っているのがOGGYWESTのリリックの特徴なのかなと思っているのですが、そういったスケッチ感は、お二人の中で意識していますか?
ヤ:そこは悩んだところでもあって。例えば「自民党が嫌いだ」とか、直接的なことを歌うのか、それとも敢えて避けるのかという点で、何度かリリックを書き直しているところもあります。自分の思っていることや問題意識は、やっぱり言いたいし、言うべきだとも思うんですけど、その反面、パーソナルなものではありながらも、あくまで音楽作品として聴かれて共有されるものでもあるので、あまり限定された感じにしたくなかったというか、具体的な思想を押し出さなかった結果、スケッチ的になっているのかもしれないですね。
──なんとなく“現実感のない現実”を生きている感覚というか、そういった世界での生活をスケッチ的に写している感覚なのかもと思ったりもしたのですが。
ヤ:自分自身とそういった社会との距離が無意識的に出ているところが、もしかしたらあるのかもしれないです。
L:遠藤賢司の「カレーライス」という曲が好きで。その曲ではカレーライスを作っている日常的な風景の中で三島由紀夫の割腹自殺について歌われていたりするんですよね。そういう、日常の中で世情を示すようなワードを、OGGYWESTでは、自分がしない反面、ヤング・キュンが入れてくれていて。それである程度OGGYWESTのキャラクターができているとも思いますね。
ヤ:先ほど言っていたリリックが入っている「くだん」という曲の自分のヴァースは、女の子にデートに誘われていってみたらマルチの勧誘だった、という実体験ベースの内容なんですけど、そういった世情の中で生活しながらも、個人としてはかなり俗っぽく動いている様子も晒していて。ただ、あそこでLEXUZが<不安が俺を通して声を上げる>と歌ったことで、タイトルの意味も含めて妙に腑に落ちたというか。そこでアルバムの全体像がはっきりした気がしますね。
ヤング・キュン──実体験の部分とフィクション的な部分のバランスもOGGYWESTの作品の面白いところですよね。
ヤ:そう考えると今回は割と実体験ベースかもね。
L:確かに今回はそうかもしれないね。自分は本来あまりそういうことをラップしなかったんですけど、今回は自分のこともラップするというのを意識的にやったというのはあります。
ヤ:他の作品だとメロウなラヴソングが入っていたりもするんですけど、本作はラヴソングがゼロで、自分たちの日常を歌うことに特化しました。なので逆に二人だけだと息苦しい感じになってしまいそうなところを、客演の方々の参加によって、アルバムとして通しで流せるものになった感じはありますね。
L:最初、まだフィーチャーが無い時点で7曲くらい集まった状態のものをVOLOJZAさんに送って感想をもらったんですよ。そしたら「あまりにも息苦しすぎる」と言われて(笑)。「客演をもっと入れたほうがいい」と言われたので、MUTAさんやなかむらみなみさん、RYUKIさんに参加してもらって、それが結果成功でしたね。それこそ「I love you」も歌詞をよく読むと暗いことも歌っているんだけど、それも気にならない感じのバンギンな曲になっている。
ヤ:そうだよね。VOLOさんのインタールードが入って、そこから客演の2曲が挟まる、あの構成でアルバムを通して聴ける形になったよね。
L:VOLOさんのインタールードの位置は構成として結構考えていて。あそこでサウンドとして重苦しい雰囲気が一回終わって、そこからMUTAさんのタイトなラップが入る曲が始まるっていう。
──VOLOJZAさんのインタールードは歌詞も面白いですよね。心細く内省や性格を歌う歌詞は、OGGYWESTの作品の中では珍しく聞こえました。同時に曲自体は歌でありながら自らをラッパーだと言っている姿も。
L:あれが送られてきた時、作品のいい区切りになると、一安心しました。
ヤ:自分なりにこのアルバムを流れとして聴くのであれば、最初に「膨張」や「くだん」のような曲で、自分たちが抱える問題や怒りが描写されて、そこからVOLOさんのインタールードや客演の人たちとの曲が入って、後半に「MESSED UP」とか「絶滅」みたいなメロウな曲が入って、「Kill You Tonight」で締まるという流れだと思うんですけど。後半でメロウになっていくにつれて、過去を回想したりする場面も増えて、「Kill You Tonight」でいい感じになって終わる。何も解決したわけじゃ無いんだけど、なんとなくいい感じになって終わるというか(笑)。シリアスなんだけど、そこで少し違ったムード出せるのはOGGYの良い所なのかなと。
──確かにそうかもしれないですね。個人的にもユーモアはOGGYWESTの特徴だと思っています。本作では「MESSED UP」が顕著ですけど、ドス黒いものの中で、一瞬爽やかな瞬間というか、垢抜けた瞬間が、OGGYWESTの作品にはいつもありますよね。
L:あの曲は確かに清涼感がありますよね。ただ相変わらず歌詞は、リラックスするようなことは歌ってなかったりするんですが。
──本作を通して、孤独感や喪失感が常に感じられるのも印象的でした。その中でも、他人を突き放したり、自分から孤独を選んでいる歌詞が多かった気がします。「I love you」における<こんな日々にお前はいらない>や、「ベラドンナ」における<誕生日だから1人でのったメリーゴーランド>など。先ほど、本作にはラヴソングが一つもないとおっしゃっていましたが、そういった孤独感についてはどうでしょうか?
L:それは書いている間思っていました。まさにこれを作っている最中、自分の中で沈んでいる時期で、そういう気分になっていたっていうのはあるかもしれないです。ある種のイジケというか。
ヤ:結局傷つきたくないから一人でいいやとか、誰かと向き合わなきゃいけないことが自分の中で枷になっていく感覚ですよね。自分の負担を減らすために離れていくというか。だいぶ拗らせている感じですけど。
L:拗らせ中年のブルースみたいな(笑)
ヤ:乾いた孤独感ではない感じですよね。本当は色々思っているからこそ孤独になるっていう。
L:ある熱心に聴いてくれたリスナーの方が、作品自体は褒めてくれつつも「共感してしまうような人生を送りたくなかった」と呟いていて。そういう生々しさがあるのかなと。あまり自分とかは聴く人のことは考えずに、とりあえず自分のことを吐露しようと思って作っていたから。その中で、そういう部分が刺さる人もいるんだろうなと。
──本作で描かれているものって、孤独を愛する感覚なのかもと思ったりもしたのですが。
L:孤独を愛してもいますね。SNSでずっとつながっていることが当たり前の中で、孤独とか、一人でいる時間はものすごく大切だと思いますし。その中で時にネガティヴになることもあるけど、やはりそれも含めて必要な時間だとも思います。特に、そういう時間って、アーティストにとって大事なものだとも思いますし。孤独だからこそ生まれるもの、表現が多々あるというか。
ヤ:あとそもそもお互い一人が好きなのも大きいと思います。それぞれの核に常に“一人”っていうのがあって、そのお互いの擦り合わせの歴史こそが、OGGYWESTの歴史な気もしています。
L:それも最初はもっと楽しげにやっていたんですけどね(笑)。
ヤ:そうですね(笑)。ただシリアスやネガティヴの中に常にユーモアを忘れないことが大事なのかなと。
──まさに、シリアスの中で光が見える瞬間こそ、個人的にOGGYWESTの作品の好きなところでもあります。その一方で、孤独感に共感してしまうところもあって、そういうある種真逆の時間やムード、感情が同居しているところにも、魅力を感じます。
L:実際毎日シリアスになってばかりでもいられないですしね。家に帰れば妻と話すし、友達と飲めばバカ話もするし、そういう時間も一方で大事ですよね。例えば、「Kill You Tonight」とかは、ふとしたときにそういうことを感じられるような曲としても聴けるかなと。
──確かにあの曲は日常のポジティブな側面を映した曲としても聴けますよね。サウンドとしても開放的ですし。
L:自分たちにしては“ヒップホップ”って感じのビートだと思っています。
ヤ:さっきLEXUZも言っていたように、元々は『sulfur』の続きとしてロック寄りのコンセプトがあったのかもしれないけど、出来上がってみるとちゃんとラップアルバムに仕上がったなという印象でした。
L:今までで多分一番ラップしている作品なんじゃないかな。
──『sulfur』の終盤にはパンクテイストの楽曲(「OGGYGANG」)もあり、その流れからロック的なコンセプトを目指していたというのは非常に納得がいくのですが、アルバムを作っていくうちに方向性が変わるきっかけがあったんですか?
L:「무섭다(ムソプタ)」の1曲で力尽きてしまったというか。意外とロックのモードにならなかったんですよね。そのときの気分ではあるんですけど。
──OGGYWESTの音楽を聴いていると「この人たちは普段どんな音楽を聴いているんだろう」といつも思うのですが(笑)。アルバムの制作時に聴いている他の音楽に、リアルタイムで影響されることはあるんですか?
L:それは結構直に出ますね。例えば「무섭다(ムソプタ)」を作っているときは、スラッジ・メタル系のサウンドに影響を受けたりしています。
──本作は特にサウンドのバリエーションが豊富です。
L:本当にそのとき聴いているものがストレートに出ている感じですね。それこそ「くだん」とかは古いシンセっぽい音を出したくて。80年代後半から90年代前半の、ニューエイジやアンビエントっぽい音にしたかったんですよ。まあ、あとは普通にトラップとかも聴いていますし。
ヤ:そう考えると意外にサウンドとしては今までで一番幅広いのかもね。統一感はあるけど引き出しは多いというか。
──ストーリー性もあって流れで聴けるんですが、それぞれよく聴いてみると全く違う曲だらけだなという印象です。
L:本当は全部トラップのものとかもやってみたいんですけどね。でも結局作っていると飽きちゃうので。
──最近よく聴いている作品はありますか?
ヤ:最近だとJUMADIBAの曲が好きですかね。
L:自分はDuke Deuceの『MEMPHIS MASSACRE Ⅲ』(2022年)が最高でした。メンフィス・ラップが好きなんですよ。自分のラップにメンフィス味はあまりないんですけど(笑)。ちなみに参考にしたという点だと、今回のアルバム用にプレイリストも作りました。めちゃくちゃですけど(笑)。
──確かにめちゃくちゃですね(笑)。サザン、ジェイ・Z、ナパーム・デス……。
L:El-Pとかは結構サウンドを参考にしたりしました。
──サザンオールスターズも入っていますね。これは地元の影響ですか?
L:出身は町田なんですけど、神奈川の学校に行ってて。
──桑田佳祐さんも暗いことや俗っぽいこと歌いながら、そこにユーモアを携えていますよね。
L:メロディセンスもすごくいいじゃないですか。なりたいのは桑田佳祐さんかもしれないです(笑)。
──今回こういった切迫感のあるアルバムを作って、次に何をやるのかというイメージはすでにお二人の中にあったりしますか。
L:正直次のことは考えてないですね。ただ、少なくともこういうアルバムにはならないというか。もっとポップなものがやりたいとは漠然と思っています。
ヤ:個人的にも本作は、今までで一番完成度が高いと思っていますし、かなり煮詰まったものができたので、また時間をかけて違うものになるのかなと思います。
──やはり基本はアルバム単位で動く形ですか?
L:アルバム単位で動くのが好きですね。シングル向きでもないですし。
ヤ:ある程度まとまった曲数で世界観を作るのが好きですね。
L:それを想像するのも好きです。まあそのやり方は今あまり売れないのかもしれないですけど。
ヤ:そうかもね。ただ、そうは言っても「今どきこんなラップ・アルバム他にないでしょ?」というのは最後に声を大にして言いたいですね。
<了>
Text By Tatsuki Ichikawa
OGGYWEST
『무섭다(ムソプタ)』
RELEASE DATE : 2023.3.22
ご購入(デジタル)はこちら
https://oggywest.bandcamp.com/album/–2
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