日野浩志郎、IKU SAKAN、西川文章がスタジオ《ICECREAM MUSIC》を大阪に設立! 3人に訊く設立の経緯とこれからの指針
goatの中心人物で、YPY名義でも活動する日野浩志郎、ヨーロッパを拠点に活動していた電子音楽家、IKU SAKAN、テニスコーツやゑでぃまぁこんなど数多くの音楽家の作品、ライヴに参加する音響エンジニア、西川文章の3人が、昨年秋に共同でプライベート・スタジオ《ICECREAM MUSIC》を立ち上げた。音楽イベントのみならずアートや演劇など様々なイベントが開催される名村造船所跡地のクリエイティブセンター大阪をはじめ、アーティストのアトリエやオフィスとして再利用された倉庫跡地や空き家が数多く並ぶ大阪・北加賀屋エリアに新たなに誕生したスペース。プライベート・スタジオとはいえこの三人が制作の拠点とするということはここから多くの魅力的な作品が産み出されることは間違いない。様々な形で自分たちのスペースを立ち上げるアーティストが少しずつ増えている中、《ICECREAM MUSIC》は一体どのような場所になるのか。それを知るため彼らとも縁の深いアーティストが出演した2018年10月14日のオープニング・イベントに足を運んだ。
この日の出演者は日野とIKU SAKANのDJセットに加え新しいスタジオの船出を祝う為集まったオオルタイチ、梅田哲也、Contact Gonzo、DJ威力という主宰の3人とも過去何度も共演している馴染みの深い面々。《ICECREAM MUSIC》はクリエイティブセンター大阪すぐ近くの三階建てのビルを利用しており3階部分が3人のスタジオ、1階部分はガレージ兼倉庫のような広いスペースになっておりイベントはこの1階部分で行われた。
スタジオは3人が制作、録音に使用する機材がそれぞれのスペースに配置されておりスタジオというよりかは彼らの自宅の制作部屋に足を運んだような気分になる。この日は自由に見学できるようになっていたのだが日野が実際にその場で音を出したり来場者にも機材を触ってもらい自ら解説を行っていた姿が印象的であった。
1階で行われたイベントはオオルタイチの弾き語り、梅田哲也、Contact Gonzoによるパフォーマンンス、そしてそれらの間に行われる日野、IKU SAKAN、威力のDJとかなり大きな振れ幅をもったものではあったが、これはスタジオを主宰する3人が持っている振れ幅の大きさを表わしてもいた。三人と付き合いが長いというだけでなく、そういった点でもこの日の出演者は《ICECREAM MUSIC》のオープニングを飾るのにふさわしいものであった。
この日、イベントの運営、次々に訪れる友人への対応、さらには出演者、PAとして忙しなく走り回っていた日野浩志郎、西川文章、IKU SAKANの3人に短いながらも貴重な時間を割いてもらい、スタジオ設立の経緯、今後の計画について簡単に話を聞くことができたのでお届けしたい。(取材・文/堀田慎平 写真/uuu)
Interview with Koshiro Hino, Fumiaki Nishikawa, IKU SAKAN
ICECREAM MUSICの入口
――まずスタジオを始めた経緯を教えてもらえますか。
日野:僕は以前からスタジオを探していて。何回か『おおさか創造千島財団』(一般財団法人)の方に話を振っていてそれで今回このビルが空きますっていう話を去年の夏くらいに頂いて。それで実際に年明けくらいに見に行ったんです。その際に(西川)文章さんに「スタジオを借りようと思っているんですが一緒にどうですか」って話をしていて。文章さんも「いいね」って話だったので一緒に物件見に行って。それと同時期にSAKANくんともベルリンで会って。
IKU SAKAN:それが2017年の12月頃の話ですね。
日野:その時にスタジオやろうと思っていてという話をして。そしたらいいじゃんってなって。
IKU SAKAN:僕もちょうど大阪で作業できる場所を探していたので願ったり叶ったりでしたね。
――SAKANさんは当時ベルリンには自身の制作場所はもっていたのですか
IKU SAKAN:いや、普段は部屋で録音していたました。ただ日本に戻ったらそういった環境もないのでどうしたらいいかなって考えていた時に日野くんから話をふってもらって。
――今後はここが制作の拠点となるわけですね。
IKU SAKAN:そうですね。それこそ去年の冬、ベルリンで録音したものの詰めの作業をここでやったり。
――西川さんの場合はエンジニアとしての活動が主だとおもうのですがここでは具体的にどのような作業を行うことになるのでしょうか。
西川:ミックスなどの作業に使おうと思っているのですが、アーティストが2人いるので彼らが何か録音したいとなった時にすぐ対応できる環境というのがいいかなって。あと今はないけど防音室つくって録音スペースを確保できたらいいなとは思っています。
日野 : 元々録音スペース作れたらいいなっていう話はしていたんです。
――まだスタジオとしては未完成な状態なんですね。
日野:まだまだこれからって感じですね。機材ももっと置いて、今後goatの練習も出来たらいいなって思っています。
西川:今回のオープニングに向けて間に合わせたって感じだから。
スタジオの機材類
"友達とか先輩のDJをスタジオに招いて僕はこういう風に作ってますよとか一緒につくりましょうとかそういうものに出来たら"
――日野さん、SAKANさんは特に国外での活動も多く向こうのスタジオやアーティストの制作スペースをご覧になる機会も多いと思うですが何か影響や刺激をうけた場所はありますか。
日野:僕は一個あって。それはPeter Van Hoesenというテクノのアーティストがベルリンに持っていたスタジオ《Handwerk Audio》。今はもうないんですけど。ヴィンテージのシンセサイザーとかをたくさん置いていてそれを使って録音とかも出来るという。それはオープンなスタジオだったんだけどそういうスタジオがもっとあったらいいのになって僕は思ってた。ちゃんとミュージシャンとして活動している人がそこにいるというのが凄く大きいんじゃないかなって思っていて。僕も今後、まだ分からないけど機材をどう使っているのかとかものをつくるにはどうすればいいのかとかもオープンに意見交換とかが出来る場にしていけたらいいなとか思っていて。
――それは面白そうです。
日野:例えば海外だとDJでも自作の作品をリリースしてそれありきでイベントなどに誘われてスタートしている人とか凄く多い気がするんですけど日本だとDJはDJとして確立されていってリリースするのはMIX CDだけみたいなパターンが多い気がしていて。それに僕はちょっと違和感を感じてる。周りの人とそういう話してもどうやって作ればいいのか分かんないみたいなことも聞いたりして。だから《ICECREAM MUSIC》が音をつくるということに対して刺激になる場所になればいいなと思っています。友達とか先輩のDJをスタジオに招いて僕はこういう風に作ってますよとか一緒につくりましょうとかそういうものに出来たらなとは考えています。
イベント当日の様子。日野浩志郎とIKU SAKAN
――SAKANさんはどうですか。
IKU SAKAN:僕の場合はヨーロッパ、特にコペンハーゲンに友達がたくさんいて、コラボレーションとかライヴをやったりしていて。その中で凄く印象的だったのはコペンハーゲンの郊外にメイヘムという場所があるんですがそこはコンポーザーやアーティストがリハーサルスペースをシェアしていてその横で自主企画のライブイベントなどが行われているんです。凄くアンダーグラウンドで徹頭徹尾DIY。ちゃんとオーガナイズされている。スーパークリエティヴな場なんです。そういう危ういバランスの中で、もちろんコペンハーゲンの土地柄や潤沢な助成金などもあると思うんですけどそういうものが成立しうるのが羨ましいというかこういう形もあるんだなというのは常々感じていました。例えば今日も下のガレージ・スペースでライヴやDJをやっていますけど、凄くヨーロッパ的だと感じたんですね。大阪でそういったものが成立しているということが僕にとっては凄く驚きだったしインスピレーションになっている。日野くんであったり僕がヨーロッパなどを行き来してアーティストと交流していくことでエネルギーみたいなものを練り上げていけたらいいなと思います。
日野:確かに海外にはこういう場所がたくさんあって、日本にはあまりない。あったとしても全然プロフェッショナルじゃない場所も多いと思う。特に音に関しては。そういう点ではここは特殊で文章さんがいることがかなり大きいんじゃないかと思います。
西川:ヨーロッパは楽しいねんけどグダグダなところもあるから。
――グダグダというのは技術面ですか。
日野:技術面もあるけど例えばイベントが21時スタートって書いてあったら実際22時半スタートだったみたいな(笑)。
西川:それを日本でやったらあかんやんか。日野くんとSAKANくんだけに任せてたらそれに近い感じになると思う(笑)。僕は安全装置みたいなもの。
IKU SAKAN:完璧な人間はいないですから。例えば僕は今日のイベントにあるような装飾とかにはこだわりがないので補い合うという意味ではこの3人はいいバランスなんじゃないかなと思います。
――オープニングイベントが行われている1階部分では今後もイベントなどを開催する予定はありますか。
日野:不定期にはなりますがそのつもりではいますね。
イベント当日の様子。Contact Gonzo
――ちなみに《ICECREAM MUSIC》というスタジオの名前の由来は何なんでしょうか。
IKU SAKAN:いろいろ候補はあったのですがポップのものにしたほうがいいんじゃないのかってなって。自分たちだけのアイデアに凝り固まるんではなくて出来るだけ親しみやすいものというか。受け皿を広くしたいという気持ちがありました。 日野:僕個人の希望としては最初《カルトマニアック》っていう名前のスタジオにしたいなって思ってたんですけどカルトすぎてやばいなってなって(笑)。今後ここで録音からマスタリングまで出来るって場所にしようと思ってて、そういう利点をつかってアウトプットするものもあればいいなと。そうなると一番分かりやすいアウトプットの形は作品をリリースすること、レーベルをつくって作品を出すってことだと思うんですがそうなったときにシリアスすぎるのもなって思って。可愛いけど尖っているみたいな名前にしたくて。例えば《Lovely Music》という、David BehrmanとかAlvin Lucierなどをリリースしているレーベルがあるんですが、可愛い名前なのにリリースしている作品は現代音楽というか前衛的でとても尖っていて。そこへの憧れも個人的にはあります。内容と名前のギャップがあった方が僕は面白いなって思っていて。それで提案しました。
――個人的に日野さんはYPYやgoatでの活動やレーベル運営などにおいて自身のアイデアやコンセプトを突き詰めていくタイプだと感じていたのですが、今回話を聞いて西川さん、IKU SAKANさんの意見や3人でのバランスをとても重要視しているように見えたのが印象的でした
日野:今までいろんなプロジェクトやってきましたけど自分一人では出来ないなと思うようになったのも凄く大きくて。例えば『Virginal Variations』や『GEIST』を経て自分に何が足りてないかといえば人を頼ること。『GEIST』でも舞台監督入れたりとか自分が出来ないところを人にお願いしてさらに良いものをつくっていこうと今は考えてます。それで今回二人と一緒にやっていきましょうってことになったんです。
取材に応じてくれた3人。左から、IKU SAKAN、日野浩志郎、 西川文章
◾️ICECREAM MUSIC OFFICIAL SITE
http://icecreammusic.jp/
Text By Shinpei Horita
Photo By uuu