KUVIZM × Kokatu Testarossa
コラボレーションEP『HAVOC』リリース記念インタビュー
〜人と人、そこに生まれる音に宿ったポジティブなバグとは?〜
ビートメイカーのKUVIZM(キュビズム)とラッパーのKokatu Testarossa(コカツ・テスタロッサ)によるコラボレーションEP『HAVOC』が5月27日(水)に各種配信サービス、およびCDにてリリースされた。2人の名前をすでに知っている方も多いだろうが、初見の方のために改めて紹介しておこう。KUVIZMはLEAPやRICK NOVAなど数多くのラッパーと共作を重ね、最近ではharuru犬love dog天使やSaint Vegaといったラッパーやシンガーと共作する新潟県出身のビートメイカー。片やKokatu Testarossaは電波少女やJinmenusagiなどの作品にも参加し、ネットラップ界隈では一部からカリスマ的な支持を受けるラッパーで、ソロでのまとまった作品はないものの近年ティーンから絶大な人気を集めるラッパー/プロデューサーの釈迦坊主とのユニットCPCPCでも活動していた。10年来の仲だという2人がおよそ2年を掛け制作したのが本作『HAVOC』である。
KUVIZMのメロディアスで叙情的、かつしっかりと奥行きも感じさせるトラック。そこに乗るKokatu Testarossのラップもまた面白い。基本的に低い体温をキープしたまま、滑らかなフロウで飄々と、自分の内側にある言葉を並べているかのような……この対照的な2人の織りなす絶妙なバランスは、どこか彼らの関係性を投影しているようにも思える。
KUVIZMは就職を機に音楽制作から離れるつもりだったというが、彼がここまでキャリアを継続してきた裏には人気ホラーゲーム『サイレント・ヒル』シリーズの音楽を手掛け、フライング・ロータスが制作した映画『KUSO』に楽曲提供も行う音楽家・山岡晃氏の存在があり、ラップ・ミュージックを作るきっかけにはKokatu Testarossaがいた。Kokatu Testarossaも、ほとんどシーンから離れたところにいたものの、CPCPCでの活動の際は釈迦坊主の熱量に動かされ、今回もKUVIZMの熱烈なアプローチによって重たい腰を上げ本作を制作している。『HAVOC』というタイトルにはマイナスなニュアンスでの「人生におけるバグ」という意味があると話してくれたが、このように起点にお互いの存在があったことをはじめ、本作には人と人との関係性の中に生まれるポジティブな意味でのバグが宿っているのかもしれない。
普段は音楽と直接関わりのない仕事に就く2人にとって音楽制作はどのような位置付けにあるのか。副業がやっと推奨されるようになってきた今、音楽と生活はどのように絡まり合っているのか。ぜひこういったいくつかの疑問とともに、人と音楽と生活、生きていく中で変わりゆくその在り方やそこにある奇跡について想いを馳せつつ読んでみて欲しい。(インタビュー・文/高久大輝、写真/Shintaro Kamei)
Interview with KUVIZM and Kokatu Testarossa
――まず、お二人は10年来の仲とのことですが、どのように出会い、今回のEPの制作に至ったのでしょうか?その経緯について教えてください。
KUVIZM:10年前に東京のHIP HOPイベントで知り合って、 その後ちょこちょこ食事に行ったりしました。その時はお互い同世代(大学生同士)で、HIP HOPをやっていたのと、コカツくんは今とは雰囲気が違ったけど当時からオーラのようなものがあって、僕はコカツくんと仲良くなりたいなと思ってました。当時の僕はベースミュージックやエレクトロニカなどの流れから、インストゥルメンタルの曲ばかり作ってたので、すぐに「一緒に曲を作ろう」という話にはならなかったと思います。
大学を卒業してから、お互いの境遇が変わって、しばらく会わない期間があったのですが、僕はコカツくんの曲をファンとしてヘビーローテーションしていました。(ソロ曲や「Once Again」のリミックス、電波少女のハシシさんとの曲、CPCPCの曲など)フロウやリリックが、自分自身の心に刺さっていて。その後、2018年夏に、僕自身の音楽のモチベーションが高まってきたときに、「ラッパーと曲を作りたい」と思うようになって、まず最初に思い浮かんだのがコカツくんで、「一緒に曲を作りたい」と連絡したら、コカツくんから「是非。一緒に作ることに興味があります」って返事がきて、すごく嬉しかったのを覚えてます。そこから共作がスタートしたんですけど、最初はEPを作ろうという話ではありませんでしたね。曲作りのやりとりを繰り返して、何曲か出来たときに、一緒にEPとして出そうと伝えて、快諾だったので、今回EPとして発表するかたちとなりました
Kokatu Testarossa:出会いとEP制作の流れはKUVIZMさんの仰る通りです。僕としては、2018年頃連絡が来た時はあまりにも久々だったので、何か詐欺や勧誘的なものなのではないかとしばらく勘繰っていて、その後曲を作っていく中でもいつ本性を現すのか警戒していたのですが実際は音楽がしたい良い人でした、本当にごめんなさい。
――(笑)お二人にとってお互いはどういった存在ですか?
KUVIZM:人間的にシンパシーを感じて、音楽的に信頼(安心)できる相手です。
Kokatu Testarossa:行動力とリーダーシップのあって、兄貴的な感じで捉えています。僕は面倒臭がりで引っ込み思案なので僕1人だと何も動かないのですがKUVIZMさんはガンガン前に切り開いていける方です。
――過去のインタビューでもKUVIZMさんはコカツさんとの制作を機にご自身のビートにラップが乗る喜びを知ったとおっしゃっています。お二人にとってこの機会がターニングポイントとなっているように感じるのですが、お二人から見てこの制作で起きた化学反応はどのように特別なものでしたか?
KUVIZM:最初に渡したビートは結果的にボツになり、そのあとコカツくんから「コカツくんが好きな曲」を何曲か送ってもらって、それを聴き込んで、自分なりに解釈して作ったビートが「Fadeout」で。コカツくんからラップが乗ったデータが届いたときは、感動して何度も聴きましたね。初めてラップをのせてもらった相手がコカツくんで良かったと思います。誰かと曲を作ると、その曲が、自分ひとりではできないレベルに持っていけることを、コカツくんに教えてもらいました。僕はリリックもかけないしラップもできないけど、その内容に感動し、リリックの内容にシンパシーを感じて。その感動をリスナーの方にも共有したいと思いました。
Kokatu Testarossa:自分はかなり内向的な性格なので、人と関わりながら音楽をすることがあまり得意ではありませんでした。なので近年はなるべく人と関わらないでいたのですが、KUVIZMさんはそんな自分が打ち解けることができた数少ない人です。それはKUVIZMさんの柔和な人柄もあると思いますし、ビートメーカーとしてのスキルへの信頼もあると思います。僕の細かなニュアンスや要望を的確にキャッチアップしてアウトプットに反映して頂いて、且つ自分の想像を超えてきます。そういったアウトプットを手にした時に、自分1人ではできないことがあると思い知り、また人と一緒にモノを作る楽しさを思い出すことができたんです。
――事前に目を通させていただいたプレスリリースの方には「約2年におよぶ対話の末に」とありますが、この長い制作期間において特に苦労されたこと、こだわったことなど教えてください。
KUVIZM:お互い音楽以外の仕事があって、心身共に大変な時期があることでしょうか。なので気を付けたことは、例えば「連絡を頻繁にとったりできないからこそ、伝えるタイミングと言葉をよく考える」「相手の事情を理解する・尊重する・想像する」といった一般的なコミュニケーションで基本的なことで。あとは、僕よりもコカツくんの方が普段音楽に割く時間が限られていると思うので、僕側の作業を早くして、コカツくんがスムーズに作業できるように意識はしましたね。とはいえ、どれも特別なことではなく、基本的なことで、言葉にするのも恥ずかしいです(笑)。中々会ったり、言葉で伝えるのが難しいこともありましたけど、「音のキャッチボールで対話」をしている感覚もあってコカツくんとの作業はやりやすかったです。
Kokatu Testarossa:時間の確保みたいな物理的制約の他に、個人的にはモチベーションの波がきつくてご迷惑をかけたと思っています。EPの中の「Today’s Traitor」がまさにそのことを歌ってるのですが、「やるぞ」と思っても次の日にはどうでも良くなっていて。そのどうで良くなる期間が長いのでKUVIZMさんに結構辛抱させてしまったと思います。逆にKUVIZMさんは常にアウトプット早くてびっくりしますね。
――今までのお二人の作品も含め、今回の作品についてもお二人の音楽性はヒップホップやポップなどと、一口に収まったものではないように感じます。これまでどういった音楽から影響を受けてきたのでしょうか?また今作において特に参考にした作品などはございますか?
KUVIZM:抽象的な答えでは、耳に入る音楽すべてを否定せずに受け入れることですが、具体的には10代の頃によく聴いた音楽です。Nujabes氏、UNKLEから始まり、DIR EN GREY、宇多田ヒカルさん、livetune(kz)さん、m-floさんなどです。ビートでバレバレだと思うのですが、メロディアスで、なんだか切なくて、キャッチーなものが好きです。コカツくんとの共通の知り合いでもあるNotuv氏が言っていたことなのですが、ヒップホップはいろんなジャンルの音楽をサンプリングしたりして、ミクスチャーな性質があるので、それが醍醐味でもあり、作ってて楽しいです。あとは、コカツくんと曲を作り始めてから、韓国のヒップホップをよく聴くようになったのと、普段からこのシーンの新譜はよくチェックするようにしているので、影響は受けていると思います。
Kokatu Testarossa:自分はほぼヒップホップしか聴かずに生きて来ました。中学生の時に友達が家で流していたKICK THE CAN CREWさんの「アンバランス」を聞いたことが音楽自体に興味を持った最初のきっかけですね。それまで音楽自体に全く興味なかったのですが、それを期に一気に日本語ラップオタク的な感じでdigりまくってました。そのまま大学生ぐらいまで日本語ラップ中心で聞いていて、大学生からは海外のヒップホップも聴きだして今に至ります。現在はほぼ海外のヒップホップが中心になっていて、割とその時旬な流行っている曲やアーティストを聴いていますね。今作で参考にした作品は特になくて、自分の感覚では本当に今の自然体というか、何も考えないで作ったなと感じてます。
――今回のEPのタイトル『HAVOC』はゲームのバグを指す「HAVOC 神』から取られていて「人生におけるバグともいえる狂気や悦楽をテーマにしている」とのことですが、お二人がこのタイトルに決められた理由をもう少し具体的に教えてください。
Kokatu Testarossa:精神がマイナスな曲が多いので、何となく「狂気」的な言葉にしたいなとは考えてました。そこで、そういった精神がマイナスに振れるような狂気を人生におけるバグだとした時に、バグに関連する言葉で「HAVOK神」というインターネットスラングがふと浮かんだんです。あとはもう字面と言葉の音感で。なんとなくいい感じです。
――KUVIZMさんは、名作ホラーゲーム『サイレントヒル』シリーズの音楽を手掛けていて同じ新潟県の出身でもある山岡晃さんから学んだことも大きいと過去のインタビューでお話しされていました。今回の作品に山岡さんからの影響はありますか?また、あるとすればご自身からみてどういったところに表れていますか?
KUVIZM:山岡晃さんとは知り合って4年ほどになるので、EPの制作期間と重なっており、潜在的な部分で影響を受けています。そもそも音楽をまたやってみようと思わせてくださったのも山岡さんで。山岡さんと一緒に食事に行かせていただいたり、ミュージシャンのライブ等を観に連れて行っていただく中で、「プロのミュージシャン」として、ジャンルに関わらず根幹で重要なこと、考え方などを教えていただき、曲作りの進め方がガラッと変わりました。ちなみに最近は気恥ずかしさが強く、あまり曲を聴いてもらっていません(笑)。
――「音楽をまたやってみよう」そう思えた理由、「プロのミュージシャンとして、ジャンルに関わらず根幹で重要なこと、考え方」についてもう少し具体的に教えてください。
KUVIZM:「音楽をまたやってみよう」と思えたきっかけのひとつは、山岡さんから「また曲作りをしてみたら?」と言われたことでした。当時は日々の生活に物足りなさを感じていて、音楽活動を再開したらその物足りなさは埋っていきましたね。あと、以前は「曲作りは集中力と、時間の確保が必要だから、会社員の自分には出来ない」という勝手な思い込みもあったんですけど、「もっとカジュアルに短い時間で、軽い気持ちでやっていいものでは?」と考えるようにしてから、楽しく活動を続けられるようになりました。
考え方については師匠の背中を見て学ぶ弟子に近いかもしれません。山岡さんの仕事ぶりを見たり、これまでのキャリアについて話を聞いたり、普段の言動を見聞きする中で、「プロはこのように仕事をしているんだ」ですとか、「山岡さんみたいに活躍するためにはこういう考え方をすべきなんだ」ということをたくさんキャッチしていきました。他のミュージシャンの方をご紹介いただいたりすることもあり、音楽業界を肌で感じさせてくれる機会を与えていただいたことにも感謝しています。
――「プロの考え方」というのは様々あると思うのですが、KUVIZMさんはどのように解釈されてらっしゃいますか?
KUVIZM:例え話ですが、ひとつの問題があったときに、僕だったらその問題のことしか考えず、小手先のを解決方法を考えるところを、第一線で活躍するプロはなぜその問題が起きたのかまで考えて、根本的な原因を解決して同じ問題が発生しないようにしたりだとか。この例えだと効率化の話ですが、クリエイティブにおいてのアイデアについても、第一線で活躍するプロは、僕の発想の外にある考え方をしていて、目から鱗が落ちることも多くて。「こうして差が出るんだな」と反省することがしばしばありますね。
――リリックは等身大でありながら、この世界で生きることの不安や虚しさが全体に漂っているように感じます。コカツさんがリリックを書いている時に思い描くイメージを教えてください。またリリックを書く上で特に意識していることなどはありますか?
Kokatu Testarossa:正直リリックを考える・書く作業は非常に面倒なので、書かなくて曲が完成するならそれが良いぐらいで。そういった性格なので、自分はリリックを書くという作業はせず、リリックのない状態から即興で歌ったものを継ぎ接ぎしてボーカルを構築していますね。その中で、即興で歌う際には曲のテーマとなる標語みたいなものを頭の片隅に置きながら歌ったりしますが、基本的には無意識を心がけて自動的に出てきた言葉を採用するようにしてます。
――歌メロ/フロウが先ということですね。「無意識に出てきた言葉」に不安や虚しさが表れている、ということになると思います。過去の曲を聞いてもそういった傾向は強いと思うのですが、ご自身としては日常のどういった要素がこのようなリリックに反映していると感じますか?
Kokatu Testarossa:日常でもいい気分でいることは少なくて、やっぱり閉塞感、無力感、劣等感みたいなネガティブな感覚が常にあります。かといってそれがすごくきついというわけではなく、日常全体に常に薄くかかってて若干息苦しい、みたいな感覚です。僕の日常って至って普通で、変わったこともなく淡々と日常が流れていっていると思います。それは自分でもその淡々とした普通を望んだ結果なのですが、普通の代償が冒頭の感覚なのかなと思ってます。
――制作の流れを教えていただけますか?また、その中でビートに対して、リリックやフロウに対してお互いにオーダーすることなどはありましたか?
KUVIZM:コカツくんに対して「どんなビートが欲しい?」と聞いて作ることもあれば、僕が自由に作ったビートを「どう?」と提案することもありました。採用されなかったビートも何曲かあります。コカツくんが気乗りしないビートでラップしてもコカツくんのポテンシャルが活かされない気がするので、ボツになっても全然気にしてないですね。リリックとフロウについては一切オーダーしなかったです。コカツくんのラップが好きなのと、信頼しているので。
制作の流れは、ネットを介したデータのキャッチボールですね。今でこそ、宅録をするラッパーさんが多いと思うのですが、コカツくんは宅録歴が長いのと、ボーカルエディットも自分でできるのでやりやすかったですね。むしろ、制作に対しては「作り方」よりも、気持ち的に自然体でいることや、無理しないこと、ストレスにならないことといった「向き合い方」の方が意識したかもです。
――お二人は学生時代から音楽制作をしてきたとのことですが、その当時と比べ(コカツさんのお話にもあったように)お互いにお仕事が忙しかったりと時間の面での制約も多いかと思います。そういった状況での音楽制作に対する根源的なモチベーションはどこから湧いてきていますか?
KUVIZM:音楽が生きるモチベーションになっている点が大きいです。あと自然と「曲を作っているときに得られる快感」を求めてしまうのだと思います。僕にとっては、音楽制作ほど刺激的で楽しいものはない気がします。気持ちがネガティブになることがあっても、「音楽をやっている自分」がいるおかげで自己肯定ができるときもあり、支えられています。学生時代のときよりも、今のほうが自由に使える時間は少ないですが、今のほうが曲を作れています。当時よりモチベーションが高いというのもありますが、集中力や作業の段取りで「限られた時間でいかに曲を作るか」という意識は常に片隅にあります。
……たしかに、いちばん大変なのはモチベーションの維持かもしれません。自分が自分のマネージャーであるという意識もあって、「あまり無理しないように今は休むべき」とか、どうしたらモチベーションが上がるか、ということを考えることは多いですね。
Kokatu Testarossa:音楽をやる理由は、ただ作るのが好きだから、自分が作りたいものを作りたい、という音楽それ自体への興味からきていると思っています。ただ正直なところ、8年ぐらい前の時点でそういったモチベーションが自然に湧いてくるような初期衝動な状況は終わっていて。今普通に生きている中では音楽制作のことを忘れています。そんな状態の中でモチベーションが湧いてくるのはやっぱり外的な刺激を受けた時ですね。今回のように声をかけていただいて人と一緒に面白いもの作れるかも、とかストリーミングで何気に聴いた曲がやばくて創作意欲を受けたり、とかですね。
――話の本筋とはズレてしまうかもしれませんが、コカツさんは2016〜17年にかけて釈迦坊主さんとCPCPCというユニットで精力的に活動されていました。この時期から現在に至るまでの流れを教えていただけますか?
Kokatu Testarossa:CPCPC結成前は音楽制作自体を完全にやめていたのですが、友人のライブに遊びにいったときにその場で初対面の若き釈迦くんに「クルー組みましょうよ!」と誘われたのが結成のきっかけです。最初は流石に初対面だしノリで言ってるようにしか思えなかったのではぐらかしちゃったのですが、その後連絡を取ったりしてく中でも意思は変わらず、また僕も釈迦くんの熱に魅力を感じて、半年ぐらい経て「やってみようか」と返事しました。
CPCPC時代は割と定常的に曲を作って、ライブをして、という感じでしっかり音楽活動をしていたんですけど、自分のいつもの波で、途中消えたりを繰り返した後にフェードアウトしちゃって。なのでCPCPCは解散や休止を明確に提示していないですし、そういった話を釈迦くんともしていないですね。僕のせいで自然消滅しちゃった感じです。
フェードアウト後は本当に音楽制作自体をやめてしまって、淡々とした日常を送っていたんですが、KUVIZMさんから連絡いただいたのをきっかけに再開しました。思い返すと、CPCPCは釈迦くんからクルー結成を誘われたのがきっかけで、今回もKUVIZMさんに誘われたのがきっかけで。やっぱり人との繋がりというか、人から受ける刺激が自身を動かしていることを痛感しますね。
――コカツさんはこの制作を経て音楽制作に対する姿勢に変化はありましたか?
Kokatu Testarossa:正直今までは自分が音楽をしてもしなくても他人には何の影響もないと思ってました。ただ今回、KUVIZMさんや今回リリースさせて頂いた《Ourlanguage》さんのように自分の音楽に価値を見出して一緒にやろうと思ってくれる方がいること、そして自分の音楽を待ってくれているリスナーがいることを知って、今までの認識は間違ってたのかなと思いました。だからといって人のためだけに音楽をやろうとは思わないですし、音楽に関しては自分を優先はしたいのですがそういった方がいることが良い意味で緊張感を与えてくれて、純粋にもう少し頑張ろうという気持ちが生まれましたね。
――インタビューさせていただいていて改めて本作『HAVOC』がお二人の日常の延長線上にあるように感じました。個人的には後半の3曲が気に入っているのですが、お二人から本作の聴きどころやとりわけこだわった部分など、ぜひこれから聴く方に向けて教えていただきたいです。
KUVIZM:コカツとキュビズムという別の人間が一緒に作っていますが、例えば「ハンバーグをパンで挟んだらハンバーガー」ということではなく、ひとつの作品として調和し、成り立っていると感じていただけたら嬉しいです。音楽仲間に「KUVIZMくんのビートに彼のラップは特に合ってるね」と言われることが度々あり、とても嬉しいですね。昨今はフリービートやリースビートで曲が作れますが、それとはまた違った質感を楽しんでいただけると思います。楽曲ではないですが、アートワークとMVのコンセプトは、コカツくんのアイデアが大きく反映されています。「コカツくんがどんな意図でこういったコンセプトにしたか?」という点も想像しながら楽曲を聴いていただけたらな、と思います。
Kokatu Testarossa:楽曲全体をかなりメローに寄せていて、良い意味で聴き流せるような楽曲が多いかなと思ってます。なので普段は日常生活の中でさらっと流して聴いてもらうのが良いのではと思います。その中でリリックに漂う人生の閉塞感、無気力感なんかにときどき共感してもらって少しでも心の余裕に貢献できたら嬉しいです。
――別の仕事と並行して音楽活動を続けていくことの楽しさや難しさ、意義のようなものを感じることができるインタビューでした。今後もお二人での活動は継続していく予定ですか?また、今後の目標などについても教えてください。
KUVIZM:はい、継続していきたいです。もちろん会社が忙しくなりすぎてプライベートがなくなったり、家族が大変な状況になったりしなかったらという前提はありますが。だからこそ周りの人たちも含めて、今の状況には感謝しないと、と思っています。コカツくんとは、最近も新たな曲作りをしています。これからも気張らずに続けていきたいですね。目標については、真面目な話をすると、今年実現したいものと、3年以内に実現したいものをたてているのですが、お見せするのが恥ずかしい内容ばかりです(ちなみに筆者にはその目標のリストをこっそりを見せてくれたがかなり解像度の高い細かな目標設定がされていた)。ただ、はっきりと言えるのは、ビートメイクも、ミキシングなどのテクニックも、純粋に自らのレベルアップをしていくことが目標です。活動を継続することも目標のひとつです。
Kokatu Testarossa:音楽制作は継続したいと思っています。ただ意識的に日々継続していくというよりは、その時の自分の気持ちに正直でいたいとは思っていますね。なので今まで通り完全に離れる時もあったりしつつ自分なりの距離感で音楽と関われたら幸せだなと思います。目標は正直何もなくて、具体的な到達地点とか達成したい項目はないです。しいて挙げるなら上の話のように、自分なりの価値観を大切にしつつ自分のペースで音楽と関われている状態を維持すること、かなと思います。
――現在はコロナの影響もありなかなか通常通りのライブは難しい状況です。コロナ禍を迎えて何か心境や状況において変化はありますか?また、今後配信等も含めライブなどの予定はありますか?
KUVIZM:影響は比較的小さい方かもしれませんが、レコーディングが延期になったり、制作に影響が出てきています。コロナ禍でシーンが回らなくなって、縮小してしまうことを危惧していますね。対岸の火事とは考えずに、この状況で自分にできることはなにかという意識は持ち続けていきたいと考えています。配信でのライブは、「どこかの会場で演奏をする」のはお客さんがいらっしゃらなくても、外出する以上、感染リスクはつきものなので、厳しい実情はあります。考えなくてはならないのは自分の身体のことだけではないので。例えば、コカツくんとそれぞれの自宅からタイムラグなしで同期してライブする術があればクリアになるかもしれません。
Kokatu Testarossa:自宅でラップを録っている時の音漏れが外出自粛している家族に迷惑をかけてしまうというのもあり、今はレコーディングをなるべく控えていますね。ただ音楽への影響に限らなければ、家族と過ごせる時間が増えたり、通勤に時間を割かなくて良くなったりなど日常生活的にはこの自粛をポジティブに受け取れている面もあります。現状では配信でのライブなどの予定はないですが、今後の状況を見て検討できればと思っています。
<了>
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Text By Daiki Takaku