「幸せと悲しみの狭間に立ってた、みたいな感覚になるのが理想」
メルボルンからロンドンへ、HighSchoolの抱え続ける感情
オーストラリアはメルボルンからロンドンに渡り着実にリスナーを広げ続けているバンド、ハイスクール。ローリー・トロッビアーニとルーク・スコットの二人が作りだす音楽はノスタルジックな感情を揺り起こす。いつかの車窓の眺め、よく晴れた昼間の匂い、学生時代の孤独や喜び……浮かぶ光景は人それぞれ違うだろうけれど、懐かしい気持ちになるのは共通していると思う。
カルト的な人気を集め続けるデビューEP『Forever at Last』(2021年)は、そんな過去への眼差しをたたえた作品と言ってもいいだろう。素朴なアルペジオにフックの効いたメロディなどローファイな音色をジャングリーに組み合わせて構築するサウンドは、ニュー・オーダー、ザ・キュアー、ザ・スミスなどを引き合いに出されることも多い。そうしたインディ・ロックの要素に加え、今回のセカンドEP『Accelerator』はダークな側面により接近したと感じる。実際にミュージック・ヴィデオに取り込むゴシックの様式やアート思考まで色濃く反映されているようだ。とはいえ、5曲入りのEPはじつに種々様々で彼らだけのサウンドを横断している。
このインタヴューでは、ハイスクールの二人に新作について、また楽曲の核となる正体はどんなものなのか対面で話を訊いた。さらには音楽をはじめたきっかけ、レコーディング/ライヴの様子、そう遠くはないであろうフル・アルバムの構想にまで話は及んでいる。やや駆け足ではあるが、ハイスクールというバンドの出発点から現在までを把握できる内容だと思うので、ぜひとも新作『Accelerator』とあわせて楽しんでみてほしい。
(インタヴュー・文/吉澤奈々 通訳/竹澤彩子 トップ写真/Hannah McKimmie 記事内写真/Sekido)
Photo by SekidoInterview with HighSchool
──東京公演はソールドアウトということもあり凄い盛り上がりでした。初来日のライヴはいかがでしたか?
Rory Trobbiani(以下、R):凄かった! ユニークで珍しい体験っていうか、世界中のどのお客さんとも反応が違ってて! 会場も良かったし、サウンドも最高だった。スタッフもみんな協力的で。
Luke Scott(以下、L):じっくり音を聴いてくれてる感じ。暴れないのにそれでも楽しんでくれてるんだなってのがヒシヒシと伝わってきたし、きちんとリスペクトしてもらってる感じがしたね。
──まず、音楽をはじめたきっかけを教えてください。
R:自分は10歳のときに音楽に目覚めて、そこから自分でも曲を作り出して。きっかけはAC/DCのアンガス・ヤングで、あの学生服姿から何から何までめっちゃキテる! と思って。そこからギターを始めて、色んなバンドを渡り歩きながらスコティ(ローリーがルークを呼ぶときの呼び名) と出会ったのは20歳ぐらいのとき。その時点でお互いに色んなバンドで演奏してて、コロナの間に地元のメルボルンで始めたのが今のハイスクール。しかもこれまで自分達がやってきたバンドの中でもオーストラリア国外で跳ねた初めてのバンドっていう。
L:二人とも同じバーで働いてた同僚同士でね。
──ローリーはAC/DCがきっかけとのことで、ルークのほうは?
L:昔から音楽好きでそこからずっと色んなバンドを渡り歩いてきて……ギターを手にしたのが14歳とか。もともとはエミネムの大ファンで、小学生の頃のヒーローはエミネム。そこから徐々にロックに興味を持ち出して、最初にハマったのがエモ。いわゆるアメリカ中西部のエモだよね、ブライト・アイズとか、アメリカのバンドを中心に聴いてた。
──ニュー・オーダー、ザ・スミスなどを引き合いに出されることが多いですけど、色んな音楽の影響が入ってるんですね。具体的に影響を受けた音楽で言うと?
R:今言ったAC/DCだのエミネムはあくまでも序章の部分で(笑)。ハイスクールってバンドに関して言えば、むしろ80年代のマンチェスターのバンドからの影響が強いかも。それこそ、ニュー・オーダー、ジョイ・ディヴィジョン、あるいはバウハウスとか80年代のポストパンク系のバンドだよね。
L:あと2000年代初期のアメリカのバンドだよね。ビーチ・フォッシルズ、ダイヴとか2000年代のニューヨーク・シーンのバンド。
R:そうそう、ストロークス、インターポール、ヤー・ヤー・ヤーズ、キラーズ、何ならフランツ・フェルディナンドとか……フランツはアメリカのバンドじゃないけど、サウンドはあの辺りの2000年代のニューヨーク・シーンのバンドともろ被ってるもんね。今言ったような音を配合して、自分達のオリジナル・フレーバーを振りかけたところにハイスクールのサウンドが存在してる、みたいな。ただ影響に関してはそんなに意識してないかも、単純にその都度一番しっくりくる音を鳴らしてる感じ。自分達の中から自然に出てくるものをそのまま形にしてるだけ、みたいな。
──2000年代のバンドのどの辺りが響きましたか?
R:でも音楽って、15年とか20年ごとにサイクルで回ってたりしない? このあいだ、スコティが発見して「おー、なるほど!」と思ったのは、例えば2000年代初期のストロークスは70年代後半のヴェルヴェット・アンダーグラウンドとかに影響を受けてたりするわけで。今ちょうど、ストロークスが出てきて20年ぐらい経った後に、自分達みたいにあの頃の時代の音楽に影響を受けたバンドが出てきて、あの時代の音楽が再評価されてるという。だから、20年後にはハイスクールに影響を受けたバンドが輩出されるかもしれない(笑)。ただ、2000年代初めの特にニューヨーク周辺のバンドって、あの時代においてめちゃくちゃ斬新だったわけじゃないか、独特のヴァイブスや美学がギュッと凝縮されてて。少なくともストロークスの登場でスキニー・ジーンズが復活した(笑)、その功績は大きいよ。
L:2000年代はロックンロール全盛期だったよね。その波が20年サイクルで今再び到来してる。20代の頃ってアートや自己表現の欲求が一番盛り上がる多感な時期だからね。だから、自分達でも音楽を作るときに、10代の頃に好きだったバンドの音がブワーッと出てくる。いまだに大好きな大切な音楽だし。一番最初に夢中になった音楽でもあるし、そりゃ何歳になっても好きに決まってるって。その20年ごとのサイクルが今ロックンロールにバチッとハマってる感じ。それと、90年代の音楽シーンってほぼほぼヒップホップが牛耳ってたのもある。それが2000年代初期にストロークスみたいなバンドが登場して、まったく新たな視点からロックンロールを提示してくれた。それまで90年代のグランジのイメージがどうしても強かったのに対して。(うつ向きがちな姿勢から)みんな下向いてギター弾いてたところをストロークスは(顔を上げて背筋を伸ばして)ギターの位置をこの辺まで引き上げた(笑)、 それ見て当時「うわ、斬新!」ってなるに決まってるって。
──ハイスクールというバンド名の由来があれば、ぜひ教えてください。
R:超ど直球にしてシンプルすぎるから、絶対すでに使われてるでしょ? と思ったらセーフだったんで逆にビックリした。でも、みんな当たり前のように使ってる言葉をバンド名にするっていいなと思ってさ。
L:シンプルでみんなが知ってる言葉がバンド名って効果的だなって思った……ザ・カーズなんてまさにそうだし。だから、ハイスクールがまだ残っててよかった。
R:あとバンドを結成した当時は、妹のリリーがまだ高校生でさ。2人で練習してたら、妹がよく学校帰りに制服のまま練習場に遊びに来てて、そこからヒントを得たのもある。ハイスクールって名前にちなんで、チャリティ・ショップで地元のオーストラリアの高校の制服を仕入れて初期のアーティスト写真や衣装に使ってたりね(笑)。でも、学生時代の独特の価値観やしきたりがすごく面白いなと思う。学生という立場だからこその反抗精神とか悲しみとか……あと、特殊で面白いのは、中学・高校時代ってすべてがシステムで管理されていて時間割り通りに淡々と日々規則的に流れていくわけじゃないか。それなのに、卒業と同時に完全に放置で野に放たれる、その極端なギャップも妙だよなあって……そう考えると、小中高って相当特殊な時代だよなあって思う。
L:それはめっちゃある。ハイスクールのバンド名にしても……そもそも高校時代の経験って十人十色でまるで全然違ってる。それでもほとんどの人間が高校時代という時期を体験しているわけであり……そのエモい感情を反映してるのがハイスクールって名前なんじゃないかと。人によって様々な感情なり解釈を呼び起こす言葉だから。
──メルボルンからロンドンに拠点を移すことについて「Only a Dream」(2022年)のプロデューサー、ダン・キャリーから助言があったのでしょうか?
R:いや、ロンドンに移ってからダンと繋がったんだ。 もしロンドンに移ってなければ、ダンと一緒に仕事をする機会もなかったと思う。そもそも「お前ら絶対にイギリスに来たほうがいい!」って言ってくれたのは、ジェイミー・ラセレルって人物で、《Blue Raincoat》と《Chrysalis》っていう音楽関係の版権やらマネージメントの会社をやってる人なんだ。ハイスクールのマネージメントを担当してた人間がジェイミーと繋がってて、そこからの縁でお世話になることになった。そのあたりから徐々にイギリスやヨーロッパ出のストリーミング再生数が増え出したタイミングで、ジェレミーから「お前ら仕事辞めてこっち来い!」って言われてね。 今までの人生の決断の中で最良の決断だったよ。
──ダンとのご縁もそこから?
L:そうそう、然るべきして訪れたみたいな?
R:裸一貫でイギリスに行って、そこで一旗揚げてやろうと努力してたら、自然に繋がったんだ。連絡も普通にインスタで来たしね。「前からあちこちで評判を聞いてます、ぜひ一緒に仕事しませんか?」みたいな感じで。実際、ダンとは「Only a Dream」の一曲だけだけど、ダン・キャリーの手が入ってるだけで明らかに他の曲とは違う存在感を放ってるよね。
──同じくオーストラリア出身のロイエル・オーティスもロンドン経由で人気が出ているのですが。
R:ロイエル・オーティスね、ただ、個人的には繋がってないんだ。ダンのプロデュースで作品を出しているのも知ってるけど。
L:ちょうどダンと一緒に仕事をする直前に、彼らがスタジオでダンとレコーディングをしてたんだ。あと、向こうはシドニー出身で、自分達はメルボルン出身だしね。実際に会ったことはないけど、それでも彼らのやってることはリスペクトしてる。インディ的なサウンドを基盤にしながら、コマーシャルでもあるっていう微妙なラインを突いてると思うよ。めちゃくちゃキャッチーだし。
R:キャッチー、そうなんだよなあ……周りの人間とか、おそらくうちのバンドにそっち方向に行って欲しいと思ってるんであろうことを薄々感じつつも、こちらとしてはやっぱり自分達のアートであり、それをどういう形で表現したいかってことに今のところ注力していきたい。単に数字を取ってみんなを喜ばせればいいっていうだけじゃなくてね。これは誤解しないで欲しいんだけど、ロイエル・オーティスがウケ狙いでそういうことをやってるって言ってるわけじゃ全然ないんだよ。ただ、自分達があのステージに行くとしたら、その前段階でもうちょっと好きに泳がせてもらいたいし、まずは自分達のアートを思う存分探求したいから。そこまでコマーシャルな方向に振り切れるまでは、まだ準備ができてないっていうか。
──新作『Accelerator』はプロデューサーにフィン・ビリンガム(Sam Akpro、Sunken)を迎えて制作されています。彼とはどのように制作を進めていったのでしょう?
L:フィンは最高だった。何しろ耳がものすごくいい人で、それでいて優秀。しかも、こちらが納得いくまで時間をくれた。何よりも自分達が鳴らしてる音にめっちゃハマってくれたのが嬉しかった。影響を受けてる音楽が被ってたんでね。じっくり考える時間をくれたし、こちらが納得するサウンドに到達するまで待ってくれたのは本当に有難かったよ。
R:「とりあえずヴォーカルとドラムの音を張り上げて、そこはマストで」みたいな圧を感じさせるプロデューサーもいるからね。フィンは自分達がその辺りをガン無視しても一切何も言わなかった。おかげで、ローファイかつアンダーグラウンドな色を思いっきり爆発させることができた。そこがうちのバンドにとって重要な要素の一つだったりするので。
L:結局、そこが自分達のツボだったりするんでね。
R:フィンはもう友達だし、笑いの絶えない現場だった。さんざんセッションしまくったよ。時間的にも余裕があったし。今回、フィンと一緒に作ったのは5曲入りのEPだから、まだアルバムへの序章みたいな感じだけど、それでも今回のEPがバンドのサウンドを一切薄めず原液のまま出した最後の作品になるんじゃないかと。次のアルバムの段階に進むときには、ワイドスクリーンでこの音を体感してもらいたいと考えてるんで。だから、純度100パーセントのローファイ・サウンドは今回が最後かもしれない。アルバムのほうはよりビッグでリッチな構想を描いてるんで。
──『Accelerator』のラスト曲「Mondo Cane」の空間性が印象的でした。途中から環境音が入っているように聴こえましたけど、どのようにレコーディングされましたか?
L:スタジオの階段で録音してるんだよ。コンクリートのでっかい階段があって、それがずーっと上まで続いてるんだけど、階段の下にマイクを設置して、そこから上にずっと移動していって。嬉しいなあ、そこをちゃんと汲み取ってくれるとは。
R:途中にパーティをやってる部屋があって、そこから人が出てきて「あ、録音中にすみません」みたいなやりとりがあったりしてね(笑)。
──曲作りをする上で、リズムとコード、メロディ……のように二人で役割を分けていたりしますか?
R:スタジオではとくに役割みたいなのはないね。二人ともマルチ・プレイヤーなんで。自分が弾いたシンセにスコティがベースをつけてってとこから始まるパターンもあるし……ただ、ギター、ベース、シンセ、ヴォーカルに関してはお互いにスワップしながらやってる。スタジオでは一応自分がドラムを叩いて、スコティがそこにアイディアを付け足したり発展させたりって形ではやってるけど、二人とも基本どの楽器もいけるんで。まあ、ライブではスコティがベースで自分がギターみたいな振り分けになってるけど、スタジオではその辺のルールは一切ないよ。
Photo by Sekido──また、ライヴではエフェクター周りが非常に少なくシンプルで驚きました。
L:そうそう、シンプルに必要なものだけでまかなうスタイルで。
R:「お客さんゼロ、大量のペダル」という格言があるくらい(笑)。最小限のペダルでも最高の音を作れるはずだし。さっきまで話してきた自分達が影響を受けてきた80年代とか2000年代のバンドの音とか、やっぱシンプルだもんね。剥き出しでシンプルな音をそのままガチでぶつけてる感じ。たまにコーラス・ペダル一個とか、それで最高のディストーションをぶちかましておしまい、みたいなシンプルさ。アンプも基本同じものを使ってるし、自分の好みで言うとBlues JuniorかHot Rod Deluxeで、スコティはAmpeg派。とはいえ、どのアンプを使ってもいける自信はある。
L:結局、シンプルなのが何だかんだで強いんで。自分達が作ってる音楽なんかはとくに。昔はもっとたくさんのペダルを使ってたんだけど、そんなに必要ないじゃんってことに気がついたんだよね。
R:もともとはシューゲイザーのバンドで演奏してたんだよね。ブライアン・ジョーンズタウン・マサカー、スペースメン3、スロウダイヴ、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインとかそっち系。その当時は自分達も大量のペダルを使っててさ。よく下向いて靴を見ながら演奏してるからシューゲイザーって言われるけど、それってたぶん靴じゃなくて大量のペダルを扱ってたからなんだと思う(笑)。
──「Jerry」、「August 19」などミュージック・ヴィデオの監督・制作をローリーが手掛けています。映像に興味をもつ、きっかけはありましたか?
R:昔から、映像、写真、絵画などのヴィジュアル・アート全般に興味があって、形式は何だっていいわけだよ。それこそ自分を表現するのが好きで、しかも色んな表現方法に挑戦したい気持ちがあるなら、その方法は絵でも詩でも映画、音楽、ファッション関係ない。クリエイティヴな根源にあるものは基本的には一緒だから。
L:同じだよね。映画や音楽でもヴィジュアルで表現するか音で表現するかの違いでしかない。
R:そりゃこだわりがあるに決まってるよ。ヴィジュアル的な要素を加えることで音楽の世界がさらに深まるから。実際、自分が好きなバンドって音だけじゃなくてヴィジュアルもめっちゃ好きだったりするし。二人ともオーストラリアでは映像関係の仕事についてたんだよ。スコティは、Netflixシリーズの制作現場で仕事してたし。
L:そう、『プリーチャー』シリーズとか『シャンタラム』とか。
R:自分は広告とかコマーシャル関係のプロダクション現場でアシスタントとして働いてたし。それもあって映画や映像業界に知り合いとか友達がたくさんいて、撮影に必要な照明とかカメラとか知り合いのツテで揃えることができたんだよね。今度出る「Heaven’s Gate」のPVとかもマジでキテるから! だいたいいつも二人でアイディアを練るところから始めて、スコティが撮影の手配を仕切ってくれたり。基本になるコンセプトを作って、そこから曲を聴きながら意見交換してイメージを作っていく感じ。映像も二人で作ることもあれば自分が監督することもあるし、まあ、そんな感じでやってるよ。
L:新作の「Heaven’s Gate」のPVもローリーが担当してて、しかも演技にまで挑戦してるんだ。
──その「Heaven’s Gate」は直訳して「天国へのゲート」ですか、それとも……。
L:そう、アメリカのカルトの団体のほう。
──やっぱり!
L:とはいえ、どっちにも解釈できると思うよ。
R:PVの中では一応そのへんを曖昧にしていて。自分が死ぬ場面があるんだけど、それは天国への扉にも繋がるし、と同時に服毒とかカルト教団を彷彿させるイメージも差し挟んであって。まあ、どちらにも解釈できるようにしている。
──先ほど挙げた「Jerry」のMVもわりと宗教的な印象です。あのMVはどのように制作されたんですか?
R:「Jerry」はガチャガチャしてなくて、画面も統一された感じだよね。一つ一つの場面設定をそれぞれ独特の世界観にしたくて。スコッティが花に埋もれたり、リリーが首に白い蛇を巻いたり、いくつもシンボリズムを挟み込んでいる。神社や仏閣みたいなイメージにしたくて。もともと宗教的な世界観だとか善悪思想に興味があって。そこにまつわるゴシック性とかね。宗教って神聖でスピリチュアルなものであると同時に、ダークでおどろおどろしい側面も併せ持ってる。自分はブラック・サバスの大ファンでもあるんだけど、ブラック・サバスも常に聖書を引用してたからね。
──二人はホラー映画もお好きなようですが。
R:この質問はスコティに任せる(笑)。自分は若干ビビりが入ってるんで。
──昔の日本のホラー映画も鑑賞していると伺いました。
L:黒沢清の『CURE』とか……あの2000年代初期の日本のホラー映画の中では特に『回路』が好きだね。もしかしてホラー映画好きだったりする?
──怖いのはちょっと苦手で、海外のゴーストと日本の幽霊って少し違うというか。
L:そう、薄気味悪い感じがかえって恐怖を煽るっていう、それがいいんだよ!
──そうした映像に対する、二人のこだわりの共通点ってありますか?
R:やっぱり。この音楽を聴いた時と同じ感情を歓喜したいっていうのはあって……忘れてた記憶が蘇るような感覚、ノスタルジア、興奮とか……何かしらの感情を喚起したい。曲を聴いて「あ、これって15歳の時の自分だ」と思って15歳のときのパーティの場面にタイムスリップするような感覚を起こさせるとか、そういうのが理想だよね。それをヴィジュアル面からもやっていきたい……多分サウンドに関しても一緒で。いろんなものを聴いて、いろんなものから影響を受けているように、自分達もいろんな映画なり映像なりを観て、自分達の好きなもの全部から影響を引っ張ってきてるみたいなもんなんで。
L:こだわりで言うなら、映像だけでなくて音楽まわりのすべてにこだわりがあるよ。見せ方というか、それこそファッションにしても。とりあえず自分達がクールに映っていればいい!(笑)。
R:そこ大事!(笑)。それと単純に退屈なのじゃ満足できないのもあると思う。なかには、オーストラリアのリスナーとかとくにそうだけど保守的っていうか、普通でいいじゃん、みたいな。まわりと違うことやってジャッジされたくないみたいな。だったら最初から全部シンプルにしちゃって、余計なとこ突っ込まれないようにしようぜみたいなノリというか。でも、本当に力強いアートをやろうと思うなら、失敗するリスクを取ってでも自己主張していかなくちゃ。それこそ他人からのジャッジを一気に引き受ける覚悟で自分を晒さしていかないと伝わんない気がするんだよね。「うわ、あいつら馬鹿じゃね? やり過ぎじゃね?」って訝しがられるところからこそ最強のアートって出てくるものだし、例えば、今回日本に来て東京の人のファッションとか超キテるしさ! その心意気だよね。他人の目を気にするより、そっちの方が面白いに決まってる。
──あなた方の音楽は一貫して、哀愁やメランコリックな感情を内包していると思います。自分達の音楽に欠かせない感情はどんなものでしょうか? またなぜその感情に惹かれるのだと考えますか?
R:自分が音楽を聴いて「これ好きだわ」って思うのって、向こう側の世界を垣間見させてくれる瞬間なんだよね。目覚めてハッとなるような、人生がいかに悲しくて美しくて奇妙なものであるかを投影して体験させてくれるような。現実から別世界に意識が持っていかれる感覚というか……そこで悲しみや美しさ、生と死を感じさせてくれる音楽が好きなんだよね。
L:ハイスクールの曲をかけた時とか、たまたま耳にした瞬間、すでに幸せと悲しみの狭間に立ってた、みたいな感覚になるのが理想かな。あるいはそのどちらか一方でもいいし、ハッピー・サッドでもメランコリーであってもいい。サウンド的な影響ってとこではあっちこっちにまたがってるかもしれないけど、形はどうであれ常にその部分は抑えてあると思う。自分達が音楽に何を求めてるかっていう、その感情のコアの部分というか。ある意味、デジャヴ的な。
R:そういうのが好きなんだよね。 今初めて聴いた曲なのに「自分は昔からこの曲知ってた」っていう感覚……それまで存在してなかったはずの曲なのになぜか知ってるっていう。そういう感覚を求めてるとこがあるかもしれない。
──さきほどのホラー映画やカルト的なものを敢えて取り上げるのもそういった部分から来ているのでしょうか? 明るい部分ではなく影というか、奥にある部分を照らし出すという意味で。
R・L:あー、まさに!
R:いや、ほんとそうなんだけど、それと同時にだいぶおちゃらけちゃってる部分もあるし、毎回深刻なわけじゃない。何も考えないで普通に楽しんでもらってもいいしね。PVだって基本内輪で盛り上がって作ってるし。そこはシリアスになりすぎないように、同時に能天気なとこもあるんで。さっきスコティが言ってたけど、ハッピーの中にも一抹の悲しさがあると思うし、悲しさの中にも一抹のハピネスが潜んでると思うんだよね。
L:そう。ゴシック的な世界観とか宗教とか、光と闇とその両方を兼ね備えていると思う。 それもあって、自分達もそういう表現に惹かれてるんだと思うし。
──最後に一問だけ。大阪と東京公演のアンコールで演奏したパンク・ナンバーはカヴァー曲でしょうか?
R:カヴァーだよ。メルボルンのゴッドというバンドの曲で……オーストラリアでは定番の曲なんだよ。リリースされたのがたしか80年代末とかじゃなかったかな。88年とかだね。代表曲って言ったらそれぐらいで(笑)、単に自分が知らないだけかもしれないけど。でも、あの曲はものすごく強力で、それこそ今回のインタヴューで話してた感情すべてに触れてるっていうか……ものすごいパワフルで刹那的で深い悲しみをたたえてる。多分メンバーが16歳の時に書いた曲なんだけど、そのうち半分がオーヴァードースで亡くなっちゃっててさ。それでもメルボルンを代表するような曲で、ダイナソーJr.とかバッド・ドリームスとか、色んなバンドにもカヴァーされてるんだよ。だから今回はせっかくの機会だし、オーストラリア国外にもあの曲を連れ出していこう! ってね。オーストラリア国内で演奏したらそこまでインパクトはないかもしれないし……メルボルン出身のバンドだから別の意味で感慨深いし盛り上がるんだろうけど。でも、あの曲をオーストラリア以外の土地に暮らしてる人達にも知ってもらいたいっていうリスペクトの気持ちと、オーストラリア以外でも同じように響くのかな? っていう実験的な意味もある。
──この質問が出たってことは、その作戦が見事にハマった証拠ですね。
R:見事にハマったね!(笑)
<了>
Photo by SekidoText By Nana Yoshizawa
Photo By Hannah McKimmie、Sekido
Interpretation By Ayako Takezawa
HighSchool
『Accelerator』
LABEL : PIAS / BIG NOTHING
RELEASE DATE : 2024.4.19
配信・購入はこちら
https://ffm.to/highschool_acceleratorep