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ボン・イヴェールの四季はライブで変化する
ロサンゼルス公演レポート

01 November 2019 | By Koki Kato

Bon Iver at The Forum, Inglewood, Los Angels, 2019年9月15日

どこまでも突き抜けるような晴天、夏は終わりかけていて秋の気配がある9月のロサンゼルスを訪れていた。滞在期間中の9月15日にボン・イヴェールのライヴがあることを知っていたから、チケットを予約し会場の《ザ・フォーラム》を目指す。ダウンタウンからバスでおよそ1時間、規定のルートを走らないことに不安を感じながらイングルウッドの住宅街で下車し、歩いて会場の《ザ・フォーラム》へと向かった。

まるでコロッセオのような外観、壁には大きくBon Iverと投射されている。オーディエンスの多くがおそらくボン・イヴェールことジャスティン・ヴァーノン目当てだろうこともあり、まだ客席にちらほらと空席が見えていたが、オープニング・アクトのシャロン・ヴァン・エッテンの演奏は始まった。ボン・イヴェールへの扉を開くように、彼女の演奏によってその扉の中から漏れ出る光が見えはじめた。ライヴ終盤、「Seventeen」のシャウトも飛び出すロックナンバーから一転、「Love More」のミニマルな演奏と歌を中心に置いた演奏で終えたことが一層そう思わせた。曲調が大きく異なる2曲をあえて隣合わせにしたことで際立つ「Love More」の語り掛けは、彼女からジャスティン・ヴァーノンへの、シンガー・ソングライターとしての共鳴を示していたのではないだろうか。奇しくも、この日は彼女がボン・イヴェールのツアーに帯同する最後の公演、燃え上がった炎はその灯りを段々と弱くし、ボン・イヴェールへ続く道をほのかに照らす道しるべのようでもあった。

客席がほぼ満席になり、オーディエンスの期待感が高まっていることを強く感じながら、幕を開けたボン・イヴェールのライヴは、リリースしたばかりの『i,i』の収録曲順をなぞるように冒頭4曲が演奏された。冬春夏秋の順にそれぞれの季節を思い描きアルバムをリリースしてきたジャスティン・ヴァーノン、今回のライブは新作=秋の楽曲を中心にしながらも、すべてのアルバムからいくつか楽曲を演奏、映画映画『WISH I WAS HERE/僕らのいる場所』に描き下ろした「Heavenly Father」、そしてEP『Blood Bank』から表題曲も演奏された。すべての季節が出揃い、彼が生み出したあらゆる作品をラインナップしたことを象徴するかのように、彼らを取り囲む、かつ頭上には4辺からなる四角形が幾つも並び、インスタレーションのように表現され光を放っていた。頭上の四角形はまるで、4つの季節という円環を完成させてしまったボン・イヴェールを体現するものだとも感じたし、ときには2辺のみが光りを放ち、移動するなど、それらの完成された図形を様々に解体し、組み換え、元に戻すという表現を行いながら、ジャスティン・ヴァーノンは自身が作り出した四季という図形をつかさどっているようだった。

中でもとりわけ、図形の変化と呼応するように演奏の移り変わりを象徴した曲が「U(MAN Like)」「Perth」「Naeem」だった。ライブ前半、《ザ・フォーラム》の会場をいっぱいに包み込む「U(MAN Like)」のピアノのフレーズが、幾重に重なる声のハーモニーが、決して派手ではないアレンジなのだが、私たちの心をこれまでかと満たしてくれた。アメリカの貧困問題への示唆を含むとも言われるこの楽曲がライブ前半に見せてくれたのは希望だったのだろうか。続くライブ中盤以降に演奏された「Perth」は、少し大きめのボリュームに設定されたギター、イントロから楽曲を通して演奏されるギターのフレーズが強く印象に残った。あまりにも印象的で、それ以降も頭の中で鳴りやまないほどに。おそらくエレキギターで演奏された楽曲の中でもとりわけ激しさを強調していただろう。そしてアンコール前、最後に演奏されたのが「Naeem」だった。繰り返され強く歌われる“I can hear, I can hear crying”のフレーズ、重なる軽快なスネアがまるで力強い足音にも聴こえた。どこか目的の場所を目指す力強い行進のような、けれどそこには憂いを含む、そんな演奏だった。移り変わる演奏の所々に、ジャスティン・ヴァーノンの感情の変化を感じ取った気がした。

今回、筆者はボン・イヴェールのライヴを初めてみたのだが、たしかにあのヴォーカル処理、コーラスワークが特徴的な演奏に彼らのアイデンティティをしっかりと感じるライヴではあったが、それ以上にアルバムで聴く彼らの楽曲とは当然だが、印象を変える部分もあった。というか、彼らが意図的に変えていたのだと思う。地球環境の変化が取り沙汰される昨今、四季の在り方も変化をしている。私たちの思い描く四季は、四季でなくなってきている。現実ではネガティブな四季の変化が起こる中、ボン・イヴェールの四季は我々のそういった絶望に寄り添うように変化をしていたように感じたのは考えすぎだろうか。

ライブ終了後、同行していた友人が「観客は白人が多い気がしたね」と言った言葉に、たしかに頷くところがあった。来る2020年1月には2度目となる来日公演も行われる。現在の日本ではどういう人たちが支持しているのか、広く多くの人とこの素晴らしい音楽を共有することができるだろうか、ロサンゼルス公演とはまた違う感じ方に変化するかもしれない…などと想像したら社会学的目線での興味も尽きないが、帰国した今はまだなによりも素直に再体験への期待に胸が膨んでいるところなのだ。(文・写真/加藤孔紀)



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Text By Koki Kato


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2020年1月21日(火) 、22日(水)
開場 18:00 / 開演 19:00


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LIVE NATION
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