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フジロック・フェスティバル ’17 ライヴ・レポート第2弾

22 August 2017 | By Daichi Yamamoto / Tetsuya Sakamoto

レコードでのサウンド・プロダクションをライヴでも形にすることの意味

-The xx- Photo by Masanori Naruse

ライヴにおいて派手な曲と静謐な曲をバランス良く配置しながら、徐々に昂揚感をもたらしていくことは確かに効果的なことだと思うが、ときにはそれが散漫な印象を与えうる。そういった印象が残るのは、曲順のバランス云々よりも、それらの曲のサウンド・プロダクションの強度/精度に均衡性がないからではないだろうか。そんなことをぼんやりと考えながら今年の《フジロック》で数多のアーティストのライヴを観ていたが、そんな中でとりわけ印象に残ったのがジ・エックス・エックスとボノボのパフォーマンスだ。

ジ・エックス・エックスは、新作『アイ・シー・ユー』の開放的でポップな曲を、今までの極端に音数の少ない、徹底的にミニマリズムを志向した曲にどう組み合わせていくのかやや不安な部分はあった。だが、派手な曲の後に静かな曲をやるにしてもその逆をやるにしても、互いをきちんと共存させていたのだ。これはともにバンド・サウンドとしてのプロダクションを意識して曲を作っていることの表れであり、また、それが優れているからこそであるように思う。それが一際際立ったのが、ファースト・アルバム『エックス・エックス』に収められた「Shelter」から、ジェイミー・エックス・エックスのソロ・アルバム『イン・カラー』の「Loud Places」へと繋ぎ、新作を象徴する「On Hold」を演奏するという終盤の流れ。そこから感じられたのは、彼らが外へ飛び出そうとする意思であり、それが自分たちには可能だという自信だ。そして、その流れにジ・エックス・エックスというバンドの歴史を垣間見たのは筆者だけだっただろうか。

-Bonobo- Photo by Masanori Naruse

かたやボノボは待望のバンド・セットでの登場。レコードの音源だけを聴いていると、彼のサウンドはメランコリックなメロディや壮大なサウンドスケープばかりに耳がいきがちになるが、こうして改めてバンド・セットで観ると、彼のシネマティックなサウンドを裏打ちしているのは、素朴なメロディや、ハウスや2ステップの躍動感あるリズムではなく、実はエレクトロニクスと生楽器によって作り込まれたサウンド・プロダクションなのだということを痛感させられる。音数を絞って穏やかなアンビエント・スペースを生み出す曲にしても、ハウス/UKガラージの推進力あるビートでダンスを誘う曲にしても、バンド・アンサンブルに隙がみつからない。だからこそ、入場規制のかかったホワイト・ステージの聴衆の耳と目を釘付けにし、ゆったりと踊らせ続けたのだ。

奇しくも両者は今年の1月に新作をリリースしている。だから、セット・リストには新旧の曲が並ぶことは容易に予想がついたし、実際そういうセットだったのだけれど、ジ・エックス・エックスにしろ、ボノボにしろ、これだけ新旧の曲が混ざったセットでも、そのパフォーマンスに淀みがなく、徐々に熱を帯びながら、彼らのサウンドを我々の身体に染み込ませていった。そして、そこから浮き彫りになったのは、彼らがサウンド・プロダクションに対して極めて意識的であり、拘り抜いているということだったのだ。(坂本哲哉)

ロックの王座に圧倒され、一人のポップ・シンガーの成長を目の当たりに

-Queens Of The Stone Age- Photo by Yasuyuki Kasagi

例年以上に昨今の欧米のフェスティバルを沸かせるトップ・アクトが集結した今年の《フジロック》。ロックとポップ、それぞれから期待以上のものを見せてくれたのはこの2組であった。

欧米のシーンでロック・バンドというフォーマットがメインストリームで苦労しているのは今年の《フジロック》でヘッドライナー級のスロットを任されているロック・バンドが彼ら、クイーンズ・オブ・ザ・ストーン・エイジくらいであることからも明らかだ。フロントマンのジョシュ・オムは歌いながら櫛で髪を溶かし、こちらを挑発するようにクネクネと体を動かす。そんな余裕の風貌から鳴らされるのは連続ミサイルのように図太く重い音。強い音のアタックにつられて前方では終始モッシュピットが止まない。ロックの本来的な魅力をもってして、あっけらかんとこの日の《WHITE STAGE》の最後を掌握した彼らはひたすら現行シーンにおけるロック・バンドの王座の地位を謳歌しているかのようであった。

-Lorde-Photo by Yasuyuki Kasagi

対して最終日に登場したロードは3日間で最大の感動を演出した。特に印象的だったのは一曲一曲のストーリーを説明する曲間のMCでの彼女の姿だ。その話し方はまさに日常の会話のようで、数万人の観衆一人一人を相手にしているかのよう。ライヴ中の彼女はとてもエモーショナルで、最新作『メロドラマ』で歌われたストーリー(自身の失恋経験やそこでの感情の起伏)を思い出しては涙しそうになったり、気持ちが爆発しそうになっているようであったが、それは決してステージ上の彼女一人で消化されるわけではなく、MCでの会話を通して確実に観衆一人一人に受け止められていた。

ビヨンセのように女性のエンパワーメントを体現するわけでもない。レディ・ガガのようにマイノリティを肯定する力強さを持っているわけではない。前作「ピュア・ヒロイン」の時のように大人びていたりもしない。ステージ上の彼女はむしろそれらとは真逆の、繊細で、ごく普通の一人の女性だった。だがそれでも、誰にでも起こる普遍的なストーリーを正直に優しく語りかけた彼女が誰よりも強く映った。このツアーは「メロドラマ」という作品とそれを書き上げたロードという一人の女性を何倍も強くさせているに違いない。(山本大地)

※レポVol.1はこちら!

トップ写真:Tsuyoshi Ikegami

Text By Daichi YamamotoTetsuya Sakamoto


FUJI ROCK FESTIVAL ’17

2017年7月28日(金)29日(土)30日(日) 新潟県 湯沢町 苗場スキー場

7/27(木)前夜祭  15,000人
7/28(金) 32,000人 
7/29(土) 40,000人
7/30(日) 38,000人

延べ 125,000人

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