Meaningful Stone、キャリア総括インタヴュー後編
「音楽は神聖なもの」
現在に至る音楽性の変化とニュー・アルバムを語る
2020年に発表したファースト・アルバム『A Call from My Dream』で韓国大衆音楽賞の今年の新人賞を受賞するなど、韓国インディ・シーンを代表するシンガー・ソングライターとして活動を続けているMeaningful Stone(キム・トゥットル)。前編記事に続く、この後編記事でフォーカスするのは『A Call from My Dream』発表後、昨年末に発表したセカンド・アルバム『Angel Interview』までの期間だ。
前編記事
https://turntokyo.com/features/meaningful-stone-interview-part-1/
ファースト・アルバムの成功と大衆のリアクションへの戸惑い、自らの世の中や自分への視線の変化、それらを受け入れること……。今回のインタヴューで分かったのは、こうした20代後半から30代に差し掛かるミュージシャン、誰もが経験するであろう環境や心境の変化が、表現や音楽性にもダイレクトに影響を与えていたことだ。
2021年に発表したEP『Cobalt』では、元々の柔らかなフォーク、インディ・ポップのイメージを壊すように、ディストーションをかけ荒々しくギターを鳴らし、ステージ上では叫びもした。かと思えば、2023年には再びアコースティック・ギターに持ち替え恋人との5度目の春を祝うロマンチックな「The fifth Spring」を発表。その音楽性だけを切り取れば、どっちつかずな印象を持っていた人も多いかもしれない。
一方、昨年末に発表した4年ぶりとなるフル・アルバム『Angel Interview』には彼女のパーソナルな変化の過程を経たからこその新たな気づき、成熟した姿が反映されている。瞑想中に天使から聞いた言葉を元に作り上げたというコンセプトは、夢でかかってきた電話で聞いた話を元にしていた『A Call from My Dream』の延長上にあるものの、今作での彼女は遠くから語り掛けてくる天使のような幻想的な歌声で、目の前の美しい景色を受け入れようと、肯定的なメッセージを投げかけている。
『Angel Interview』はサウンドの完成度も高い。彼女のキャリアを総括するようにフォークからシューゲイズまで多様なジャンルを取り入れつつも、インディ・ロック・バンド、Bye Bye Badmanのメンバーで、韓国インディ・シーンの最重要プロデューサー、グルム(Cloud)とともに統一感ある、アルバムのコンセプトにもあったドリーミーな音像を作り上げている。結果、本作は韓国大衆音楽賞のベスト・モダン・ロック・アルバム部門にもノミネートするなど、彼女にとっての新たな代表作として評価されることとなった。
このようにDIYなシンガー・ソングライターとして活動を始め、幾多の変化を繰り返しデビューから8年の中堅ミュージシャンとなったMeaningful Stone。音楽性の変化から、『Angel Interview』全体を覆う幻想的なムード、そこに至らせた天使とのやり取りや、彼女の成長の中での気付きなどのパーソナルな部分まで、今回の記事も読んでくれた方が共感できる話もあるだろうし、“神聖”なメッセージを歌う彼女ならではの教訓も含まれているだろう。前編の記事と合わせて読んでみてほしい。
(インタヴュー・文/山本大地)

Interview with Meaningful Stone
──2021年のEP『Cobalt』で「Meaningful Stoneというとフォークやインディ・ポップ」というリスナーたちのイメージを壊すようにオルタナティヴ・ロック・サウンドに挑戦されましたね。このサウンドの構想はいつ頃からあったのでしょうか?
Meaningful Stone(以下、MS):前のアルバム『A Call from My Dream』を作っている時から考えていました。あのアルバムはほとんどが10代の時に書いた曲で、アルバムを制作しているときの私についての曲ではなかったので、私の気持ちが既にアルバムから離れていたんです。当時、みんなに「これは聴かないで。これは私が今やりたいことじゃないから。忘れてください。別のものを準備しています」なんて言っていました。「Beep-Boop, Beep-Boop」のような、ロック・サウンド、バンド・サウンドで、生のエネルギーを持ったものを作りたかったんです。
──当時のインタヴューでは「きれいに作っておいたものを、壊してしまいたい欲望が私の中にあります」と話していました。何があなたをそういった欲望に導いたのでしょうか?
MS:良い質問ですね。当時は私の声がなんだか子どもや少女みたいで、その声できれいな曲を歌うと、そのイメージの中に閉じ込められてしまう気がしていたんです。自分には多様な姿があるし、私はむしろ男性的で荒々しい姿を見せたかったし、当時はフェミニズムの影響から強い女性のイメージを見せたくて。それで力強いロック・サウンドに挑戦したんです。
──ロック・サウンドに変わったことで、歌で表現できる感情にも変化がありましたか?
MS:特にライヴでは、ステージ上で怒りを表現したかったし、観客の皆さんが私に期待するイメージを壊したかったんです。当時は人々がイメージする私の姿にも、私自身にも怒りが込み上げていて。それに当時は世の中にも怒っていたから、オーディエンスと一緒に私の作った音楽で自分たちの感情を解き放ちたいと思っていました。叫んだり、変な声を出したり、汚い言葉も使ったりしてみたかったんです。
──当時の荒々しいギター・サウンドからは、ニルヴァーナやピクシーズなど90年代のオルタナティヴ・ロック系のバンドが想像されますが、具体的に当時どのようなアーティストに影響を受けていましたか?
MS:ニルヴァーナ、ピクシーズなどはもちろん、スマッシング・パンプキンズもたくさん聴いたし、他の年代ならセックス・ピストルズのパンク精神、ソテジ、クライング・ナットなど韓国の90年代のバンドや、最近の音楽ならイギリスのウルフ・アリスからもたくさん影響を受けました。簡単には真似することのできない90年代ならではのムードが私には新鮮で、90年代のギター・サウンドが持つ特有の雰囲気を真似したかったんです。
──ここからは昨年発表したセカンド・アルバム『Angel Interview』について聞かせてください。初期のフォーク・スタイルから、シューゲイズのようなノイジーなロック・サウンドまで幅広いジャンルが混じっていて、どこかあなたのこれまでの音楽の集大成のようにも感じました。
MS:まず、「何のジャンルのミュージシャンなの?」と聞かれると答えづらいんです。自分ではフォークがベースだと思っていますが、シューゲイズも捨てられないし、もし次にまたEPを出すのであれば、100%ロックで、ラヴソングになると思うし、いつかアコースティック・サウンドだけのアルバムも出したい……。フル・アルバムというのは長編小説を書くことと似ていると思うんですが、その中に私は全てのやりたいジャンルを入れたいんです。
──様々なジャンルが盛り込まれた『Angel Interview』に統一感を与える上でプロデューサーのグルム(Cloud)も大きな役割を果たしているのではないかと思います。
MS:グルムさんのことはBye Bye Badman、The Volunteers、チーズなど、彼が参加したバンドや手掛けてきたアーティストの作品を聴いて、“大衆的なプロデューサー”だと思ってたんです。でも、最近のThe Volunteersの曲や、彼がプロデュースしたJungwoo(ジョンウ)のアルバム『Cloud Cuckoo Land』(2023年)を聴いて、「いろんなことができる人なんだな」と思いました。
Jungwooと親しかったので、彼女に「グルムってどう?」と尋ねたら、「とても優しいよ」と紹介してくれて。それで私がデモ音源をまとめて全部グルムさんに聴かせたら、彼は「トゥットルさん、音楽面白くないでしょ?」って。その瞬間、プライドが傷つきました。でも、その後グルムさんが彼が面白いと思う音楽をいくつか私に聴かせてくれて、その中には実験的で変わった音楽も多くて、私にとってすごく刺激的な時間になりました。そうするうちに彼と一緒に制作することにすっかりハマってしまって。それによって挑戦する意欲が湧いて、私も実験的なことをやってみたいと思うようになったんです。
私にとってプロデューサーとは、編曲やテクニカルな部分を共に進めてくれるだけでなく、私が悩んだときにアルバム全体をしっかり支えてくれる、アドバイザーのような存在で。そういう意味で彼は、私がやりたいことだけを最後までやれるように、力強く応援してくれました。例えば「Red car」は5分半の長い曲ですが、私が「グルムさん、最近のヒット曲は3分以内が多いですが、こんなに長くて大丈夫かな?」と聞くと、「大丈夫だよ、やってみよう」と言ってくれて。彼は非常に大衆的なこともやっているのに、私の挑戦をいつも肯定してくれて、頼りになりました。これまでで初めてほとんど苦労せず、とても楽しく作れた、幸せな過程でした。それに、グルムさんは何か一つのジャンルだけが得意なわけではなく、いろいろなジャンルをバランスよくこなせる、オールラウンダーだと思うので、それが私のいろんなジャンルの音楽をやりたい気持ちと重なっていたことも大きいです。
──今作とはサウンドの質感が違いますが、前作『A Call from My Dream』も「夢」がテーマでした。あなたは常に幻想的な音楽を作ることを意識しているんでしょうか?
MS:音楽って幻想的なものだし、音楽を聴くことはすごく抽象的なことだと思うんです。見えないし、触れないし、ただ耳で聴くしかない。加えて、音楽は非常に神聖なもので、あらゆる芸術分野の中でも極めて神秘的な儀式だとも思っています。実際、かつて音楽は祭祀に欠かせないもので、ある種の魂や生者と死者を繋ぐ媒介でもあり、常に極めて重要な役割を果たしていました。私はそういう精神的かつ霊的なテーマにすごく興味があるので、自分をそういうメッセンジャーだと捉えているんです。何かしらの神が私にメッセージを与えて、そのメッセージが私の声を通して表現される、と。私たち人間のラヴ・ストーリーや、辛い、楽しい、死にたいといった気持ちがこもった歌だけでなく、それを超えて見えない存在や魂の声を伝えるのが私の役割だと思うんです。だから、私が曲を作る時もそういう歌詞が浮かんでくるんだと思います。
ピクサーの『ソウル』という映画で、主人公のジャズ・ピアニスト、ジョー・ガードナーが演奏中に突然自分だけの世界へ没入するかのように、いろんな魂と出会うシーンがあります。演奏者にも、演劇をする人にも、無我夢中になる瞬間があるじゃないですか。私が一人でピアノを即興演奏するときも、その音は響きを持っていて、イルカ同士が会話するように、人間には分からない周波数となって、音楽が私と宇宙を繋ぐ架け橋になってくれている。つまり、私が演奏しているのは、実は何らかの信号を送っているに過ぎないと思うんです。
実は「A missed call from my dream」いう曲も、宇宙人に送る手紙のような曲なんです。私はもともと宇宙人の存在を信じて、高校生の頃からピアノの前に座り、即興で演奏していて。でもある瞬間から、ライヴやアルバムの制作などに追われ、純粋な気持ちでやっていた見えない存在とのコミュニケーションを、少しずつやめてしまったんです。今になってその存在への「ごめんね、しばらく忘れていたよ」という気持ちを込めて書きました。
──「夢で電話をかけてきた存在」「瞑想中にメッセージを送ってきた天使」……。前作と今作でテーマは少し変わっていても、あなたが歌う理由は同じ文脈で説明出来そうですね。
MS:なぜ彼らからメッセージを受け取って曲を書き続けるかというと、私自身がそういったものにすごく癒されてきたからです。
『A Call from My Dream』を作っていた頃、当時私が本当に辛い時期があったのですが、その時、ずっと夢の中で電話が鳴り続けていたんです。その電話を取ると誰かがいつも「愛してる」と言ってくれました。その存在が「自分を無条件に愛してくれて、ずっと私の心のドアを叩いてくれている」と思えたんです。おかげで私の心はすごく治癒されて、それを元に曲を書くことにしました。
『Angel Interview』を作る前もまた辛い時期があったんですが、その時に瞑想をしてみたんです。「自分に何か問題があるからこうなったんだ、自分を直そう」と、自分の心をじっくり見つめてみたのですが、その度に自分への恥や恐れ、向き合いたくない感情に出会ってしまいました。でもそんな中で、かすかな天使の姿がよぎったんです。天使がいつも私を守ってくれて、どんな私でも応援してくれて、「あなたは完璧で美しい」と伝えてくれて。その時も本当に癒されたんです。今作は「天使から受け取ったこのメッセージを私だけで抱え込んでいてはいけない。このメッセージを元に曲を作れば、聴いてくれた人々はきっと幸せになり、慰められるだろう」と思い作った曲たちです。
──今作では序盤の「Supernova」「Mikael」をはじめ、温かく、ロマンチックな表現も多く、聴き手に愛を与えたい、それでも世界は美しいと伝えたい、そんな思いが感じられます。
MS:正直、今そう言われるまで、気付きませんでした。でも、確かにそのように変化したかもしれません。瞑想を通して自分自身を振り返る時間が増えたこと、音楽をすることで、まず自分が癒され、心がクリアになったことで、段々と世の中が澄んで見えるようになって。天使という希望に満ちた存在からのメッセージを通して「人生を肯定しなければ生き抜くことはできない」ということを学んだんです。時には否定的になったり、「愛なんてない」と叫んだり、何かを壊してしまいたいくらい怒ったり、そういう時間を経た結果、どんなに辛く、怒っている時でも、実は本当に温かい存在がずっと私を見守ってくれているんだと感じられるようになりました。まるで、どんな時でも頼りになる両親がいて、帰る場所があるかのように。そういうことを感じられるようになったことが関係しているかもしれません。
──あなたの身に起きたどんな出来事が、そういった変化を起こさせたのでしょうか?
MS:昔は自分自身をどう扱えばいいかわからず、すごく辛かったんです。大学で社会学を学び始めた時、問題だらけの世の中に対して自分には何もできないということに大きな無力感を覚え、音楽で世の中を変えなければと思いました。でも、20代中盤に差し掛かると、自分に変えられるものなんて何もない、自分が辛いのは世の中がダメになったからではなく、自分自身がそうだからではないかと、自分を省みるようになりました。ただ、自分に何か問題があるから人とうまくいかないのか、適応できないのかなど悩んで、悩みをすべてさらけ出してみたところ、直すべきものは何もなく、今は世の中と自分を受け入れるプロセスにいるんだと気づいて。無理に変える必要はなく、むしろ自分をもっと受け入れ、理解していく方向に進むべきだと思いました。確かに、世の中はとても不公平で、痛ましい面も多いですが、それをすぐに怒りで打ち壊そうとするよりも、理解しようと努め、誰かを責めたり非難するのではなく、常にその人たちの側にいて共感し、耳を傾けること。それがこの世界を支える大きな力だと考えたんです。
そういった観点からフェミニズムについても、実際は自分には柔らかく温かく、世の中を包み込むエネルギーもあるのに、そうではなくて何かを変えて、直して、戦おうというエネルギーばかりを使っていたのではないかと、時が経つにつれて気づくようになりました。そして、「そこには問題がない」と対象を理解できるようになると、むしろそれを包み込み、受け入れる、そういう柔らかな心こそが一番強い心だと感じるようになりました。その結果、私自身の女性性も取り戻し、健康的なフェミニズムへと向かうようになったと思います。20代前半はどうしても怒るしかなかったし、そういう過程も十分に意味があったと思うのですが、今はもっと柔軟に、すべてを変える必要はないと気づけるようになりました。以前は自分の短所だと思っていた部分も強みだと思えるようになったし、誰かが自分と似た姿を見せたときにも、非難せずにその理由や背景を理解できるようになったんです。
私が本当に好きな本の一節に「私たちは、犯罪者の目を通して本当の自分の姿を見つけなければならない」という言葉があります。つまり、罪人の姿に、自分にも同じような心があると認め、その人を理解し、最終的には受け入れなければならないという意味で。とても深く心に響きました。
私たちが生きるこの共同体や社会は、犯罪者という対象に烙印を押し、オンライン上でも彼らを激しく嫌悪するような世界だと思います。そうでないと自分自身が孤立してしまう、安全感や所属感を感じられない──まさに今は嫌悪の時代なのです。そんな考え方のまま、自分はそんな人間ではないと必死に逃げ回っているウチに、自分自身が嫌悪そのものになってしまう。誰もが「自分もあの人と同じに人にもなりうる」と思えるような包容力があれば、世の中はもっと健全になり、犯罪率も下がるはずです。だから、私自身もそういった側面を自分の一部として受け入れられる人になりたいと考えるようになりました。
──精神的にすごく健康的になったようですね。アルバムの終盤に収められた「Esc」(韓国語での曲名は「世俗離脱」) についても聞かせてください。この曲は歌詞に「金しか知らないクソども」「全員同じように生きる世の中」という言葉が出てくるように、アルバムの他の曲とは違い、あなたは激怒していて、何かと戦っているようでもあります。
MS:実はこの曲は4~5年前に書いたものなんです。『Angel Interview』は、物語が天使によって紡がれ、夢のようにとても美しく幻想的な話が展開されていますが、「Esc」では「全部嘘だ」と言いたかったんです。結局、私もここから抜け出したいし、世の中にはお金しか考えていない連中で溢れかえっていて、結局みんな同じように生きているんだと、軽い気持ちで投げかけたかったんです。10曲目まで真剣に物語を紡いでいるけれど、11曲目ではただ遊びたかった。「この曲、何でここにあるんだ?」と聴く人に思わせたかったんです。
──やはり最後はみんなの期待を裏切りたいという意図があったのでしょうか?
MS:ありきたりなのは嫌なんです。この曲の終わり方がわかりやすいですが、アルバムの最後は本当に意味不明で奇妙なものであってほしいと思ったんです。思いっきり悪口を言ったりすると、気分がスッキリしますよね。カラオケで最後に気持ちよく歌って終わった時に「ああ、今日も本当によく生きたな」と感じるような。人生とは何か、天使とは何か、死んだら何が来るのか、そういった真面目な話をした後に、「結局そんなの全部必要ない」「ただ自由でいたい」と表現したい、それが私の望んだことでした。世の中にはクソみたいなこともたくさんあるけれど、結局は気分が良くて楽しいことが一番じゃないかという思いで作ったんです。
──この曲ではラッパーのSwervyとコラボレーションしています。経緯を教えてもらえますか?
MS:彼女は本当に好きなヒップホップ・アーティストで、この曲には彼女しか思い浮かびませんでした。彼女には彼女しか持っていない、暗い怒りのエネルギーがあって、女性としてそれを表現する圧倒的なミュージシャンだと思って、彼女にぜひ参加してほしいと連絡を取ったんです。自分は初めてラップをやってみたので、少しぎこちないと思います。
──ハードなテクノ・トラックに繋がって、アルバムは終わっていきますが、この部分のアイデアはどのようにして生まれたのでしょうか?
MS:テクノで終わらせて、聴き手をどこかに連れて行ってしまおうと思って作りました。それにギターのウォンウさんが最近エレクトロニック・ミュージックにハマっていて。単にコンピューターで打ち込んで作ったわけじゃなくて、90年代や00年代に実際に使われていたハードウェアを使って、一緒に直接いじりながら作ったんです。彼に「自分の曲をサンプリング素材にしてほしい」とお願いして、「Esc」や、過去の「Dancing in The Rain」「Cobalt」といった曲を変形して、切り刻んで、最終的にはどの曲か分からないくらい加工しました。
──最近は尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の退陣を要求するデモの現場でパフォーマンスしていました。感想を教えていただけますか?
MS:寒い野外フェスティバルみたいでした。若い人もすごく多くて。大統領が戒厳令を出すなんてことは知らない状況で作った曲なのに、「お金しか知らない奴ら」といった歌詞が、あまりにもピンポイントに刺さりすぎたようで、デジャヴのような感覚になりました。楽しかったですよ。あの曲があの場で演奏できてすごく良かったし、まるでそこに響くべき運命の曲のように感じました。そういったステージに立つということ自体は、若い頃はもっと関心を持っていたのかもしれませんし、若い時と比べると社会運動への情熱もかなり薄れていたかもしれませんが、こうした機会に恵まれて実際にステージに立ってみると、何かとても心地良い達成感や誇りが感じられ、観客に影響を与えられる実感があったんです。
デモ現場で歌う様子──最後の質問です。前回と今回のインタヴューでのお話を聞いて、「音楽で世界を変えたい」という気持ちはファースト・アルバムの時期の方がより強く持っていたのではないかとも感じました。最近のこうした経験を経て、あらためて音楽を通して人々に影響を与えることについて、あなたの考えを教えてください。
MS:音楽そのものは目に見えないし、取るに足らない力があるように感じらるかもしれませんが、実際には人々を慰め、何かを変える力を持っていると信じています。だから、私がデモの現場にいてもいなくても、個人的にも社会的にも、私は音楽を通して人々に影響を与えていると感じています。久しぶりにデモの現場に出ると、直接その場で皆と連帯し、自分が力を与えていると実感でき、なんだか若返ったような感覚すら覚えました。これまでずっと内面ばかりを見つめていたので、外に出る機会は少なかったのですが、その体験を通じて「これもまた一種の遊びだ」と感じるようになって。韓国のデモ文化が大きく変わりつつある中で、K-POPの曲を流しながらみんなで応援棒を振って行動したり、人々が肯定的な力でこの世界を変える一助になろうとしていて、私自身も楽しく世の中を変えたい、楽しく連帯したいという思いを強く抱くようになったんです。
<了>
Text By Daichi Yamamoto
Translation By Daichi Yamamoto

Meaningful Stone (キム・トゥットル)
『Angel Interview』(日本盤)
RELEASE DATE : 2025.03.05(デジタルでのリリースは2024. 11. 28)
CDのご購入は以下から
https://p-vine.jp/music/pcd-25466
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