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【From My Bookshelf】
Vol. 36
『STRUGGLE: Reggae meets Punk in the UK』
石田昌隆(著)
今も続く旅の記録

03 October 2024 | By Daiki Takaku

写真家(あるいはジャーナリスト/ライター)として知られる石田昌隆による本書は、彼が自身の足で追いかけた主にUKの音楽の歴史と魅力を写真とテキストで時間軸に沿って語っていくものだが、(著者の石田も折に触れて書いている通り)近年になって包括的にまとめられることの多くなった史実を同時にさらっていくことで、著者の肌感覚と歴史を照らし合わせるような形で進んでいく。

とりわけ1982年にザ・クラッシュのライヴを観た話から始まるChapter 1では、1958年生まれの著者が、音楽にのめり込む前の歴史の整理に重点が置かれている。そのため、著者の実体験に基づいた文章の比重は少なく感じるが、UKにおける移民に関する法律の変遷についても丁寧に触れながら、どのように移民が扱われてきたのか、その中でいかにして素晴らしい音楽が育まれてきたのかが記された、本書の核となるパートとも言えるだろう。UKの音楽にただならぬ魅力を感じているとしたら、このパートだけでも必読の内容である。

そうして前提を共有した上で、続くChapter 2からは著者の実体験をベースに語られる。特に著者が長期滞在した1984年のロンドンについての記述は、当時のムードがテキストと写真によって肌で感じられるようで非常にスリリングだ。中でも、ジャマイカ系の移民やその二世たちのたまり場となっていたフロント・ラインと呼ばれる場所について書いた箇所では著者がどれだけ危険を顧みず(実際に著者はフロント・ラインの近くでカツアゲに遭っている)取材してきたかを想像させる。現在これだけのリスクを冒して取材できるジャーナリストがどれだけ存在するだろうか。

また、本書の魅力を語る上で重要なのが、本書は帯にもある通り、著者の41年の旅の記録ではあるが、その旅が終わっていないことが伝わってくる点だ。本書の中で何度か当時強く惹かれなかった作品などに対して後になって評価を変えたことを正直に綴っていること。本書が2023年という直近の出来事についての記述まで連なっている点もそうだ。Chapter 1での「パンクとレゲエが交わりながら進行していたイギリスのムーヴメントとは何だったのか。そのことを、ぼくは長年考え続けている」(P34)という現在進行形の記述に象徴されるように、著者は本書を通して思考や経験を重ねていく中で価値観が変わることを肯定しているのだ。

個人的に、ライターとしても、人としても、そういった著者の姿勢にはとても勇気付けられた。目にしたものや聴いたものについて、今すぐそれを捉えて言葉にするのも大切だが、そうしたときに多くの場合やりきれなさやモヤモヤとくすぶった気持ちも存在することを本書は見逃していない。それはある種の人の持つ弱さかもしれないが、人生が、情熱が続いていく限り、探求は続いていくという希望でもあるはずだ。

表紙に映る、今は亡きアリ・アップ(ザ・スリッツ)の瞳はただでさえ力強いけれど、この先の人生をどう生きるかで、その意味は変わるのだと思う。(高久大輝)

Text By Daiki Takaku


『STRUGGLE: Reggae meets Punk in the UK』

著者 : 石田昌隆
出版社 : Type Slowly
発売日 : 2024年8月3日
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