東京と台北が繋がる夜
《BIG ROMANTIC LIVE 2021》イベント・レポート
<BIG ROMANTIC LIVE 2021>が開催された1月23日の天気は、雨だった。明け方から絶え間なく降り続く雨のせいで、外の寒さも殊の外厳しい一日だった。こんな日はあたたかい家の中で視聴できるオンライン配信ライヴが嬉しい。会場にも少人数の観客を入れる形で行われた今回の配信ライヴ・イベントは東京と台北、二つの都市の月見ル君想フを繋いでアーティストが交互に登場し、国を超えて演奏を披露するというこれまでにはあまりなかった形で行われた。
イベントは、出演者のDSPSエイミーとこたつに入ったMIZの二人がそれぞれの会場から短いトークを交わすところからスタートした。そのゆるゆるとしたやり取りからは、以前より交流があったという彼らのアットホームなムードが伝わってくる。そんなトークも束の間、緊張した面持ちでトップバッターとして登場したのはカワサキケイ。昨年秋に<TETRA RECORDS>からファースト・アルバム『ゆらめき』をリリースしたばかりのシンガー・ソングライターだ。時折ふと笑みを浮かべながら伏し目がちに歌う控えめな姿には、新人らしい涼やかさがあった。オルタナティブ・ロックやドリーム・ポップからの影響が伺えるアルバム音源に比べ、ギター1本で舞台に上がった今回のライヴは限りなく素に近い演奏だった。その中でも特に森田童子「ぼくたちの失敗」のカヴァーは、シンプルな演奏と彼の訥々とした歌声が繊細な歌詞にこれ以上なくマッチしていて、思わずズルいと感じるほどだった。
続いて、映像が台北からの中継に切り替わり登場した林以樂も、ヴィオラそしてチェロと共にアコースティックな編成で登場。シックなブラックの衣装とも相まって、どことなくノーブルな雰囲気の中で演奏された全5曲はどれも美しかった。ゆったりと肩の力が抜けたボサノバ調の「生命之歌(命の歌)」、ジャニス・イアンのような気高く力強い歌声が印象的な「另一張瞼(別の顔)」、病を患った妻と83歳で心中した哲学者アンドレ・ゴルツの名を冠した「最後一封情書(アンドレ・ゴルツの手紙)」のエモーショナルかつ甘美な演奏に私は心を強く掴まれて、知らずのうちに少し涙がこぼれた。林以樂のシングルにも参加している我是機車少女I’mdifficultのフロントマン凌元耕がチェロ、ヴィオラにはElisa Lin(林依霖)という盤石のバックアップによる繊細でロマンチックなライヴだった。
次に東京のステージに登場したMIZは、MONO NO AWAREの玉置周啓と加藤成順によるアコースティックデュオだ。隣どうし座る二人の歌声とギターが対等に鳴っている様は、バンドともまた違ってその親密さが心地よい魅力を放つ。同じ八丈島出身の二人の相互関係のその絆の強さ故に、彼らの音楽は少し遠くにあるように聴こえた。それでいてMIZの音楽は、私たちの生活や記憶とも地続きの懐かしさを帯びていて、観客と絶妙な距離感を保っていた。魔法の呪文のような「パレード」の祝祭感、「パジャマでハイウェイ」のセンチメンタルな響きは、いつかどこかであったかもしれない日常を思わせる。温かそうなセーター姿で「夏がきたら」「夏のおわり」を歌う二人は微笑ましく、終始リラックスしたムードで楽しませてくれた。
トリを務めたのはDSPS。日本語のMCも沢山披露してくれた彼らのライヴは親密な空気で満ちていた。意外にもアコースティック・ライヴを披露するのは初めてだそうだ。アンディーのベースとチキンのドラムが生み出すビートのグルーヴ、そして少し鼻にかかった甘いエイミーの歌声がアコースティック編成による飾り気のない演奏で更に際立っており、その豊かな演奏に胸を打たれた。「Folk Song for You」や「Catch Me Baby Come and Dive」といった彼らの得意とする爽やかなメロディーラインのギターポップも健在ながら、中でも「土耳其藍的夢」はアコースティックアレンジによって原曲の憂いを帯びたメランコリックなムードが更に引き立ち、とても感動的だった。
台北会場の窓から時折見える、外を行き交う現地の人々の様子も印象的だった。足早に歩いていく人も外からライヴをぞき込む人も、しっかりマスクを身に付けて確かに彼らの日常を生きていた。今まで想像もしなかったような現実に向き合い、適応し、生活を営むその実直な姿は、4組のアーティストたちが困難な状況下でも音楽に向き合い続け、音楽を奏で続けるその誠実な態度とも通じているのだと感じることができた。コロナ禍においても生活と音楽を繋げていく<BIG ROMANTIC LIVE>のこれからに大きな期待を寄せている。(Yo Kurokawa)
[写真提供:Big Romantic Records]
Text By Yo Kurokawa
会場
東京・青山月見ル君想フ(http://www.moonromantic.com/)
台北・台北月見ル君想フ赤峰店(https://www.moonromantictw.com/)
■関連記事
【REVIEW】DSPS『Fully I』 仲間の脱退がもたらした美しき約束の音