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BEST TRACKS OF THE MONTH – June, 2019

Brittany Howard – 「History Repeats」

ドラムがネイト・スミス。もうそのクレジットだけでこの曲がどういう位置付けにある曲かがわかる。現在44歳のネイトは、最も知られたところだとクリス・ポッターのバック・バンドでの活躍だが、ベースのデイヴ・ホランドと組んで活動していたこと、あのマイケル・ジャクソンに曲を提供していたことなどなど彼の輝かしいキャリアを語れば枚挙にいとまがなく、話題となった『Kinfolk: Postcards From Everywhere』(2017年)はもとより、もはや人力ブレイク・ビーツ・アルバムとも言える『Pocket Change』(2018年)を聴けば、この人が単なるジャズ系ドラマーではなく自らビートメイカーとして曲全体を捉えることができる総合音楽家であることに気づく。そんな彼の力量とセンスをこの人も相当欲したのだろう。ある意味ミニマル・ファンク(?)とも思える展開なき展開のこの曲が、アラバマ・シェイクスを一段落させた後のソロ第一弾であることはとても重要な事実だ。ストイックなドラム・ロールにタムを重ねていくイントロでまず「勝負あった」。柔らかな空気を含むクッション性高いビートに、自らのギター・リフをそこに散らばせ、リズミックに声をのっからせていく。すべてがリズムありき。そこに巻かれていきながらも過大な展開を与えず、ただただラウンドさせながら大きな畝りを作る方法論は、ブリタニー自身の声量と迫力あるヴォーカルを中心に回っていたアラバマ・シェイクとは本質的に違う(ベースはアラバマ・シェイクスのザック・コックレル。クラヴィネットもアラバマ・シェイクス時代からサポートしているポール・ホートンだが)。構造はシンプルだ。けれど、ネイトのドラムがいくつもの楽器の役割を果たすかのように一つ一つの音程を調整し重層的に聴かせるので、不思議とストイックな曲のはずなのにとても華やかに聴こえる。確かにグルーヴ・マスター然としたネイト・スミスのドラムが全ての景色を変えた曲だ。だが、「歴史は繰り返す」というタイトルさながらに、これとて実際は長い音楽の歴史が繰り返された結果、と伝えるような曲と言っていい。ファースト・ソロ・アルバム『Jaime』は9月20日リリース。今年後半最大の目玉になることはもう間違いない。(岡村詩野)

Claud – 「Wish You Were Gay」

もしかしたら“メロディー・オブ・ザ・イヤー2019”とも言える今年屈指の1曲かもしれない。プライド・マンス(6月)に発表されたことに大きな意味を持つこの曲は、NYはシラキューズ大学をドロップ・アウトして音楽活動に専念するようになったクラウド・ミンツによるソロ・プロジェクト=Claudによるもの。大学在籍時にトーストという名義でEPを制作し《Terrible Records》からリリースしたこともあるが、現在はソロ名義で活動。この曲の売り上げの100%をLGBTQ支援団体である《Trevor Project》に寄付することを公表するなど、マイノリティへの理解に向け行動的なアーティストだ。そのオープンな意識が驚くほどピュアなメロディに結実されたのがこの曲。ちょっとハスキーで拙いヴォーカル、愛らしい風合いも手伝って、素直に口ずさみたくなる、ある種プライド・マンスのテーマ曲になりそうなカジュアルな仕上がりなのがいい。しかも、曲の骨格がしっかりしているので、ピアノと少々のドラムを軸にしたシンプルな演奏でも全く単調になることがなく、むしろ百戦錬磨のキャロル・キングの孫世代の後継者という印象さえある。ビリー・アイリッシュにも同名曲があるが、ビリーは「あなたがいっそ同性愛者だったらいいのに。そうしたらこの気持ちを諦められる」と歌い、Claudは「あなたが同性愛者だったらいいのに。でもあなたはストレート」と歌う。まったくアングルが異なる上、Claudは歌詞の中でこう綴っているのだ。「should I accept things I can’t change」。つまりはそういう曲。理想と現実を二画面で描いたPVがあまりにも切ない。もっともっと多くの人に聴かれ、様々な愛の形が知られることを心から願っている。(岡村詩野)

Michael Kiwanuka & Tom Misch- 「Money」

60年代、70年代のオーティス・レディングやアル・グリーンを思わせるシンガーがマイケル・キワヌカその人だが、トム・ミッシュをプロデュースにむかえてリリースした「Money」は80年代のディスコ/ダンス調だった。近年ではタキシードがスタイリスティックス(『A Special Style』)やザップへのオマージュたっぷりにシンセベースやシンセサイザーが印象的なダンスミュージックを聴かせてくれたが、マイケル・キワヌカとトム・ミッシュはシンセベースではなくエレキベースをセレクトして本楽曲のサウンドを構築。オマージュを向ける先にある音楽は同じだが、プロデュース気質でDJも行うタキシードが音圧を重視したサウンドだった一方で、マイケル・キワヌカ、トム・ミッシュという二人のギタリスト/ボーカリストはプレイヤーとして楽器への拘りを見せた。ベース、ギター、ドラムといった楽器の、より肉体的な表現の可能性を探求する二人が再現した80年代のダンスミュージック、タキシードに対するUKからの回答にも思えた。(加藤孔紀)

Kim Sawol – 「Bloody Wolf」

韓国のフォーク・シンガーで、もし日本に何度も来日しているイ・ランを知っているならキム・サウォルも聴かない手はない(ソウル・ホンデのインディ・シーンに迫った映画『PARTY 51』の企画者パク・ダハムはキムのことを、そのイ・ランと何度も共演している柴田聡子に例えているそう)。キム・ヘウォンとのコラボ・アルバム『秘密』から、ソロ・デビュー作『Suzanne』、昨年の『Romance』まで出すアルバム全てが韓国大衆音楽賞でベスト・フォーク・アルバム部門を受賞している、韓国フォーク・シーンの若手最右翼なのだ。

MV中でキム自身が醸し出す雰囲気もそうだが、シンプルなスタイルながら、囁くような歌声やブリッジでのマイナー調の和音の進行が、曲名通り不穏な空気を作り出す。後半「誰でも気にしない あなたがほしい」と何度も何度も繰り返される歌詞を聴いているとそのウルフはまさに目の前に迫っているかのような。声の使い方は変わらずとも、過去作のアコースティック・ギターを爪弾くだけの優しいバラードと比べてみれば、その表現の幅の広さに脱帽してしまう。(山本大地)


Molly Burch -「Only One」

Molly Burchの曲は、変わらず良い。正直、彼女のスタイルは2017年のデビュー以降大きく変わってはいない。基本的には、カントリーやハワイアンを取り込んだヴィンテージ・ポップだ。バッファロー・スプリングフィールドを現代の女性がやってみたらというような趣きもある。エンジェル・オルセンなんかに比べると、楽曲のバラエティやジャズ・ヴォーカルをバックボーンにもつ歌唱も地味と言えば地味だが、ただマイペースに正統派の良曲を生み続けているという点では貴重な存在だ。

ただ本シングルでは、頑なにそのスタイルを続けてきたことによって生まれた、ある種の余裕を花開かせているように思える。ギター、ベース、ドラム、歌というシンプルな構成でゆったりと静かに始まりながら徐々に音量を上げ、オルガンを重ねていき、スケール感をたっぷりと湛えたところでスパッと冒頭の調子に戻り、潔く終わる。また、マラカスやロールを混ぜたドラムパートや、所々にコケティッシュな表現が聴けるようになった歌にもどこか遊び心を感じ取れるのだ。野に咲く花のようであった彼女はいつの間にか大輪の花となっていたのだ、と気づかせるようなそのささやかな変身ぶりに、静かに胸打たれてしまうのである。(井草七海)


Morrissey – 「Wedding Bell Blues」

冒頭のアップライトピアノが、軽やかさの一方で妙に翳りと湿り気を帯びていて、季節がら梅雨空や細雨を想起させるずいぶん6月らしいサウンドだなという印象を受けた。

モリッシーによるカバーアルバム『California Son』からのシングルは、ローラ・ニーロの1966年発表のシングル「Wedding Bell Blues」。ボブ・ディランやジョニ・ミッチェル、フィル・オークスなど60年〜70年代のアーティストのカバーを中心としたアルバムで、社会的にも独自のスタンスをとる信念をもったアーティストを多く取り上げているのがモリッシーらしいところ。クリアな発音で丁寧に歌い上げるのもまさにどこを切ってもモリッシーだが、ゴスペルのバックグラウンドをもつローラ・ニーロの楽曲は、特に、そんなモリッシーのスタイルとの親和性が高いように感じた。そして、同じ梅雨でも、雨粒を乗せた紫陽花というよりは、細かい雨が染み込んでいくアスファルトのような、そんな街の匂いを感じさせるのが、二人の音楽性に共通する部分とも言えないだろうか。歌詞の中で、”I was on your side Bill when you were loosin’”と歌う先のBillとは、モリッシーにとっては混乱を抱える今のイギリスに向けられているのだろうか。政治的な発信で賛否あるモリッシーだが、続くリリックの”I never scheme or lie “というのが彼の本質的な持ち味だろうし、ポートレイトという意味では、アルバム通しても、やはりまったく裏切らない1枚となっている。(キドウシンペイ)


sir Was – 「Deployed feat Lettle Dragon」

私が影の客演女王と呼ぶYukimi Nagano を擁するリトル・ドラゴン。リトル・シムズ「Pressure」、フライング・ロータス「Spontaneous」に続き今年3作目となる客演作がリリースされた。これまでもゴリラズ「Empire Ants」(2010)やSBTRKT「Wildfire」(2011)など彼女の歌声は楽曲のアクセントとして大きな役割を果たしてきた。これらの客演作は、ここ10年というスパンで見ても重要作であり、彼らのクレジットは、まさに品質保証書のようなものだ。

本作は、リトル・ドラゴンの拠点でもあるスウェーデンはヨーデボリ出身のプロデューサーWästburgによるプロジェクトsir Wasによるセカンド・アルバム『Holding On To A Dream』からのリードシングル。物思いにふけているような響きがある彼女の歌声は、アルバム・タイトルである“夢を掴む”というフレーズが持つポジティヴだけじゃない側面にも焦点を当てているようだ。しかし、ラストの彼女の加工された歌声とシンセサイザーの掛け合わせでもたらされる高揚感には、その上でも夢を掴みに行った方が面白いのではと前向きな気分にさせてくれる。彼らの客演作に外れなしが、また証明された。(杉山慧)


けもの – 「ただの夏」

女性シンガー青羊のソロ・プロジェクトによるミニアルバム『美しい傷』に収録のナンバー。「重ねた左の薬指 少し痛いな 好きな人を、好きになってしまうのってだめかな」と、これが道ならぬ恋であることを大胆に打ち明ける歌詞が、安直なゴシップに墜することなく、アンニュイな透明感を持つ物語として成立している。

その要因は青羊の神々しい歌声はもちろんのこと、西田修大(ex.吉田ヨウヘイgroup・中村佳穂バンド等)や石若駿(CRCK/LCKS、くるり等)といった俊英ミュージシャンによる、禁じられた感情の抑制を完璧に表現した演奏によるところも大きい。特に西田のギターとトオイダイスケのエレピが醸し出す、破ることのできない膜の向こう側で鳴るような音像はこの曲の影の主役と言っても過言ではない。

なお、スカートの新作『トワイライト』のジャケットでも話題の漫画家・鶴谷香央里のイラストを用いた7インチ限定バージョンではデュエットのパートナーとして東郷清丸をフィーチャー。mei eharaとの共演でも見せた彼の高い表現力によって、この曲が持つドラマ性がより深まっている。R-30のサマーアンセム。暑さがピークを迎える前にレコード店に足を運んでほしい。(ドリーミー刑事)


Text By Dreamy DekaShino OkamuraKei SugiyamaDaichi YamamotoNami IgusaKoki KatoSinpei Kido

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