第60回グラミー賞主要部門を大胆予想!
~ブラック・ミュージック主導の象徴となるか
今年も世界中の音楽ファンの注目が集まるグラミー賞の授賞式が間近に迫ってきた。今回のノミネーションの何よりの話題は、主要部門のほとんどをブラック・ミュージック系のアーティストや作品が独占していることだろう。全体でも最多の計8部門にノミネートしたジェイZを筆頭に、7部門のケンドリック・ラマー、6部門のブルーノ・マーズ、5部門のチャイルディッシュ・ガンビーノ、カリード、SZA(シザ)と有色人種のアーティストがリードしている。これは一昨年と昨年のグラミーへのバックラッシュ、つまりそれぞれ最有力とされていたケンドリック・ラマーとビヨンセという黒人アーティストが最優秀アルバム賞の受賞を逃したことの反動と考えずにはいられない。何しろ昨年シングル「Shape of You」、アルバム『÷』が世界的に大ヒットしたポップスター、エド・シーランが主要部門に一切顔を出していないのだから。
似た傾向はジャンル毎の部門からも確認できる。昨年はアメリカで「史上初めてヒップホップとR&Bがロックの売り上げを上回った」ことが話題になったが、中堅~ベテランがノミネートの中心であるロックやオルタナティブに対し、ラップやR&Bでは新人部門にもノミネートされたカリードやSZAを始めミーゴス、カーディBなど新しい顔も多数入っていたりと、音楽シーンの今がいつも以上にくっきりと見えてくるのが今年のグラミーだと言えるだろう。
何といっても一番の注目は28日の授賞式。そこで今回《TURN》では、3人のライター陣による熱い談義のもと、各主要部門の結果を5つ星形式で大胆予想する。各ノミネート作品の背景、今のシーンやこれまでのグラミーの傾向まで、この記事がいつも以上にあなたがグラミー賞を楽しんでもらえるきっかけになれたら幸いだ。(山本大地)
RECORD OF THE YEAR NOMINEES
Redbone
Childish Gambino ★★★☆☆
Despacito
Luis Fonsi & Daddy Yankee Featuring Justin Bieber ★★★☆☆
The Story Of O.J.
JAY-Z ★★☆☆☆
HUMBLE.
Kendrick Lamar ★★★★★
24K Magic
Bruno Mars ★☆☆☆☆
山本:レコード・オブ・ザ・イヤーは対象期間を一番象徴する楽曲をパフォーマンスしている「アーティスト」に与えられる部門。グラミーの主要部門の中でも一番権威がありますよね。
坂内:大本命は「HUMBLE.」ですよね。曲の良し悪しはもちろん、ヒットという観点から言ってもビルボード年間4位で、ラップの曲としては最高位。アルバム『ダム』も含めて「2017年を象徴するアーティスト」と言われて一番しっくり来るのは、やっぱりケンドリックかな。
山本:確かに大本命は「HUMBLE.」で賛成ですが、私は「Redbone」もあり得ると思います。Twitterのミームをきっかけにチャートでも彼にとっての最高位となる全米12位のヒットにもなりましたが、彼自身、エミー賞やゴールデン・グローブ賞を獲った「アトランタ」を始め俳優・脚本家、”ドナルド・グローヴァー”としても今アメリカのエンタメ界のトップスターになりつつあって。かつこの曲はトラディショナルなソウル・ミュージックでもあるから比較的年配の投票者も多いとされているグラミーでは十分「あり」かと。
渡辺:ラテン・ブームを牽引した「Despacito」も気になるところだけど、この部門に関してはやっぱりケンドリックが最有力かな。昨年にフランク・オーシャン、今年はドレイクがノミネートから降りたなかで、ブラック・ミュージックのエンパワーメントをいま誰よりも担っているのがケンドリック。明らかに今回はグラミー獲得を狙ってきてると思う。
ALBUM OF THE YEAR NOMINEES
Awaken, My Love!
Childish Gambino ★★☆☆☆
4:44
JAY-Z ★★★☆☆
DAMN.
Kendrick Lamar ★★★★☆
Melodrama
Lorde ★★★☆☆
24K Magic
Bruno Mars ★★☆☆☆
坂内:アルバム・オブ・ザ・イヤーも最有力はケンドリックかな。『ダム』はセールスでもビルボード年間1位を叩き出したわけで、ある意味、順当だよね。ノミネート全体を見ても、ヒップホップ/R&Bの作品が並びましたね。
山本:私はその結果、票が割れる可能性もあるのかなと思います。更にここではロードが唯一の女性ノミニーです。ブラック・ミュージック票が分散した時には彼女が受賞する可能性が一気に高まります。
渡辺:『メロドラマ』が2017年に最も評価されたアルバムのひとつだってことも事実だよね? 各主要メディアの年間ベスト・アルバムでも軒並み上位にランクインしてたし。
山本:作品としても失恋の体験という普遍的なテーマを選びつつ、ケイト・ブッシュを纏って自身のアーティスト性を更新するというロードらしく、かつこれからのシンガーソングライターのお手本になるような象徴的なアルバムだったと思うので十分取るポテンシャルはあると思います。私もこの作品にはとても感動しました。
坂内:なるほどね。あとアルバムで注目したいのはジェイ・Zの『4:44』。ザクッとしたサンプリングを主体にしたサウンドも非常に良く出来ていて、作品のテーマも中年以上のリアルを表現したものとして、他のノミネート作とは一線を画している。何より、このアルバムはビヨンセの『レモネード』(2016年)へのアンサーでもあって、そういう意味では前回のグラミーの雪辱戦というニュアンスもある。頑張って欲しいな!
SONG OF THE YEAR NOMINEES
Justin Bieber, Luis Fonsi, Daddy Yankee
Despacito
Ramon Ayala, Rodriguez, Justin Bieber, Jason Boyd, Erika Ender, Luis Fonsi & Marty James Garton Jr, songwriters (Luis Fonsi & Daddy Yankee Featuring Justin Bieber) ★★★☆☆
Jay-Z
4:44
Shawn Carter & Dion Wilson, songwriters (JAY-Z) ★★☆☆☆
Julia Michaels
Issues
Benny Blanco, Mikkel Storleer Eriksen, Tor Erik Hermansen, Julia Michaels & Justin Drew Trante, songwriters (Julia Michaels) ★★☆☆☆
Logic feat. Alessia Cara, Khalid
1-800-273-8255
Alessia Caracciolo, Sir Robert Bryson Hall II, Arjun Ivatury, Khalid Robinson & Andrew Taggart, songwriters (Logic Featuring Alessia Cara & Khalid) ★★★★☆
Bruno Mars
That’s What I Like
Christopher Brody Brown, James Fauntleroy, Philip Lawrence, Bruno Mars, Ray Charles McCullough II, Jeremy Reeves, Ray Romulus & Jonathan Yip, songwriters (Bruno Mars) ★★★☆☆
山本:この部門が一番誰が取るか予想するの難しいですね!この部門はパフォーマーが受賞対象となる最優秀レコードと違って、優れた楽曲を書いたソングライターに与えられますよね。
渡辺:注目したいのは「1-800-273-8255」かな。2017年は『13の理由』や『スウィート17モンスター』みたいな10代の鬱や自殺をテーマとした映画/ドラマがいくつも話題になったけど、自殺予防センターの電話番号をタイトルとするこの曲は、自殺願望で苦しんでいる若者たちを実際に救ったと言われてる。ポップ・ソングのモチーフとしても前例のない曲だと思う。
坂内:現代性という点では一歩劣るけど、ブルーノ・マーズの「That’s What I Like」も良い曲ですよね。ちゃんと近年のトレンドを踏まえたサウンドでありつつ、オーセンティックな音楽を好む層にも支持されそうなソングライティングの確かさもある。ドライな言い方ですけど、全体的にノミネートの傾向が先鋭化されている中で、この辺りがグラミー的な「落とし所」になる可能性もあるんじゃないかなと。
山本:「お互いが持ってる問題・欠点も愛で乗り越えていこうよ」っていうエモーショナルなジュリア・マイケルズの「Issues」も凄く好きです。彼女は元々ソングライターとしてジャスティン・ビーバーの「Sorry」、フィフス・ハーモニーの「All in My Head (Flex)」、セレーナ・ゴメスの「Good For You」なんかに関わってきた人ですが、ストリングスだけで仕立て上げてる音数の少なさなんかも含めてそういう今まで培ってきたものも表れていて。
坂内:「Despacito」がどこまで票を伸ばすかも今年の見所の一つだよね。去年のアメリカではエド・シーランの「Shape Of You」に続いて年間2位。すでにラテン圏で流行っていた曲をジャスティン・ビーバーが気に入って、自分のバージョンを作って大ヒット、というヒットの過程も面白い。欧米のポップ・ミュージックに対するラテン・カルチャーの影響力は年々高まっているわけで、その象徴としても目が離せない1曲だと思う。
BEST NEW ARTIST NOMINEES
Alessia Cara ★☆☆☆☆
Khalid ★★★★★
Lil Uzi Vert ★★☆☆☆
Julia Michaels ★★☆☆☆
SZA ★★★★☆
坂内:最後は「その年に最もブレイクスルーを果たした新人」に与えられる新人賞。去年はチャンス・ザ・ラッパーが華麗に奪取した部門です。
山本:昨年一番ブレイクした人といえばカリードですよね。アルバム『アメリカン・ティーン』は昨年末まででも既に120万枚以上売れてましたし、何よりティーンの顔的存在でしたよね。もちろん初恋や失恋っていうティーンならではの出来事の描写も巧みだけど、「Location」の「エアリプなんかを通して恋に落ちたくないよ。もっとパーソナルになろう。」に代表されるようにSNSやマッチング・アプリなんかを介して恋愛の機会を得る”今”の若者をレペゼンしている。
坂内:希望的な観測も含めて、対抗馬はSZAかな。ケンドリック・ラマーらを擁するTDEに入ってから少し時間は空いたけど、『コントロール』はすごく良いデビュー・アルバムになったよね。ネオソウル~インディR&Bの流れを汲んだプロダクション面や、歌詞の表現力の部分には次世代らしい新しさがありつつ、本人の歌の上手さもあって普遍性のある表現になっている。特に、2017年後半のプレゼンスの高まりには驚かされたな~。
渡辺:リル・ウージー・ヴァートも年間をとおして大活躍だったよね。リスナー層が他と比べると若者寄りだから、グラミー的にはちょっと不利なのかもしれないけど。てか、アレッシア・カーラは新人部門なんだ? もうすでに実績ある人だけど。
坂内:たしかに、ZEDDとのコラボとか、2017年は色んな場面で見かけましたけど、新人という感じはしないかなぁ。でも、アメリカってマーケットや文化圏のデカさゆえの独特の読み切れなさがあるから、「まさか!」もあり得るかも知れない(笑)。そういうアメリカ音楽の懐の深さを改めて体感できるのもグラミー賞の魅力ですよね。
生中継!第60回グラミー賞授賞式
WOWOW プライム
1/29(月)午前8:30
(録画放送) 第60回グラミー賞授賞式
WOWOWライブ
1/29(月)午後10:00
WOWOW 第60回グラミー賞授賞式 公式サイト
http://www.wowow.co.jp/music/grammy/
米Grammy 公式サイト
https://www.grammy.com/
■授賞式パフォーマンス予定アーティスト
ケンドリック・ラマー
U2
サム・スミス
マイリー・サイラス x エルトン・ジョン
レディ・ガガ
ピンク
チャイルディッシュ・ガンビーノ
Little Big Town
ベン・プラット (アンドリュー・ロイド・ウェバー & レナード・バーンスタイン・トリビュート)
パティ・ルポーン (アンドリュー・ロイド・ウェバー & レナード・バーンスタイン・トリビュート)
ブルーノ・マーズ x Cardi B
Luis Fonsi, Daddy Yankee
ロジック x アレシア・カーラ x カリード
SZA
ケシャ
DJキャレド x リアーナ x ブライソン・ティラー
Eric Church x Marren Moris x Brothers Osborne