ビッグ・フェスへと成長中!
米カリフォルニア州・ロサンゼルスで開催された《FYF Fest》をレポート!
《フジロック・フェスティバル》のちょうど1週間前にあたる7月21日(金)~23(日)の3日間、念願の《FYF Fest(以下、FYF)》に行ってきた。正式名称を《Fuck Yeah Festival》と呼ぶこのフェスは、1985年生まれのプロモーターであるショーン・カールソンによって、2004年に米カリフォルニア州・ロサンゼルスにて誕生。もともとはエコー・パークでこぢんまりと行われていたパーティーに過ぎなかったが、インディー・ロック/パンク/ハードコア/エレクトロの祭典として年々規模を拡大し、《コーチェラ》や《パノラマ》を運営するGoldenvoiceに買収されてからは、ストロークスやモリッシー、ケンドリック・ラマーのような大物も出演するビッグ・フェスへと成長を続けている。
2017年は史上初の3日間開催となり、過去最大の動員数を記録。ヘッドライナーはご覧の通り、初日をミッシー・エリオットとビョークがダブルで努め、2日目はフランク・オーシャン、最終日はナイン・インチ・ネイルズという顔ぶれだ。筆者が参加を決意したきっかけは、かつての《コーチェラ》のようにEDMアクトに頼らない通好みのラインナップであることと、ミッシー・エリオットとNINの復活後一発目のステージであること、そしてフランク・オーシャンが2年前に同フェスの出演をキャンセルしているため(その時の代打はカニエ・ウェスト)、さすがに今回は大丈夫だろうと謎の確信を持っていたからに他ならない。とはいえ、《サスカッチ!》と《プリマヴェーラ・サウンド》を相次いでキャンセルしたと聞いた時は覚悟を決めたものだが……。
FYFの会場となった《LA Sports Arena & Exposition Park》は、1932年と1984年の夏季オリンピックで使用されたロサンゼルス・メモリアル・コロシアムをドーンと真ん中に据えた巨大な公園。といってもコロシアムの内部はフェスでは使われず、周囲をぐるっと取り囲むように大小6つのステージや物販エリア、フードコートが散らばっており、日本でいえば駒沢オリンピック公園がもっともイメージに近いだろうか。クルマが無いとお話にならない《コーチェラ》に比べてアクセスが非常に良く、客層的にもセレブやパリピは少なくナードなインディー・キッズが大半で(会場ではシェラックのボブ・ウェストンや、ワイズ・ブラッドことナタリー・メーリングなど出演者以外のアーティストも見かけた)、場内に立ち込めるマ●ファナの臭いにさえ耐えられれば純粋にライヴを楽しめる。それでは、あくまで筆者が目撃したアーティスト中心にはなるが、《FYF》3日間のレポートをお送りしよう。(取材・文・撮影:上野功平)
FRIDAY JULY 21
ケリー・リー・オウエンスからミッシー・エリオットまで、
フィメール・パワーを肌で感じた初日。でも、優勝はオー・シーズ!
17:00からスタートで前夜祭的なユルさもあった金曜日は、《FYF》オフィシャルの物販やアーティスト・グッズを一通りチェックしてから、ビーチ・フォッシルズをチラ見。ダイヴのザカリー・コール・スミスも在籍したブルックリンのバンドだけあって、白昼夢のようにとろけるギター・サウンドが心地よい。続いて、《RED MARQUEE》にクリソツな屋内ステージ《THE CLUB》に移動して豪シドニーのパンク・バンド=ロイヤル・ヘッドエイクを堪能したが、早くも上半身裸になっているフロントマン、ショーグンの歌声が音源以上にエモくてグッときた。その後は今回最大の悩みのタネにして最悪の被りタイムだったケリー・リー・オウエンス、ハンドレッド・ウォーターズ、エンジェル・オルセンの3組を20分ずつ見てハシゴするという強行軍に。わずかな時間ながらどれも素晴らしいパフォーマンスだったし、特にケリー嬢のサンプラーやパッドを駆使した才気あふれるビート・メイキング&可憐なヴォーカルは忘れがたく、ぜひ代官山《UNIT》あたりのイベントで来日してほしいなーと思ったり……。
Kelly Lee Owens
メインステージに移動し、《フジロック》のサンダーキャット(この人もFYFに出てましたが)との被り対策も兼ねて久々のビョークを鑑賞。アルカがぶっ放すバッキバキなビートとストリングスの音色に埋もれない歌声に「相変わらずスゲーな」と感心するも、ナショナル・ジオグラフィック風のネイチャー映像と、1曲ごとに挟まれる「センキュー!」の挨拶でほっこり。ビョークのアンコールを遠巻きに見届けつつ、昨年9月の初来日公演も最高だったアンダーソン・パーク&ザ・フリーナショナルズ(大人気!)と、Netflixドラマ『ストレンジャー・シングス』のサントラでお馴染みのシンセ集団=サヴァイヴをつまみ食いし、食事休憩。フードコートの《Sunny Blue》というお店をトライしたのだが、ホカホカごはんを韓国海苔で包んだおにぎりは「フェスめしっていうレベルじゃねぇぞ!」と叫んでしまうほど美味だった。1個あたり4.5ドルと割高ではあるものの、もしアメリカのフェスでお目にかかった方はぜひお試しあれ。
そして、2017年唯一のライヴ出演にして、アメリカでのパフォーマンスはなんと10年ぶり(!)となったミッシー・エリオットへ。数万人規模のメインステージながら立錐の余地もないほどギチギチだったので、筆者は通路側で両サイドのスクリーンを頼りに見ていたのだが、ダンサー8名、DJ、MCを従え、「She’s a Bitch」で幕開けしたステージングはリミックス&インタールードを挟んだ4部構成で、まさにザッツ・エンターテインメント。声もダンスも決して全盛期には及ばないものの、ミッシー本人は何度も衣装をチェンジして観客席に駆け寄るなど終始ゴキゲンだったし、スクリーンに映し出された懐かしのMVやヒット・チューンの嵐に会場中がバウンスする光景は壮観だ。また、ラストがアリーヤの「Rock The Boat」だったことも感動的だが、スクリーンに映し出されたツーパックに向けて「アイ・ミス・ユー」とつぶやく一幕も。MCでも言及されていたようにステージ袖/VIPエリアにはビヨンセ、ジャネット・ジャクソン、ケイティ・ペリーといったディーヴァたちが大集結だったそうだし(カメラに抜かれたのはフォトピットにいたタイラー・ザ・クリエイターのみ)、ファレルが彼女を表舞台に連れ戻すために新曲「WTF (Where They From)」をプレゼントしたことも象徴するように、“完全復活”の日はそう遠くないのかもしれない。
Missy Elliott
ミッシーの終演後は、メインに次いで大規模のステージ《THE LAWN》にてフライング・ロータスの3Dセット(リストバンド引換時に全員に3Dメガネが配布された)で締め。……と思ったが、これまた激混みで3Dヴィジュアルをまったり堪能できるような環境ではなかったので、早々と《THE CLUB》のジ・オー・シーズ改めオー・シーズへ移動。するとテントの中から「The Dream」のイントロが漏れ聞こえてきたのでたまらず猛ダッシュ! あとはもう、阿鼻叫喚のモッシュ地獄を見届けながらひたすら踊り倒すだけだ。過去の来日公演を体験済みの読者には説明不要でしょうが、もうライヴ・バンドとしての力量、音圧、迫力が桁違い過ぎる。「ジョン・ドワイヤーは変態!」「やっぱツイン・ドラムだよなー」とホクホクで(UBERで)帰路に着くのであった。
Oh Sees
余談だが、FYFはオフィシャル・アプリが非常に良く出来ており、リストバンドに刻まれたIDをアクティベーションすれば、「お目当てのアーティストがあと15分で始まるよ!」とか、「そろそろお腹空いたんじゃない? オススメのフードは……」といったように、様々な情報がリアルタイムでiPhoneの通知センターに飛び込んでくる。ツイッターやフェイスブックでのフォト・レポや、インスタグラムのストーリーを上手に使ったイメージ戦略もお見事で、「いまこのフェスの一部になっていること」を全力で肯定してくれるのだ。《コーチェラ》を筆頭にフェスの「ブランド力」が重要なファクターとなっている2010年代だからこそ、ぜひ日本のフェスにも見習ってほしいポイントである。
SATURDAY JULY 22
人生観を変えるような体験だったフランク・オーシャン
やや遅れて会場に到着すると、フードコートに謎の大行列。その先頭の様子を伺ってみると、土曜日のトリを努めるフランク・オーシャン専用の物販ブース《blonded》が出現していた。これは、フランクの肖像、ロゴ、公演日といった複数のアイコンを組み合わせ(指定したアイコンが多ければ多いほど価格は高くなる)、その場でシルクスクリーン印刷してもらうという一風変わったマーチャンなのだが、プレーンな白Tシャツを現場で購入するも良し、自前のTシャツを持ち込むも良し、あるいはTシャツ以外のアイテムでもOKだったようで、Gジャンの背中にフランクの肖像&ロゴを刷り込んでもらった青年は、行列に並んでいたファンたちから拍手喝采を浴びていた。ひとり1回までの購入制限付きだったものの、フェス翌日にはeBayにて数千ドルで転売されていたそうなので、ルイヴィトン×シュプリームも真っ青の人気である。
「このTシャツを苗場に着て行ったらヒーローだな」とちょっぴり心が揺らいだが、炎天下の中2~3時間待ちは正直しんどいし、“モノより思い出!”ということでジョナサン・リッチマンのライヴへ。ステージ袖に奥さんと2人の娘(超絶美少女)が見守る中、ドラマーとのデュオ編成で繰り広げられたパフォーマンスはアットホームながら抱腹絶倒で、シェイカーと腰を振りながらおどけるジョナサン爺のキュートさと言ったら! 実は彼のライヴは初めて見たのだが、アダム・グリーンからデヴェンドラ・バンハート、そしてカエターノ・ヴェローゾへと至る男性シンガー・ソングライター×ラテン・ミュージックの系譜のド真ん中に、ジョナサン・リッチマンがいるのだなあと勝手に納得。そんなことを考えていたら、後ほど同じ《THE CLUB》に出演したキャップン・ジャズ(祝・再々結成!)のステージ上で彼らのライヴを激写しまくった挙句、「Little League」でコーラスにまで参加するデヴェ様の姿が! どうやら、ティム・キンセラとは公私共に仲良しのようですね。
Jonathan Richman
この日は前日以上に被りがエグかったので、「来日したことがない/今後も日本に来る気配すらない」アクトを優先したため、ノー・ネーム、キング・クルー、パフューム・ジーニアスらは諦め。ところが、木々に囲まれた雰囲気抜群のステージ《THE TREES》で見たミツキの堂々たるパフォーマンスには、「11月のジャパン・ツアーも行っちゃおうかな?」と思えるぐらいシビれたし、ベースからギターに持ち替えてシャウトしまくった“My Body’s Made of Crushed Little Stars”は文句なしのハイライト。また、アルバムが2作連続で大絶賛されている《サドル・クリーク》の至宝、ビッグ・シーフの儚くもピンと芯の通ったヴォーカル/アンサンブルがたまらなく素晴らしかった。ベーシストのケヴィン・ガルシアが死去したことにより、出演キャンセルになったグランダディのピンチヒッターとして登場したビルト・トゥ・スピルは、なんと名盤『キープ・イット・ライク・ア・シークレット』(99年)の全曲再現セットを披露。ダグ・マーシュの変わらぬ歌心に惚れ惚れしてしまった。
Built To Spill
「今夜がLAでやる最後のライヴだ」というQティップの言葉を裏付けるように、ア・トライブ・コールド・クエストは故ファイフ・ドーグに捧げる圧巻のマイクリレーと、ラファエル・サディークをも巻き込んだオールタイム・ベストなセットリストでオーディエンスを魅了。その後は《THE LAWN》のエリカ・バドゥの御尊顔をチラッと拝み(さすがに10月の来日公演は高すぎて行けまへん)、裏のストーナー・ゴッド=スリープに後ろ髪を惹かれつつも、フランク・オーシャン待機のため早めにメインステージへと踵を返す。運良くPAの少し後ろを陣取ることができたが、これが大正解。ストリーミング中継はおろか後日ファンが編集したYouTubeのライヴ映像すら削除されてしまう彼のプレミアすぎるステージだけに、スクリーンを通してではなく肉眼で見ることに意味があると思ったからだ。途中離脱が多く飽きっぽいアメリカのオーディエンスだが、少なくとも筆者の周りでは誰ひとりとして終演後までその場を離れなかったのも印象的だった。
A Tribe Called Quest
そしてフランク・オーシャンのライヴは、はっきり言って「こんなの見たことがない」と言える衝撃的なものだった。『ブロンド』(2016年)のサウンド・プロダクションからも想像できるようにドラムセットは無く、生楽器はキーボードと2本のギター、ベースのみ。ステージ前に設置された落書きだらけの花道を、ヘッドフォンを着けながらフラフラと夢遊病患者のように歩きつつ歌うフランク。それを、一挙手一投足を見逃すまいと固唾を呑んで見守る約5万人のオーディエンス。スクリーンに映し出される映像もスパイク・ジョーンズが監修していたのかは定かではないが、VHS風に粗いばかりか意地悪なカメラワークでなかなかステージの全貌を見せてくれないし、クルーのひとりはラップトップで『ハローキティ』や『ダンボ』(あのピンクの象のやつ)のアニメを流していたりと自由奔放。かと思えば、フランクの横でアレックス・Gがこの世のものとは思えないほど美しいギターの音色を奏でる。まるでベッドルームを覗き見するかのように親密でありながら、あまりの完璧主義ゆえに「このまま匙を投げてしまうんじゃないか?」というスリルが常に付きまとうのもキャンセル常習犯の彼ならではだ(事実、「Runnin Around」と「Good Guy」はどちらも演奏をやり直していた)。
Frank Ocean
サラウンド効果も凄まじい。メインステージの周囲を360度取り囲んだスピーカー&照明は、IMAX映画のように臨場感たっぷりのサウンドを正確に届けてくれていたし、フランクの生々しいヴォーカルが驚くほどクリアに聞こえてくるのだ。また、カーペンターズの“Close To You”のカヴァー中、スクリーンにブラッド・ピットの切なげな表情が大写しになった時は死ぬほどビビったけれど(ソフトバンクのCMかと思った)、そんな特大サプライズも、フランク・オーシャンのライヴにおいてはワン・シーンに過ぎない。前半は呆気に取られていたオーディエンスも、終盤で披露された「Thinkin Bout You」と「Nikes」の2曲では全身全霊のシンガロングだ。しかも、ラストの「Nikes」ではスクリーンに歌詞が表示されるカラオケ仕様だったのだが、歌詞の進行に従ってハローキティのアイコンが跳び跳ねるというユーモア・センスには笑った。特筆すべきは「Nikes」がKOHH参加バージョンだったことで、笑顔でステージを去っていったフランクの後ろ姿と、KOHHによる日本語のラップが重なった大団円は、「わざわざ日本から来て良かった!」と自分で自分を褒めたくなった瞬間である。ブラピ降臨も嬉しかったけれど、後日《Way Out West》などでお披露目されたストリングス・セクションとの共演も見たかった!
フランク・オーシャンの終演後はしばらく放心状態だったため、《THE TREES》のクロージングを務めたニコラス・ジャーのパフォーマンスはほとんど頭に入ってこなかったけれど(普段見ていたらベスト・アクト級の内容でしたよ!)、余韻を噛み締めながらホテルへと帰り2日目は終了。
SUNDAY JULY 23
計算され尽くしたソランジュとNINのステージ。
そして、底知れぬ歌声を持つモーゼス・サムニーに感服!
いよいよ最終日。旅の疲れ&ジェットラグで出遅れてしまい、入場時のボディチェック(空港と同じくらい厳重)にも時間がかかったため、チェリー・グレイザーをラスト1曲しか見られないという大失態。気を取り直して、1月の初来日公演が色んな意味で話題になったホイットニーを見に行ったのだが、これが(東京公演ではやらなかった)新曲含めてめちゃくちゃ良かった。その数時間後にガールフレンドやバンド・メンバーと一緒に会場を歩くジュリアンを見かけたので、「やあジュリアン、原宿のショーは最高だったよ!」とイヤミでも言ったろうかと思ったけど、《サマーソニック》でリベンジしてくれるだろうと期待を込めてスルーしました。
Whitney
これまた日本には来ないタイ・セガールのゴリゴリなガレージ・ロックや、雲ひとつ無い晴天にはあまり似合わないテンプルズの曼荼羅サイケ・サウンドを流し見しつつ、この日の裏テーマは「今もっとも勢いのある男性SSWたち」を堪能すること。《アンタイ》から送り出した最新作『The Party』(2016年)が絶賛されたカナダの吟遊詩人、アンディ・シャウフのクラリネットを交えたリッチでまろやかなバンド・アンサンブルも最高だったし、3日間で《THE TREES》の最大動員数を記録したマック・デマルコのフザけっぱなしのステージにも笑わせてもらったが、何と言っても衝撃だったのはTURNのレビューでも紹介されているモーゼス・サムニー。序盤こそ「ゴスペルを通過したジェイムス・ブレイク」といった雰囲気のライヴだったが、ギター、ベース兼キーボード、ドラムスというフル・バンドを従えたダークなアンビエンスと、電子音を融合したビートの切れ味がハンパじゃなく、天国まで届きそうなモーゼスのファルセットが身悶えするほど素晴らしい。剥き出しの歌とギターが心に突き刺さってくる代表曲「Plastic」には泣きました。
Moses Sumney
モーゼスに拍手を送った後は、被りの《THE LAWN》にダッシュして淫力魔人ことイギー・ポップへ。「I Wanna Be Your Dog」も「Lust for Life」も前半で演ってしまったと聞いてガックリしたものの、御年70歳にして今なお半裸で暴れ回っている元気な姿を見てひと安心。「Search and Destroy」ではフォトピットに降りてオーディエンスにマイクを向けていたし、生涯現役で長生きしてほしいものです。その後はギリギリまでブロンド・レッドヘッド(しかも2000年作の名盤『メロディー・オブ・サーテン・ダメージド・レモンズ』再現セット)と悩んだものの、「今見ておかないとアカンやろ!」ということでメインステージのソランジュに移動する。日の丸にも似たバックフラッグが浮かぶステージに、真っ赤な衣装で統一されたバンド・メンバーやコーラスを従えて登場したソランジュは、USインディー・シーンとも共振を見せる彼女らしく隅々まで計算されたインテリジェンスなパフォーマンス。昨年のベスト・アルバムを総なめにした『ア・シート・アット・ザ・テーブル』(2016年)からの楽曲を中心に、デヴ・ハインズとコラボしたEP「トゥルー」(2013年)からの「Losing You」などバランスの良い選曲だったし、太極拳(?)からトワークまで取り込んだ独創的なダンスとコーラスワーク、さらに20名を超えるブラス隊を呼び込んだ圧巻のスペクタクル・ショーは、前日のフランク・オーシャンに続いて「神ライヴ」認定である。
Solange
そのまま《THE LAWN》に戻って遠巻きにラン・ザ・ジュエルズのコール&レスポンスに参加し(LAなので期待したけど、「Close Your Eyes (And Count to Fuck)」でのザック・デ・ラ・ロッチャの飛び入りはナシ)、個人的にも最大の目玉アクトだったナイン・インチ・ネイルズを待つことに。実は、4日前に急遽ラボバンク・アリーナでウォーミングアップ・ショーを行った彼らだが、およそ3年ぶりとなるライヴ復帰、それも映画仕事の相棒でもあるアッティカス・ロスを正式メンバーに迎えた後のパフォーマンスということで、一体どんな演出を考えているのだろうかとワクワクしたが、いざフタを開けてみれば至極シンプル。しかし、照明の配置からストロボ、スモーク、カメラワークまで緻密に計算されたステージングは芸術的とさえ言えるもので、「Wish」や「March of the Pigs」といった攻撃的なナンバーで畳み掛けるド迫力&クリアなサウンドはやはり唯一無二だ(トレント・レズナーの『西部警察』っぽいサングラス姿もナイス!)。
Nine Inch Nails
2枚の最新EP「Not the Actual Events」(2016年)と「Add Violence」(2017年)からそれぞれ2曲ずつピックアップされたセットリストは鉄壁で、中盤でプレイされた「Copy of A」では背景の白幕にメンバーの影が大写しになる『ストップ・メイキング・センス』風の演出も健在、スクリーンがバグを引き起こしたようにグチャグチャになる「The Great Destroyer」にもゾクゾクさせられた。しかし何よりも忘れがたい瞬間が、MCで「久しぶりにみんなの前に戻ってこられて嬉しいよ。でも、この3年の間で大切な友人も失った。デヴィッド・ボウイだ」と語った後に歌われた「I Can’t Give Everything Away」のカヴァーである。メランコリックで装飾のない電子音に、トレントの肉声にボウイの歌声がリアルタイムで重ねられ、オーディエンスを深淵なサウンドスケープへと誘っていく光景は涙が出るほど美しかった。アンコールで披露された名曲「Hurt」がいつも以上に胸に沁みたのも、このカヴァーを聞いた後だからだろうか。
振り返れば、ミッシー・エリオットはアリーヤと2パックに、ATCQはファイフ・ドーグに、そしてトレント・レズナーはデヴィッド・ボウイにそれぞれ追悼を捧げていた今年のFYF。ひとつの時代の終焉を見届けた気がしてしんみりしてしまったが、「それでも人生は続く」と決意を新たにした3日間でもあった。
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例年の8月から1ヶ月前倒しての開催となった2017年の《FYF》だが、それは西海岸(《FYF》)から東海岸(《パノラマ》)へとスムーズにバトンを渡すため。実際、ヘッドライナーを含め《パノラマ》と被るアクトは数多く、来年以降もFYFに出たアーティストは、《フジロック》 or 《パノラマ》のどちらかに流れる――というルーティンになることは予想される。《FYF》と《フジロック》を両方フルで参加するのは物理的にも経済的にも難しいとは思うが、LAという土地柄まず雨は99%降らないし、日本の夏とは違って湿気も少なく快適(むしろ夜はちょっと冷える)なので、TURN読者もぜひ来年の参加を検討してみてはいかがだろうか?
Text By Kohei Ueno