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またホンデで会おう〜韓国インディ音楽通信〜
第1回 Best Korean Indie Albums for The First Half of 2020

26 September 2020 | By Daichi Yamamoto

昨年12月から韓国・ソウルのホンデというエリアに住んでおりますライターの山本大地です。ここは90年代後半から”シーン”となった韓国のインディ音楽の中心地です。現在は商業化が急速に進み、独立系のお店に変わりチェーン店が増えるなど街の雰囲気は過去と比べれば大きく変わっているこのエリアですが、それでもライヴ・ハウスやクラブ、レコード・ショップからレーベルや流通者のオフィスまで、ほとんどがここに集まっていて、韓国インディ音楽の唯一の重要拠点であることには変わりありません。実際、韓国人の音楽好きの友人に筆者がホンデに住んでいることを伝えると「いつでも好きなときにライヴを見に行けるから羨ましい」なんて言います。
さて、日本でも新型コロナウイルス流行まではヒョゴ、セソニョンを始め大小様々な韓国インディ・アーティストの公演があり、他のアジア諸国のインディ音楽シーン同様に注目を浴びているように思えます。でも果たして、彼らの周りにいるアーティストや、彼らに影響を与えた過去の韓国のミュージシャンは日本でどれだけ知られているでしょう…?レーベルは、他のジャンルとのつながりは、ローカルなフェスティバルやライヴ・ヴェニューは…?こちらに暮らしながらミュージシャンを知ったり、ライヴを見たりすると、伝えるメディアさえあればもっと聴かれるはずなのに…そんな作品もたくさん出ていて、うずうずするばかりでもあります。
タイトルの通りこちらの連載では、韓国音楽の特にインディ音楽を中心とした記事を執筆したいと思っています。言語の壁もあり日本には届いていない基本的な情報も含め、ジャンルやシーン別の新作アルバムやシングル、ライヴ・イベントのレポートの紹介から、韓国インディ・シーンのいまとその縦(歴史)や横(他のジャンル、他国のシーンとの繋がり)を知れるような幅広い記事を発信したいと思っております。
コロナウイルスの流行で今直ぐに日本からホンデに訪れることは出来ないですが、現地の人たちと「またここ(ホンデ)で会おう」と言いたくなるような、シーンは小さくて狭いけど、温かくて多様なこの場所を身近に感じてもらえるように、魅力を伝えたいと思います。
長くなりましたが、第1回の今回は今年の上半期、つまり1〜6月に発表された韓国インディ・シーンのアルバム、EPの中から10枚を選び紹介し、レビューします。


Chudahye Chagis 추다혜차지스 (チュダヒェ・チャジス) 『Underneath the Dangsan Tree Tonight 오늘밤 당산나무 아래서』 (Self-release)

2017年にNPRのタイニー・デスク・コンサートに出演したことでも話題になった、韓国の伝統民謡をディスコやレゲエ調のグルーヴで歌ったバンドSsing Ssingを覚えているだろうか。Chudahye Chagisは、解散したSsing Ssingでボーカルの一人だったチュダヒェがギタリストのイ・シムンらと共に、朝鮮のシャーマニズムである巫俗の儀式である「クッ」で使われる音楽を現代的に解釈している。ひとまず再生して見てほしい。アルバムの始まりを告げる「ヨ~バラ~」という掛け声や、実際に「クッ」で使われる鈴を鳴らしている「Binasoo+」など冒頭から、神秘的で儀式的な世界に引き込まれる。チュダヒェは「クッ」の音楽にヨガ音楽と同じマントラを見出したというが、なるほど延々と伸びまくる彼女の歌声は確かにセラピーのように響くかもしれない。韓国のジャズ、ファンク、レゲエ・シーンの腕のあるミュージシャンたちによるグルーヴや、ダブの名手である豊田直之によるミックスにも注目だ。

Ha Heonjin Band 하헌진밴드 (ハホンジン・バンド) 『신나게 놀아보자 Let’s Have a Ball』 (Bluesman In Seoul)

80年代後半に登場したバンド、新村ブルースや、アメリカやヨーロッパのフェスにも出演するキム・モクギョン等のベテランをはじめ、韓国にも実力のあるブルース・ミュージシャンは多数存在する(さらに過去に遡れば韓国ロックの父とも呼ばれるシン・ジュンヒョンなど、60〜70年代の初期の韓国ロックにもブルースの影響は色濃い)し、“ソウル・ブルース・フェスティバル”も毎年開催されるなど、ブルースは韓国大衆音楽の一つのジャンルを成している。87年生まれの、ハ・ホンジンもまたその一人で、本作はベーシストのキム・ジイン、ハーモニカ演奏者のウ・サンソク、Silica Gel等のドラマー、キム・ゴンジェと共に組んだバンド名義での初アルバムだ。リズムも曲によって様々で聴いていて飽きないし、何よりワンテイクの録音から滲み出る演奏のスリリングさ、各曲に収められた各楽器のソロ・パートを堪能すれば、まさに熟練のブルース・バンドのライヴを聴いているかのような心地だ。ホンジンの独特の低い声もまた魅力的であることも触れておきたい。

hyukoh 혁오 『through love 사랑으로』 (DooRooDooRoo Artist Company)

ヒョゴの約2年ぶりのミニ・アルバムはこれまで培ってきたバンドの実験精神が完全開花した作品だ。ボサノバやダブをサイケデリックに導入し、8分もある最終曲「New born」ではカオティックなノイズを臆面なく鳴らしまくる。各楽器の鳴りが鮮明に聴こえるアナログ的な質感も最高に気持ちいい。それだけに、これまで各アルバムに1曲は収録されていたメロディの綺麗なバラードはないし、オ・ヒョクはアルバム中、全く声を張り上げることなく淡々と歌っていたりと、バンドの過去のイメージからは距離を置いた作品にもなったが、その完成度の高さからして彼らに恐れは感じない。むしろ実験することでこそ生まれる予期せぬ音の変化やノイズ、それを新たな聴き手たちが多様に解釈することを楽しんでいるかのよう。韓国の大衆音楽シーンの流行とは離れたところから生まれた究極のトータル・アルバムだ。

LEENALCHI 이날치 イナルチ 『수궁가 SUGUNGGA』 (잔파)

“朝鮮時代のヒップホップ”と言ってもいいだろう。Chudahye Chagisのところでも触れたSsing Ssingのベーシストで、映画「哭声/コクソン」「新感染」等の音楽監督でもあるジャン・ヨンギュを中心に結成された7人組のアルバムは、約300年も前に生まれた朝鮮の伝統音楽、パンソリの演目「水宮歌」の印象的なフレーズを切り取って、現代的なダンス・ミュージックにアップデートしている。ダブル・ベースとドラムの編成によるディスコ、ファンク・グルーヴには思わず体を揺らさずにはいられないし、演劇的要素の強い歌は時にラップのよう。そして、歌い手4人の掛け合いは、笑えるし、真似したくなるし、妙な中毒性がある。パンソリの、いやポップ・ミュージックの「楽しさ」をこれほど伝えてくれるアルバムが他にあるだろうか。(彼らの楽曲と、バンドと頻繁にコラボするダンサーの両方が採用された韓国観光公社の広告映像も見てほしい。まさに韓国に行きたくなるビデオだ!)

Lee hee-moon & Nomnom & Heosongsewol 이희문 & 허송세월 & 놈놈 (イ・ヒムン&ホソンセウォル&ノムノム) 『오방神과 (OBSG)』 (イ・ヒムン・カンパニー)

Chudahye Chagisが巫俗音楽、LEENALCHIがパンソリなら、こちらは朝鮮民謡だ。チュダヒェと同じくSsing Ssingのボーカルだった民謡(中でも京畿道地方の歌唱スタイルだそう)の歌い手イ・ヒムンが、彼の弟子的な存在の2人組歌い手デュオのノムノムと共に、昨年のフジロックにも出演したレゲエ・バンドNST & The Soul Sauceのベーシストであるノ・ソンテクを音楽監督に迎え製作したアルバム。1曲目「허송세월말어라」は思わず体を揺らしたくなる80年代の韓国歌謡を参考にしたディスコ・ポップだが、アルバム全般にはノ・ソンテク作曲によるジャズ、レゲエ風なサウンドが多い。”朝鮮の伝統音楽”といえども、ゆったりとしたリズムに乗ったこの歌を聞けば、日本の民謡音楽とも近しく感じられるだろう。

Paulkyte 폴카이트 ポルカイト 『The Wheel』 (Self-release)

ペク・イェリン、ハックルベリーP等のラッパーやR&Bシンガー等の楽曲に編曲、キーボード演奏で参与していたミュージシャンの初のEP。甘美で時にゴスペルも匂わせるボーカル、シンセサイザーやボーカル・エフェクトを駆使した独特の密室感ある音響、全曲自ら演奏、編曲していることもあるのか、ベッドルーム・ポップ的な優しい質感で、あまりに心地よく美しいソウル・ミュージックだ。筆者はまずマーヴィン・ゲイやマックスウェルの名前が浮かんだが、本人は最近のインスタグラムのライヴでそれらに加えてフランク・オーシャンやダニエル・シーザーなどの名前もリファレンスに挙げていた。少なくとも韓国ではDEANの『130 Mood : TRBL』以降の最も革新的なR&B/ソウル・シンガーの一人だと思う。

Se So Neon 새소년 『Nonadaptation 비적응』 (Magic Strawberry Sound)

昨年夏にはサマー・ソニック出演と、iriとのツーマン公演を成功させたセソニョンの2年半ぶりのEP。「Go Back」や「Winter」のようなメロウな曲ではソユンのセンチメンタルなボーカルに癒される。かと思えばリード曲の「Midnight Train」や、ワーミー・ペダルを駆使した強烈なギター・ソロを聞かせる初期の代表曲「The Wave」を彷彿とさせた「E」のようなハードな曲では、ヘッドバンギングをして汗だくになりたい。メロウさとハードさ、セソニョンの魅力の両面が見事に収められている。多くの曲のプロデュースは活動休止中だったSilica Gelのキム・ハンジュが務めている。

Stella Jang 스텔라장 『STELLA I』 (Grandline Entertainment)

今年前半はTikTok経由で大ヒットした初期のシングル「Colors」やBTS「Friends」の作曲への参加などで話題の集まったステラ・ジャンの初のフル・アルバム。前半のループ・サンプラーを使った「Go Your Way」や、タンゴ、ポルカっぽいリズムのリード曲「Villain」のような陽気な曲は一発で聴き手のハートを掴むだろう。一方、傷みから解放されるかと期待して旅に出てみたのに、結局以前と変わらない現実に憂鬱になってしまうカントリー調の「Reality Blue」や、「今日もよくやった/ムチを打たなくていい」と自分を労うスロウなR&B調の「Good Job」などは、誰しもが持っている陰の部分を優しく、正直に歌う。今日は流行りのK-POPヒットから離れてみよう。普遍的で、チャーミングで、あなたに寄り添ってくれるこのポップ・アルバムがあれば十分だ。

Uza 『Banality of Evil 악의 평범성』 (Corée Sounds)

エレクトロニック・ミュージックのプロデューサー兼シンガー・ソングライター、Uzaの初のフル・アルバム。インダストリアル・テクノのようなビートで幕を開けるこのアルバムは、ドイツの哲学者、ハンナ・アーレントによる「悪の陳腐さについての報告」の“悪は平凡な人たちによって行われている”というテーマにインスパイアされていて、それは韓国でも、世界どの国でも今まさに通じそうなものだ。ただアルバム前半のダークなトーンのままクローズするのではなく、「生まれ変わったような気がする」と歌う鮮やかなギター曲「Personality Type 2」以降は、そういう現実を乗り越えようという前向きなトーンに変わっていくのもまた良い。メインストリーム顔負けなキャッチーなエレクトロ・ポップを聴かせるプロデューサーShaneとのデュオ、Uza & Shaneもぜひ聴いてほしい。

wave to earth 『wave 0.01』 (we are not 0)

2019年デビューの3人組バンドの6曲入り初EP。ジャズ・ドラマーと一緒にバンドをしてみたかったというキム・ダニエルとドラムのシン・ドンギュを中心に結成、後からベーシスト、チャ・スンチョンが加わった。ニック・ハキムをリファレンスに挙げ、学校の練習室を借りて録音、プロダクションやミックス等を全てキム・ダニエルが手がけるなど、徹底したアナログ、ローファイ・サウンド志向でユニークな音を聞かせる。また、楽曲後半に向かうに連れてハードな展開となる「gold」や「Purple Lake」、それらとは対象的にスロウな「bonfire」などジャズを通ったバンドだからこその、息を呑まずにいられないスリリングな演奏も魅力的(筆者が目撃したライヴではそんな部分がより際立っていた!)。まさに成長が楽しみなバンドだ。


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Text By Daichi Yamamoto

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