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知られざるC-POPの世界──アジアでもっとも勢いのある中国音楽市場の“いま”

17 February 2026 | By Z△IK△

日本のエンタメ市場では、中国発コンテンツの存在感が急速に高まっている。 たとえば『原神』(2020年)や『鳴潮』(2024年)などの中国発ソーシャルゲームは、競争の激しい日本の市場においても高い人気を保っている。また実写ドラマ『陳情令』(2019年)は人気声優による吹き替え版の放送を通じて、それまで中国ドラマを見たことがない層にも広く受け入れられた。

このように、中国のコンテンツは日本でも身近な存在となりつつあるが、音楽分野についてはまだ馴染みの薄いひとも多いのではないだろうか。 実は近年、中国音楽は著しい発展を遂げている。実際、中国の音楽産業総規模は、2019年は483億元(約0.8兆円)だったのに対し、2024年には4,929億元(約10兆円)に達したと報告されている(為替により変動)。 しかしこれだけ大きな市場規模でありながら、中国音楽は日本ではあまり注目されていない。そこで本稿では、中国語圏ポップス=C-POPの魅力や独自の音楽市場について探っていく。
(文/Z△IK△)

▼目次
C-POPとは
C-POPの人気ジャンル
 1. 中国風
 2. 韓国アイドル系
 3. 抒情系
急成長する市場
国外との壁
個性あふれるアーティストたち
 1. 刘雨昕(リウ・ユーシン)
 2. 未來少女 薄荷水晶 babyMINT
 3. 蔡依林(ジョリン・ツァイ)
 4. 黄龄(ホアン・リン)
 5. 福禄寿FloruitShow
おわりに



C-POPとは

まずは、中国音楽(以下、C-POP)がどのようなものか見ていこう。

C-POPは中国本土、香港、台湾を中心とする中国語圏の音楽の総称だ。使用される言語によっていくつかの種類に分かれており、北京語(標準中国語)を用いるものはマンドポップ(Mandopop)、広東語を用いるものはカントポップ(Cantopop)と呼ばれている。台湾華語によるポップスは「T-POP」と呼ばれることもあるが、この呼称は媒体や文脈によって使い方が分かれている。

C-POPの歴史を紐解くと、100年近くにわたる独自の文化の積み重ねがあることが見えてくる。

その起源は1920年代の上海で生まれた「時代曲」にさかのぼる。これは民謡のような五音音階のメロディに、西洋のジャズや社交ダンスのリズムを取り入れたスタイルで、当時の上海の人々の国際的な感性を反映していた。1940年代にはその人気がピークを迎え、「七大歌星」と呼ばれる女性歌手たちが登場し、一大ブームとなった。

その後、1980年代初頭から2000年代にかけては、R&Bやポップスといった欧米的なカルチャーが徐々に取り入れられ、伝統的な中国の旋律や歌唱スタイルと融合していった。これこそがのちに「中国風」として知られる、伝統と現代が入り混じったC-POP独自のスタイルの土台となったのである。

C-POPの人気ジャンル

数あるC-POPのジャンルの中で、特に人気がある3つのジャンルについて紹介しよう。

1. 中国風

中国風はC-POPでもっとも人気のあるジャンルのひとつだ。中国の伝統音楽の要素を楽器やメロディのなかに取り入れたポップ・ミュージックを指す。

このスタイルを確立したのが台湾出身の周杰倫(ジェイ・チョウ)だ。彼は2000年代初頭、伝統的な中国音楽と、ヒップホップやR&Bなどの現代的なサウンドを融合したスタイルで人気になった。

周杰倫は2024年にKアリーナ横浜でライブを開催するなど、中華圏にとどまらない活躍を見せている。


以降、このようなスタイルは主要ジャンルのひとつとして定着し、現在でも多くのアーティストに影響を与えつづけている。

中国風の音楽は若者にも人気が高く、中国特有のトレンドとなっている。


2. 韓国アイドル系

近年のアジアのアイドル文化は、韓国アイドルのスタイルをベースに、各国が自国の文化や美学を取り入れる形で発展している。中国もそのひとつだ。

いまや中国は「アイドルフィーバー」ともいわれるほど、次々と新しいスターを生み出している。中国のファン活動は非常に熱心なことで有名で、推しへの投票活動やグッズ購入、SNSでの拡散などに多くのエネルギーが注がれている。こうした強力なファンダムが存在することで、アイドルは自国内だけでも莫大な収益を生み出すことが可能となっているのだ。

こうした中国のアイドル文化を語るうえで欠かせないのが、サバイバルオーディション番組の存在だ。近年の中国では視聴者参加型の大型オーディション番組が次々と制作され、ファンの熱狂とともに新たなスターが生まれる土壌が築かれてきた。アイドル人気の高まりは、まさにこれらの番組文化と密接に結びついている。

これは多数の候補生が歌やダンスを披露し、視聴者投票で順位が決まるしくみだ。投票にはスポンサー企業の商品購入が必要なため、番組は莫大な経済効果を生み出してきた。一方で投票がスポンサー商品の購入と結びつくしくみは社会問題化もしている。実際、iQIYIの番組『青春有你3』は投票用コード目当ての商品購入と廃棄が批判をあび、当局が停止を命じた。それでもなお『創造営2025』など一部の番組は形をかえながら現在もつづいており、中国のアイドル文化を牽引しつづけている。

従来の女性アイドル像に囚われないスタイルを目指した『青春有你2 』(2020年)は、パンツスタイルの制服が選べることで大きな話題を呼んだ。


3. 抒情系

C-POPは特に歌詞の美しさや詩的表現を重視しており、R&Bやバラードといったメロウなサウンドに繊細なリリックを乗せるスタイルが人気だ。この流れは1980〜90年代の香港カントポップシーンからきており、当時は映画音楽として抒情的なバラードが人気になった。

このような楽曲は時代を越えて愛されており、10年、20年前の曲が現在でもストリーミングで上位にランクインすることも珍しくない。実際、2024年の《QQ音乐》でもっとも再生された楽曲トップ10のうち7曲は10年以上前にリリースされた作品だった。

群馬県高崎市で撮影されたMV。


急成長する市場

冒頭でも触れたように、中国の音楽市場規模は2019年からわずか5年で10倍にもなった。なぜここまでC-POPが急速に発展したのだろうか。

最大の理由は、ストリーミングサービスが拡大したことだと考えられる。かつて中国では違法ダウンロードの横行が問題視されていた。しかし2010年代後半から《QQ音乐》などの合法ストリーミングサービスが普及し、アーティストに正当な収益が還元されるしくみが整備されていった。その結果音楽ビジネスの基盤が整い、アーティストがより精力的に創作活動を行えるようになったのだ。

また多様な音楽ジャンルが浸透していったこともシーンの発展を後押しした。2000年代初頭まではバラード中心だったが、現在では電子音楽、アイドル系、ヒップホップ、R&B、中国風などさまざまなジャンルが発展していった。さらにSNSや配信プラットフォームの普及により個人でも自由に音楽を発表できるようになった。2021年には114万曲の新曲が生み出されリスナーに届く音楽の選択肢は爆発的に増加した。

加えて、音楽以外のメディアと連動することで、ヒットが生まれやすい環境が整っている。中国では歌、ラップ、アイドル、ダンスなどの幅広いジャンルの番組が制作されており、これらはインターネット配信を通じて世界中で視聴できる。SNSでの話題性も非常に高く、番組をきっかけに新しい音楽やアーティストに出会う機会も増えている。

一部の番組はYouTubeでも公開されており、自動字幕つきで見ることができる。


このような状況から、いままで以上にバイラル・ヒットが人気獲得の重要なカギになっていると考えられる。ショート動画やSNS上で楽曲の一部が拡散され、そこから一気にチャート上位へ駆け上がる。そうした現象はいまや中国の音楽シーンにおいて珍しいものではない。

国外との壁

では、これほどC-POPが発展しているにもかかわらず、なぜ日本ではあまり知られていないのだろうか。

その理由のひとつとして挙げられるのが、中国独自のインターネット事情である。中国では海外の主要SNSや音楽配信サービスが制限されており、GoogleやX、LINEなどの海外製アプリは利用できない。またSpotifyも使えず、Apple Musicも中国版専用のサービスとなっている。その結果、中国の音楽市場は世界の流通システムからほぼ独立したかたちで運営されているのだ。

さらに冒頭でも述べたとおり、中国の音楽市場は日本の約10倍という巨大な規模を誇る。たとえば中国でもっとも人気のあるストリーミングサービス《QQ音乐》の月間アクティブユーザーは5.5億人を超え、その規模の大きさは圧倒的だ。つまりアーティストは海外に進出しなくても、自国内で十分な利益を確保できるのだ。

とはいえ最近ではアイドルや歌手による来日イベントの開催など、C-POPのグローバル化も少しずつ進んでいる。今後、日本国内での認知度が高まる可能性もあるかもしれない。

個性あふれるアーティストたち

最後に、C-POPシーンの最前線で活躍するアーティストたちを紹介する。

1. 刘雨昕(リウ・ユーシン)

中性的なビジュアルと圧倒的なパフォーマンス力で注目を集めている。歌唱はもちろんダンスやラップ、さらにはクリエイティブ面においても多彩な才能を発揮し、次世代C-POPを象徴する存在だ。

2021年にリリースしたアルバム『EPSILON』は約600万枚という大ヒットを記録し、C-POP史上もっとも売れたアルバムのひとつとして大きな話題を呼んだ。

『EPSILON』収録曲。残念ながら、アルバム自体はSpotifyなどの海外プラットフォームでは配信されておらず、中国音楽の流通が国内中心である現状も垣間見える。


さらに2024年にはアジアを代表する音楽レーベルとして知られる《88rising》に参加し、グローバル活動を本格化させた。

英語詞の楽曲も難なく歌い上げる高いスキルも備えている。中国出身の世界的なスターとして名を馳せる日も近いかもしれない。


2. 未來少女 薄荷水晶 babyMINT

台湾のアイドルオーディション番組『未來少女』から誕生したグループ。デジタル感あふれる電波系ポップを武器に、SNSを中心にバイラルな人気を広げている。かわいらしさと奇抜さが同居する独特の世界観は強い中毒性をもち、一度聴くと耳から離れない魅力がある。

「Hello Kitty 芭樂(バーラ)咖哩(ガーリー) Hello Kitty 美味しい」という謎のフレーズが話題に。


曲のかっこよさと歌詞のギャップがおもしろいのでぜひ字幕つきで見てほしい。


3. 蔡依林(ジョリン・ツァイ)

台湾出身の蔡依林は「C-POPの女王」と称される、中華圏のポップカルチャーにおいてもっとも影響のある一人だ。1999年のデビューから現在にいたるまでシーンの最前線を走りつづけている。

代表曲のひとつ「大藝術家」は、C-POPがまだ浸透していないYouTubeでもMVが3000万回以上再生されるなど、S多くのリスナーを惹きつけている。

フェミニズムの台頭をテーマに、ルネサンス期にはじまったサロン運動の歴史をモチーフとした楽曲。MVにはスチームパンク感のあるVFXが多用されており、当時としてはかなり先進的な映像表現だったのではないだろうか。


その魅力は単なる歌唱力やパフォーマンスにとどまらない。社会問題をテーマにした楽曲も積極的に発表し、幅広い世代から支持されている。

ジェンダーを理由にいじめを受け亡くなった少年の事件をもとに制作された楽曲で、社会にLGBTQの問題を問いかけるきっかけとなった。2019年に台湾で年間最優秀曲賞を受賞している。


4. 黄龄(ホアン・リン)

2004年にデビューした中国ポップシーンを代表する実力派歌手。

一度聴いたら忘れられない軽やかなウィスパーボイスと、中国の伝統音楽の要素を取り入れたサウンドで独自の世界観を築いている。また、映画や舞台への出演など音楽以外の分野でも幅広く才能を発揮し、多方面で存在感を示している。

歌詞に古典詩の一節を取り入れ、伝統的な中国文学の情緒と現代的なサウンドを融合させた、中国風スタイルを代表する一曲。


オートチューンとウィスパーボイスの融合で、唯一無二の浮遊感を生み出している。


5. 福禄寿FloruitShow

C-POPの魅力はメインストリームだけではない。インディーシーンで特に注目をあつめているのが「福禄寿FloruitShow」だ。三つ子で結成され、それぞれ音楽大学で異なる専攻を学んだ経歴をもつ(※2021年に1名脱退)。2018年に「我用什么把你留住」をネット上で発表し、瞬く間に人気を獲得した。

2021年には同名アルバムをリリースし、独自の音楽性を確立した。

アルバム収録曲。ドロップの完成度には定評がある。リンクはその部分から再生できるので、ぜひ聴いてみてほしい。


おわりに

中国ならではの環境から生まれた多彩なアーティストの音楽は、私たちに新鮮な驚きをもたらしてくれる。いまもっとも新しく勢いのあるC-POPの世界をぜひ聴いてみてほしい。きっと思いがけない良い音楽に出会えるだろう。

Text By Z△IK△


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