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”DIYのお手本”が遂げた変貌!パーケイ・コーツが”今こそ”見せた溢れる”ポップ愛”

20 July 2018 | By Daichi Yamamoto

アルバム中のほとんどの曲は3分以内。ニューヨークの先達、ラモーンズやテレヴィジョン~ストロークスの影響を強く感じさせるギター演奏はコードをジャカジャカ鳴らし、ソロだって単音を追っていくだけのシンプルなもの。誰だって短時間でマスター出来そうである。ボーカルのアンドリュー・サヴェージ(以下、アンドリュー)の勢い任せにどう猛に言葉を吐き出すボーカルはパンキッシュ。それは、同じブルックリンのバンドでもダーティ・プロジェクターズやグリズリー・ベアーのように偏差値の高いロックでは無いが、こっちの方が、確かに体は、腰は自然と動くし、エネルギーで溢れている。そのシンプルなバンド演奏は気の会う仲間が集まって一緒にジャーンと楽器を鳴らすことのカタルシスを伝えているように思えた。

これが、米『Rolling Stone』などのイヤー・エンド・リストに名を連ねた『Light Up Gold』でパーケイ・コーツと出会った時の、筆者の正直な印象だ。2012年のこの2作目は、これこそがロックの大事なとこでしょ!と気づかせるには十分な作品であった。

だがそれと同時に、その直接的に体を突き動かすようなグルーヴと耳馴染みの良いフレーズからは、彼らはただロックなだけでなく、同時に大衆的なヒット曲も愛聴するような柔軟さも隠し持っているのでは、と感じさせた。作品から直接的にはメインストリーム・ポップへの目配せなどは感じられないが、それでもブルーノ・マーズやカーディBこそが主役になる今の時代ともシンクロする匂いーそれは”ポップ愛”とでも呼んでいいだろうかーも自然と備わっているように感じさせた。

そして届いた6作目にして、今年最もエキサイティングなロック・アルバム『Wide Awake』。なんとプロデューサーはデンジャー・マウスというビッグネームだ。結果、本作は彼らが隠し持っていた”ポップ愛”が遂に臆面なく作品に落とし込まれた作品であり、彼らが今のタイミングで作るべくして作った愛すべきアルバムになっている。

しかし、よく彼らがここまで辿り着けたものだと思う。というのも、これまでのパーケイ・コーツというバンドを一言で表すなら「DIYのお手本」だったから。2011年のデビュー・アルバム『American Specialties』はカセットテープでの限定リリース、セカンド『Light Up Gold』もルームメイトと運営していた自主レーベルからのリリースだ。アートワークもポスターも、Tシャツも、ツアーのブッキングも自分たちで行なっていたという。更に特筆すべきはこのインターネット時代においても、自分たちの作品を拡散するためにソーシャル・メディアの「必要性は感じない」(2014年のガーディアンのインタビュー)での発言だが、未だに彼らはTwitterもFacebookもアカウントを持たない)と述べていることだ。彼らは決して時代の風潮に流されることなく、自分たちの作品がどのように流通され、プロモーションされるかには人一倍気を遣っていたのだ。

だが一方で、そうした頑ななDIYスピリットが彼らの柔軟な”ポップ愛”に蓋をしてしまっていたのも事実だろう。バンドは以降も基本路線を変えずに『Sunbathing Animal』、『Human Performance』と2枚のスタジオ・アルバムをリリースし、批評媒体での高評価は維持し続けていたが、一方でセールスの伸びはいまひとつ。このままアンダーグラウンド・レベルでの支持でいるのは勿体無い。そう感じていたタイミングでのデンジャー・マウスの招聘というニュースには、彼らが自分たちのコンフォート・ゾーンから出ようとしている意志を感じたのだ。

もちろん、デンジャー・マウスといえば、最近ではU2、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ、エイサップ・ロッキーといったアリーナ・バンドやメインストリームものも手掛けてきたマキシマリズムのやり手だ。彼がパーケイ・コーツの「DIYの魂」を汚してしまうのでは?そんな疑問もあるだろう。だが、それには大きく首を横に振って否定したい。この『Wide Awake』は、バンドの本来的な魅力そのままに、本当のポテンシャルが最も発揮されたアルバムだ。これこそ、パーケイ・コーツ、ポップ化宣言たるアルバムだ。そう断言したい。

まずは、先行シングルとなった「Almost Hat to Start Fight / In Out of Patience」、「Wide Awake」の2曲を確認したい。

「Almost Hat to Start Fight / In Out of Patience」(MV)

こちらはタイトルが示す通り2部構成の楽曲。シンプルなギター・リフがリードする前半も、「Light Up Gold」を思わせる軽快なビートの後半もバンドらしさが残っているが、コール&レスポンスが楽しい後半のコーラスといい、明らかにバンド史上最もキャッチーな一曲だ。「死について無感覚でいたくない/平和は簡単なタスクじゃないとわかった」というラインが示唆する彼の国の社会状況についてのリリックも、衝動的な怒りや焦燥感がアンドリューらしいが、直近の無差別銃殺事件等とも重なってよりアクチュアリティを持たせる。サウンド自体には大きな変化はないものの、冒険的な曲構成に、潔いポップネスが落とし込まれているこの曲からはバンドの野心が感じられる。

更に極めつけはアンドリューが曲の終わりに叫ぶ「次の曲はFreebird II!」だ。実際にアルバムの曲順もそうなのだが、これは実は半分ジョークである。ステージ上のバンドに向かってレーナード・スキナードの同名の大ヒット曲をシャウト(リクエスト)するというアメリカのロック・コンサートにおけるクラシックなジョークにかけたもので、彼らの遊び心も楽しめる。

「Wide Awake」(MV)

続いて公開された「Wide Awake」はトーキング・ヘッズやLCDサウンドシステムを思わせるディスコ・パンク調。彼らのディスコグラフィには無かった「ファンキー」という文字が浮かび上がった。そして何よりお揃いのパープルの衣装を着て、ニュー・オーリンズのマルディ・グラで楽しそうにはしゃぐMVの姿が、いまのバンドのオープンな心情を表している。

また、アルバムのオープニングとクロージングを飾る「Total Football」、「Tenderness」の2曲にも注目してほしい。この2曲については<NPR>のインタビューで重要なことを述べていて、前者は、ベースラインをDEVOに影響受けたというし、デーモン・アルバーンが作りそうな和やかなバラードの後者に至っては、アンドリューが昔からフェイヴァリットだというアンドレア・トゥルーの1976年の大ヒット・ディスコ曲、『「More More More」のフィーリングがある』と言及している。これはまさにバンドが兼ねてから持っていた”ポップ愛”がソングライティングに反映された結果だろう。

「More More More」(Youtube)

更にダメを押すのがこの2曲のリリックだ。本作は現在のアメリカ社会の政治的状況への衝動的な怒り、そこから来る精神面への影響などポリティカルなテーマが全体を覆っている。だが、労働者も先生も詩人も皆で闘おうと掲げる「Total Football」、ニヒリズムに加担していた自分を自戒すると共に身の回りの全てへの優しさを持とうとする「Tenderness」の2曲は際立って前向きなのだ。この2曲についてアンドリューは同じNPRへのインタビューで、「主語を”I”ではなく”we”にする」ことに意識的だったことを明かしている。つまり本作で彼らは「怒りや絶望だけでなく希望も歌おう」ということ、それを「より多くの聴衆に訴えかけよう」という姿勢を持っているのだ。ここまで来ると彼らがどうして本作で殻を破りポップ化宣言をしたのかが見えてくる気がする。それは今こそインディやDIYのコミュニティの隣にいる人々—ポップス好きのティーンでもラップ好きのアフリカン・アメリカンでもいいーともコネクト出来るポテンシャルを自分たちの作品にも、という使命感ではないか。そんな想像をしてしまうのだ。

「Tenderness」(Spotify)

その他にも本作は、激しさよりも和声の美しさに重きを置いたような哀愁漂う「Mardi Grads Beats」、ライブでのシンガロングが予想出来る「Freebird II」、サイケデリック・ポップな「Back To Earth」、死という悲しいテーマを子供達のコーラスが優しく包み込むような「Death Will Bring Change」など兎に角楽曲のスタイルの触れ幅が広い。

従来的なロック・スピリットはそのままに、メインストリームとさえ肩を並べられる強度を備えたパーケイ・コーツが、ケンドリック・ラマーやポスト・マローンも中心に添えた今年の《フジロック》にラインナップされるのはまさにジャストなタイミングだろう。熱いエネルギーと、開かれたポップさを同時に体験させてくれるであろう彼らのステージを楽しみにしていたい。(山本大地)

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Text By Daichi Yamamoto


Parquet Courts

Wide Awake!

LABEL : BEAT RECORDS / ROUGH TRADE
RELEASE DATE : 2018.05.18
PRICE : ¥ 2,000 + TAX

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